#11 「おかえり。ねーちゃん」

「ただいま〜!!」


フレークベースシティのとあるマンション。

5階に住むカオリは帰宅した。


「おかえり。ねーちゃん」


玄関から迎えてくれたのは中学生くらいの男の子。彼は車椅子に座っている。


「ごめんね。遅くなっちゃって・・・。本当は早く帰るつもりだったけど」


「いや、大丈夫だよ。全く、俺を口実に早退なんてしなくていいんだよ? ねーちゃんが今必要なのは、勉強なんだから」


弟は軽く冗談めいた笑いをする。

カオリは車椅子を押す。


「言ったな〜? 夕飯は大好きなハンバーグだけど・・・どうしよっかな〜? ピーマンに詰めちゃう?」


「あ!! きったねーぞ!! だがしかし、ピーマンはみじん切りにしてハンバーグにコネておいたから後は焼くだけだ」


「な!!? もー。おねーちゃんがせっかく作ろうと・・・」


「へへ! ねーちゃんには苦労かけてるからな」


「ありがと。ハルキ。 後はおねーちゃんに任せてね!」


二人はリビングに入り、夕食の支度をする。


食卓に並び終えて、二人は夕食をとり始める。


「行っただきまーす!!」


ハルキはピーマンの入ったハンバーグを勢いよく口に入れる。

彼はピーマンが苦手だが、みじん切りにすれば食べれるようだ。実はもう克服できているみたいで、ピーマンに詰めないのは彼のこだわりだ。

さすが育ち盛りで直ぐに平らげてしまった。


「よく噛んでね」


「よく噛んだ・・・。それよりねーちゃん」


「何?」


カオリはパンに挟んだハンバーグに齧り付く。


「今日は、ねーちゃんの学校大変だったね。ねーちゃんが無事で良かった」


テレビにはちょうど、フレークベース学園で暴れ回ったアクムーンという怪物のニュースを報道していた。


「それにしても、かっこよかったな〜。魔法少女みたいなのが出てきてやっつけていくんだから・・・・・・まるでアニメみたいだ。スゲ〜!」


映像に映る二人が映る犬神少女を見てハルキは感激していた。

その様子を見て、カオリは満更でも無い、嬉しそうな顔をした。


「何笑ってんだよ?」


「あ、いやなんでも無いよ」


「ははーん! さてはしばらく休校だから嬉しいんだね?」


怪物アクムーンビーストが暴れて、学園は修復のため一時休校となったのだった。


「そうそう、明日からバリバリバイトで稼がなくちゃね! ハルキ、片付けしたらリハビリ手伝うね」


「うん。ありがとう。リハビリも良いけど。ヘビメタファイターズの大会も近いんだ。リハビリ後は対戦相手になってくれるよね?」


「オッケー! 今度こそ勝つよ。私のキャプテン・タングステンで」


「俺のビートアイアンに勝てるかな!?」


ハルキは足が不自由だが、手先の器用さはピカイチだ。幼い頃からテレビゲームでいっぱい遊んだが、今では弟に勝てないくらい強くなっている。

そうハルキは自慢の弟。幾度の大会を制覇するプロゲーマーだ。


☆☆☆

翌朝、ぐらたんはフレークベースシティを徘徊していた。

未明にサタナキア閣下に定期報告をして、目にクマが出来ていた。主不在の使い魔が一人ウロウロするのはまずい。安易に旅館やホテルにチェックインしようものなら、治安隊に捕まり冥界ヘルヘイムに強制送還だ。野宿で一晩過ごした。見つからないのも魔力が封印されて人間の姿のままであるのが幸いか。


「お嬢様・・・」


ウンギャンとアギャンは心配そうに後をついてくる。


「空振りだったけど仕方がない。次はあの虫を捕まえなくては・・・」


その時、ぐらたんのお腹がなった。


「・・・・・・その前に何か食べよう・・・」


「「承知!」」


喫茶店を見つけたので、ぐらたんたちはそこで朝食を取ることにした。


「いらっしゃいませ!! え!!?」


聞き覚えのある声にぐらたんも驚いた。


「え!!? カオリちゃん!? どうしてここに?」


ウエイトレス姿のカオリが前に立っていた。


「ええ。 私ここでバイトしてるの。それにしても奇遇だね! 安くするよ!」


その時、カウンターのマスターが咳き込む。


「カオリ君。友達と会えて嬉しいのは分かるが、そういうサービスは勝手にしないでくれ」


注意されカオリはかしこまる。


「申し訳ございません!! 一名様ですね。お好きな席にどうぞ」


席につき、テーブルには水が入ったコップが3つ置かれる。その間ぐらたんはメニューを見て注文した。


「えーと、ホットサンド3つと、ホットイチゴラテ」


「ホットサンド3つで、イチゴラテ1つ、ホットでオーケーね」


カオリは注文を受け、ホットサンドを厨房に依頼した。自身はイチゴラテをカップに注ぐ。

直ちにイチゴラテをぐらたんに渡した。


「それにしも、またぐらたんに会えるなんて! どうしたの? ちょっと疲れ気味?」


うなだれてるぐらたんたちを心配そうに声をかける。


「それが・・・かくかくしかじかで・・・泊まる所がないギャン・・・・・・」


アギャンは水を飲み、氷をガリガリかじりながら話した。


「それは大変! うーん。どう? 良かったらウチにくる?」


「え? いいの?」


「もちろん! 困った妹はほっとけないよ。それに・・・」


「? どうしたギャン?」


「いや、なんでもないよ。遠慮しないでうちに来て」


「じゃあ、遠慮なくお邪魔します。ありがとう、カオリちゃん」


「カオリちゃん、恩にきるギャン」


ぐらたんとウンギャンは礼を言った。

船虫やネビロスの手がかりが見つかるまで、カオリの家に泊まることになった。少し疲れが癒せることに安心感が出てきた。


「カオリ君、他の方の注文運んでくれ!」


「はい! ただいま!!」


カオリはカウンターへ駆けて行った。

するとマスターがホットサンドを持ってきてくれた。


「あんなにはしゃいでるのは初めて見た」


ホットサンドをテーブルに置く彼から声が漏れた。


「!?」


「・・・いや、ごめんよ。あの子は、元気で明るく一生懸命な子だ。 弟くんのために、学校生活を犠牲にしてまで私の所で働いて来てくれる。だけど、よっぽど嬉しかったんだろうねキミと会えて」


ぐらたんはマグカップを静かに置き、微笑む。

すると、イチゴショートケーキがおかれた。


「キミ・・・あの怪物と闘っていた魔法少女だね・・・・・・うちの娘がとても憧れていてね。街を守ってくれてありがとう。こいつはささやかな私からの奢りだよ」


「あれ? そういうサービスはしないんじゃ?」


マスターはボソッと小声で答えた。


「カオリ君には内緒だよ」


「ありがとう。おじさん」


任務のため仕方がないが、人に感謝されるのは悪い気はしない。

ぐらたんはホットサンドを口にする。

マスターは笑顔だったがおじさんと呼ばれ少しショックだったようだ。


☆☆☆

「今日はねーちゃんは働き詰めだから遅いな・・・。よーし」


ハルキは自室で、秘密の特訓を開始する。

フットサポートから足を床に下ろして、

両手は車椅子のひじ掛けをしっかり掴んだまま、腰を浮かせる。

膝に力を入れる。徐々に、支える腕の力を抜いて脚に体重を委ねる。


「ぐっ・・・」


精一杯踏ん張りを入れるが、自重を支える筋力はない。内紛の後遺症らしい。


物心ついた時にはミンティーフォレストに引き取られており、両親の顔は知らない。血の繋がりはないが犬のカオリねーちゃんと一緒に暮らしていた。村長やはっちゃんの勧めで、人里に暮らすことになった。

生まれたばかりの記憶は全くないが脚に深刻なダメージがあったようで、神経がほとんどやられてたそうだ。はっちゃんの治療のおかげで両脚を失わずに済んだが、このざまだ。俺が、僕がしっかりしなくちゃ。ねーちゃんが自由になれない。


「ダメか・・・」


一気に脱力し、車椅子にストンと座り込む。

気を取り直し、いつものように束ねた雑誌を脚の甲に置いて、グッと脛を上げようとする。

踵は数センチしか上がらないが、着実に筋力はついて来てる。


小さな一歩だがいつかきっと自分の足で立ってみせる!


ハルキは自主トレを進めているうちに、ベランダからゴソゴソと物音がした。


「ん? なんだ?」


ハルキは窓まで車椅子を転がした。カーテンを開けると、真っ黒なダブダブなコートをきた女の子が倒れていた。

見知らぬ少女がベランダにいて、ハルキはビクッとする。

見知らぬオッサンじゃないだけマシかと思い、ハルキは窓を開けた。


「お前、こんなところで何やってんだ!?」


黒装束の少女はグッタリとしたまま、


「メシ・・・・・・何か食いモン・・・」


ハルキは呆れた様子で倒れている子を見つめるが、放っておくこともできないので引っ張り上げることにした。


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