#09「実は見学の他に、ある人を探してここまで来たんだけど」

ここはフレークベース大学附属高校。広い大学キャンパスの隣に高校校舎、中学校校舎が見える。グランドには体育の授業を受けている生徒達がいる。


カオリに連れられて、高校校舎に入る。


綺麗な玄関の奥に廊下が続き、教室が奥まで並んでいる。ぐらたんは帝立魔導学園にいた頃を思い出す。




初等部の頃の友達は今どうしてるだろうか・・・




すると、ジリリリリリッと授業の終わりを告げるベルが鳴った。すぐ手前の教室から女子生徒が出てきて話しかけに来た。


「あれ、カオリ? 早退したんじゃ? どーしたの?」


「忘れ物して戻ってきたんだけど・・・」


カオリと女子生徒が親しげに話す様子か、彼女のお友達のようだ。


カオリの友達がぐらたんに気づく。


「あれ~、この子は?」


よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、ぐらたんの両肩に触れて前に出す。


「ぐらたんだよ。学校に戻る途中にあったの。学校見学だって! 未来の後輩だよー」


「わあ! 可愛い。どこから来たの!? 中学何年生?」


ぐらたんたちに女子生徒が集まった。


「先生、先生! 校内案内してきます。いいですかー?」


「今日はホームルームないから行ってきなさい」


教室の中から先生の返事が返ってきた。




☆☆☆


数人でワイワイしながら校内を見てまわった。


校内を見てまわったが結局、妖精らしい子は見当たらなかった。他の友達は所属する部活動紹介して、そのまま部活に参加して別れていった。


一通り見て回ったので、ぐらたんたちはいったん職員室まで戻ってきた。


ぐらたんはカオリに話しかける。


「ねえ、カオリちゃん。実は見学の他に、ある人を探してここまで来たんだけど」


カオリは道中で自動販売機で買った紙パックのジュースにストローを刺しながら、聞き返した。


「ん? どんな人?」


「え~と・・・背が低くて、森に住んでそうな・・・?」


「え、ええ~!? ワイルドな子ね・・・うーん、そんな子いるかな~」


カオリはぐらたんの言葉から人物像を思い描くが、全く心当たりがなさそうな感じだった。


「お嬢様。生徒ではなく、もしかすると先生なのかもしれないギャン」


そう言いながらウンギャンは職員室のドアの小窓を覗く。


「そんなわけは・・・」




妖精ならもっとすぐに目につくはず。




その時、ズンと外のほうで大きな音が振動と共に鳴り響いた。


アギャンは廊下の窓から外のグラウンドを覗く。


「あ、あれは!!?」


ぐらたんも窓の外を覗く。グラウンドには、逃げ惑う生徒や先生が。そしてその後方には巨大な魔物の影。アクムーンビーストに違いない。


校内の生徒たちも騒ぐ中、先生たちが落ち着かせて安全な場所へ先導していく。


「あの虫! 性懲りも無く!! アギャン、ウンギャン! 行くよ!!」


「「承知!!」」


ぐらたんがグラウンドの外へ駆けていくを見てカオリは追いかける。


「ぐらたん! どうする気!? 危ないよ!!」


ぐらたんは振り返る。


「私の心配はいいよ! カオリちゃんは安全なところに! 先生の指示に従って!!ウンギャン、カオリちゃんについて行ってあげて!」


「承知!」


ウンギャンはカオリのもとへ飛んでいった。


ぐらたんはグラウンドに駆けていく。




「またオマエか!!」


グラウンドには巨大な鋏虫の姿をしたアクムーンビーストが居た。


船虫はビーストより後ろの、グラウンドの隅にある時計塔の屋根に立っていた。


「出たな犬神少女! 今度こそ引導を渡してやるぜえ!!」


「こっちのセリフだ! イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント!!」


ぐらたんはイヌガミギアを被り、イチゴミントに変身した。


ミントはビーストに立ち向かっていった。


「ぐらたんが!? 犬神少女に・・・?」


「カオリちゃん? 知ってるギャン?」




避難するカオリがミントの姿を見て驚き、足を止める。その横でウンギャンは意外そうな顔をした。




☆☆☆


鋏虫型のビーストは尻尾の巨大なハサミをミントめがけて振り下ろす。


ミントはすかさず跳躍して回避した。地面は尻尾のハサミによりえぐれて、土煙を巻き上げる。


ビーストが尻尾を引き戻すとハサミに大きな岩石の塊が挟まっていた。その岩石をミントに投げつける。


「ふぇ!? ミントエスカッション!」


ロッドを構え、光の盾を展開したミント。岩石は盾に阻まれて粉々にはじけ飛んだ。


そして展開中のミントエスカッションのポジションを変えて攻撃に転じた。


「ミントスラッーーーシュ!」


ロッドを振るい、高速回転したミントエスカッションをビーストに投げつけた。


飛んで行った光の円刃はビーストの尻尾を切断した。


「やった!」


近くで戦闘を見ていたアギャンはガッツポーズをした。




これで攻撃手段はなくなった。




ミントは着地して、とどめを決めようとした。


「あ、あくむーーーん!!」


尻尾の失ったビーストはどうしようもなくなり、ミントに向かって突進した。


「うわっ!!」


ミントは横に跳んで間一髪避けたが、ビーストはそのまま校舎に突っ込んでしまった。


ぶつかった衝撃で破片があたりに飛び散り土煙が巻き上げられる。


2階、3階だろうか、校舎の一部が崩れ玄関口を押しつぶした。生徒はすでに避難して無事なはず。


「が、学校が・・・」


避難して生徒たちをまとめていた先生が愕然としていた。


「なんて奴なの!?」


後ろを振り返り、ロッドを構えなおすミント。


瓦礫を弾き飛ばしビーストが校舎から出てくるところを見ていたが、屋上に人影が視界に入っていた。


「たっ、助けて~」


逃げ遅れた女子生徒が屋上にいたのだ。


「おやおや、逃げ遅れた奴がいるな・・・」


船虫はその様子を時計塔から傍観していた。


恐怖で動けなくなった生徒を助けに向かったミントだが、ビーストの再生した尻尾のハサミに捕らえられてしまった。


「しまった!」


掴み上げられた際、ミントロッドを落としてしまった。


「ひひひ! 捕まえたぜ! おっと、無駄な抵抗はするな! あの屋上の子もそうだが、オマエの主の命がかかっているのを忘れては困るぜ! そこのちっこいガーゴイルモドキもだ。動くんじゃねーぞ?」


「なんだとお!? ネビロス様に手を出してみろ! ただじゃ・・・その触角引っこ抜くぞ!!」


「あ~? なんだって? 痛めつけてやれ、アクムーン!」


ぎゅ~っとハサミの締め付けが強くなる。


「うっ・・・くう~・・・」


そしてミントをブンブン回し始めた。


「わわわわわわわわわわわわわわあ~~!!」「ギャン!!」


傍にいたアギャンが薙ぎ払われ、地面に落ちると目を回して気絶した。




アギャン!? よくも・・・




「ミント~・・・スラッシュ~~~」


反撃しようと呪文を唱えたが何も起きない。


「ええ~~、うそおーーーーー!!?」


突然呪文が仕えなくなったことに驚愕する中、ミントは円を描くように振り回され続けるのであった。

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