#10「イヌガミカン、参る!」

鋏虫型ビーストに振り回されて苦戦しているミント。ロッドを落としてしまい、反撃できない。

その様子を見てウンギャンは叫ぶ。


「ああ・・・ミント! おねーちゃん!」


その横でカオリが言葉を漏らす。


「だめなの・・・犬神少女の武器は出力器なの! 安全に神通力を使うための・・・」


カオリは校舎に駆け出す。


「カオリちゃん、キミは一体!?」


すると人間離れした跳躍力で屋上まで飛び上がった。


「え!!?」


慌ててウンギャンは後を追った。

校舎の屋上に降り立ったカオリは、逃げ遅れた女子生徒に駆け下り声をかけた。


「大丈夫?」


「う、動けないの・・・」


カオリは女子生徒を背負う。カオリの頭から三角耳と、スカートの裾からふさふさの尻尾が生えていた。


「カオリちゃん!?」


「驚かないでね・・・私、犬の妖精クー・シーなの・・・」


「じゃあ、ミンティーフォレストの村長が言ってた子って、キミだったギャン!?」


「え!? 探してたの私!? ・・・そうだったの?・・・アレじゃわかんないかな~。ちょっと我慢してね」


背負った生徒に言い聞かせて、ピョンと屋上から飛び降りた。


「カオリー! その姿!!」


それを見て他生徒や先生が駆けつけてきた。


「バレちゃったか~。私、妖精なの。いや、それどころじゃない!! 私の可愛い後輩がピンチなんだ!! とーー!!」


助けた生徒を先生たちに任せて、カオリは再び屋上に飛び上がった。


「ウンギャン! ミンティーフォレストの村長から頼まれたんだよね!? それじゃあ・・・」


「ウン! カオリちゃん、お願いするギャン!」


ウンギャンはイヌガミギアを取り出した。カオリは受け取る。


「ティーナ村長。お借りします」


カオリはイヌガミギアを被った。三角耳が生えているのに、さらに三角耳のついたカチューシャを被るくどさにツッコミを入れてはいけない。


「イヌガミライズ! マジカル・イヌガミカン!!」


カオリは黄色い光に包まれる。そして光の中から現れたのは、金色の髪と尻尾、白と橙が基本色のクノイチのようなドレス姿の犬神少女イヌガミカン。


☆☆☆

一方、ビーストの尻尾のハサミに捕まったミントはずっと振り回され続けていた。


「う~~・・・気持ち悪い・・・」


ミントの目が回る。流石によってきた。


「ひひひ、どうだ? 命乞いをすれば、ネビロスの命は助けてやらんこともないぜ!」


くっそ~~! 虫め、調子にのって・・・かくなる上は、魔力解放を試してみるしかない。ギアがまた壊れてしまうかもしれないけど・・・


「マナ・・・アイドリング、リリーーーー・・・・・・!!?」


ミントは変身した上で禁断の魔力解放を試みようとしたが、その前にビーストの尻尾が切れた。そのまま遠心力でミントは飛ばされていく。その中でミントはハサミをこじ開けてようやく脱出した。両手をつく形でグラウンドに着地する。


一体なにが・・・


ミントとビーストの間に割って、飛び降りてきたのは新たな犬神少女。


「な、何!? 犬神少女が増えただとお~!!」


船虫は驚愕した。


「カオリちゃん!?」


「ミント、またせたね。後は私に任せてちょうだい! イヌガミカン、参る!」


カオリが変身するイヌガミカンは、小太刀シトラスブレイドを構える。


「クソ、聞いてねーぞ! やれ!! アクムーン!!」


「あくむーーーん!」


ビーストは再び尻尾を再生させて、ミカン目掛けて尻尾を叩きつける。

衝撃でグラウンドの土が激しく跳ね上がる。手応えがあったように見えたが、蜜柑の葉があたりに散らばっていただけで、ミカンの姿がない。


「な・・・どこに行きやがった!」


「はあ!」


ビーストの左側から流れるようにミカンの一太刀が浴びせられる。そして四方から、駆け抜けざまにどんどんと切りつけていく。流れるようなミカンの動きに翻弄されビーストは反撃する間がない。

ミカンはビーストを蹴り上げ、巨体を宙に浮かばせた。


「そろそろ決めるわ! イヌガミック・ドライブ!!」


シトラスブレイドの刀身が黄色く輝き、同時にドレスの各部が発光する。


「シトラスカット・ストライク!!」


ビーストめがけて飛び出し、黄色い閃光と化したミカンは斬り抜ける。

一筋の光の中でビーストはスッキリとした顔で浄化され、残った結晶体が弾け飛ぶ。


「くっそーーー! 2度ならず3度まで!! 仲間を呼ぶとは卑怯者めえ! 覚えてろーーーー!」


船虫はお決まりの捨てゼリフを履いて、跳び去って行った。

変身が解け、フラフラしながらもぐらたんは立ち上がった。


カオリも変身を解く。栗色の髪に三角の耳が残ったままだ。


「カオリ! まさか!!」


アギャンもようやく目が覚めて飛び起きた。

ウンギャンが後から飛んでくる。


「そうです。お嬢様、おねーちゃん。村長が言っていた子です」


「ぐらたん! ごめんね。黙っていたつもりはなかったんだけど。私のことを探してたなんてわからなかったよ。改めてクー・シーのカオリだよ」


「そーだったのか! てっきり、森の妖精たちと同じ種族だと思ってた」


「カオリ! 村長のお願いで、攫われたお嬢様の主を助けるためにアクムーンていう魔物と戦ってくれるギャン?」


「・・・・・・」


「カオリ?」


アギャンは黙り込むカオリを見上げる。

彼女の顔は何とも言えないような複雑な表情をしていた。そしてミカンのイヌガミギアを差し出すのであった。


「ごめんなさい・・・・・・力になりたいのは山々なんだけど、私には・・・」


「そんな、カオリちゃん・・・」


ウンギャンは悲しげな顔で引き止めようとするが、ぐらたんに止められる。


「ダメだよ・・・人には事情がある。無理強いはしちゃダメ。カオリちゃん、今回は助かったよ。こんなことになっちゃたけど、学校見学楽しかったよ。それじゃあね」


ぐらたんはイヌガミギアを受け取り、ウインクした。


「うん。ごめんね、力になれなくて……。大事なことだろうけど頑張ってね」


ぐらたんはニコっとしてそのまま高校を立ち去った。

カオリは寂しそうな笑顔で見送るのであった。

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