#07「今回はオマエの相手してる暇はねえ!」

ハッカタウン駅前。




黒い死神の衣を纏った少女船虫は、乗車券を買った。この町で犬神少女と戦ったので、まずはマナ収集に邪魔されない他の町をターゲットにするためだ。そして次に犬神少女に引導を渡す。




それはさて置き・・・


ドルチェル特急。時速110kmで走行する。力強く車輪を回すモータの音、リズミカルに鳴るレールを走る音、車内で伝わる振動・・・以前から乗りたかった列車だ。実際自分が走った方が圧倒的早くフレークベースシティに着くが、ゆっくり車窓を眺めながら向かうのも乙なものだ。


鉄道か・・・昔あるじが電気駆動から魔導駆動の列車を主流にしたくて研究に躍起になってたこともあったな・・・




「へっ、そんなことはもういいさ。今から恐怖を運ぶ列車になるのだからな! ひひひひひ」


船虫は購入した乗車券を改札に通そうとした。




☆☆☆


ちょうどその時、ぐらたんはハッカタウン駅の券売機のそばでキョロキョロしていた。


「・・・・・・駅員さんがいない、どこで切符買えば・・・」


「駅員どこに行ったのでしょう? サボりギャン?」




魔界とは違い駅員がいない寂しい場所だ。それに改札も切符を切る駅員がいない。


ネビロス様と電車に乗る機会も無かったし、どうすれば・・・




「テメー何チョロチョロしてやがる! 切符を買ったことねーのか!? どこぞのお嬢さまかよ! ちょっと見せてみな」


後ろから声がしたので、ぐらたんは振り向くと、


「あ!」「げっ! 犬神少女!!」


船虫とばったり会ってしまった。


「キサマは、虫! ここであったが百年目!! 今日こそネビロス様の居場所をはいてもらう!」


「船虫だ!! ち、今回はオマエの相手してる暇はねえ! ていうかオマエ、切符買ったことねーのか!!? ちょっとどけよ。ここにお金入れる! で、どこまでだ?」


硬貨を入れた後ぐらたんは赤面し頬を膨らませ、ムスッとした顔で静かに答える。


「フレークベースシティ・・・・・・」


「・・・。(行き先までいっしょかよ!?)」


船虫はツンツンと該当する値段のボタンを指さす。


ぐらたんは誘導されるままにボタンを押した。


彼女の荒っぽい指導のもと、券売機から切符を買うことができた。


「へえ、人間界はこーゆうとこ便利になってるのね。でも駅員が居ないのはちょっと寂しいかな。でもでも、ありがと」


関心と寂しい思いの入り混じった感情の中、初めて自動券売機で買った切符を眺める。


「船虫、どうして我らを助けてくれたギャン?」


ウンギャンが聞くと、


「へっ! 勘違いすんなよ? ただモタついてるヤツを見てるとイライラすんだよ」


船虫は大きく派手な乗車券を取り出し、改札をくぐろうとする。その大きな切符にぐらたんは注目した。


「オマエの切符なんか派手だな」


船虫は振り返り、得意げに答えた。


「コイツは特急の切符だ」


ホーム内に停車してる赤い豪華な列車を親指で指した。


「へえ! 私もあれ乗りたい」


ぐらたん達は船虫に視線を集める。


「・・・。クソが!」


船虫は券売機へと戻ってきた。




☆☆☆


レクチャーのもと、購入手続きを進めていると、


『王都行き、ドルチェル特急124号発車します』


アナウンスが流れた。


「あーーーー!!」


すると赤い列車が出発してしまった。ぐらたん達へのレクチャー中、船虫は置いてかれてしまった。レクチャー以外、無駄な蘊蓄も話したせいでもあるが・・・


「ちくしょーー! キサマら~!! 予定変更だ。まずキサマらか始末してやる! 出てきやがれ、アクムーンビースト!!」


船虫はアクムーンの結晶を掲げると、巨大なオケラのビーストが出現した。以前のムカデ型よりは小さめだ。


「あくむーーーーん!」


「お嬢様!!」


ウンギャンがうろたえる。


「わかってる! イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント~!」


赤い光に包まれ、ぐらたんはイチゴミントに変身した。


「あくむーーーーん!」


ビーストはミントに飛びかかる。

ショベルのようなゴツいカギ爪のついた腕で攻撃しようとするのをミントは後ろに跳んで回避する。


「ミントスラッシュ!」


ミントはロッドから光の円盤状の刃を飛ばす。高速回転したエスカッションがビーストに飛んでいくが、


「アクムーン! かわせ!!」


船虫の指示でビーストは地中に潜った。


ミントスラッシュはえぐれたコンクリートに当たり弾け飛んだ。


「潜った!?」


着地したミントは地面を見回す。地中を移動する振動が足に伝わってくる。


どこから出てくる?


「ミント! 後ろ!!」


空中にいるアギャンが叫んで知らせると、後方から勢いよくコンクリートとアスファルトの破片を撒き散らし、土煙を上げる。


「な!?」


地中からビーストが飛び出すが、ミントは反応が遅れた。飛び散る破片から咄嗟に腕で防いでしまい、敵本体からの攻撃に反応できなかった。ビーストのかぎ爪がミントを薙ぎ払う。


「ぐえっ!」


勢いよく吹っ飛ばされたミントは駅の券売機の側に叩きつけられ、駅の壁がクレーターのようにえぐれた。クレーターからミントはずれ落ちて座り込む。


「う・・・・・・いたたた・・・」


「「ミント!!」」


アギャン、ウンギャンが心配して叫ぶ声にも反応せず、そのままゆっくり立ち上がる。


「ひひひ、どーだ!! 流石に地中からの攻撃は見切れねーだろ!!」


券売機の傍にある小窓が開き、中から駅員の顔が覗く。


「ひ、ひ~!!」




駅員・・・いたのか!!




「駅員さん、逃げて!!」


中の駅員に声をかけたが、腰を抜かして倒れてしまう音が背後から聞こえた。


ビーストは飛びかかり攻撃してくる。この状況で避けることは許されない。


「ミントエスカッション!!」


ロッドから回転する光の盾を展開した。カギ爪と結界が激しく衝突し、火花を散らす。


「く・・・!」


ビーストのパワーは強く、ジリジリと押し返される。


すると突然、


「アクムーン!! やめろ、引け!!」


ビーストは船虫からの指示を受けて、バックステップをして距離を取った。船虫の不可解な行為に一瞬疑問に思ったが、今は戦いに集中する。


ミントは再びミントスラッシュを唱え、ロッドに纏わせる。そして、今度はミントがビーストに向かって飛び出して先端に高速回転させた光刃を振り下ろす。


ビーストは左腕で防いだが、流石に防ぎきれずにビーストの左腕が宙に舞う。切り返した後、すかさずロッドを横に薙ぐが避けられてしまった。


不利になってきたビーストに、船虫は指示を出す。


「もう一度潜って腕の再生だ。チャンスを待て!」


ビーストは地面に潜った。


「ミント、気をつけるギャン! また下から攻撃してくる」


「そんなことは・・・」




地面から伝わる振動、さっきのタイミング通りなら! ・・・今だ。




「わかってる!!」


ミントはその場から高く跳躍した。その後にビーストが地面から飛び出す。


敵を見失ったビーストは当たりを見回すのだった。


「アクムーン! 上だ、上!!」


「イヌガミック・ドライブ!!」


空中でロッドを構えて、神通力を高める。ドレスの各部が赤く発光し、ロッドに光が集中する。


ビーストが上に気づいたがもう遅い。


「ミント・リフレッシュ・トルネーード!!」


光と共に放たれた渦がビーストを包み込む。


ビーストはうっとりとした顔で光の粒子となり、残った結晶体が弾け飛んだ。


「「やったーーー!!」」


双子の眷属はハイタッチして歓喜する。


「くう~~!! またしても!! 覚えてろ~~!!」


戦力を失った船虫は、目にも止まらぬ速さで電柱の上に飛び移り、そのまま別の電柱に飛び移り、去っていった。


「ふ~・・・」


ミントは変身を解除した。


ウンギャンが駆け寄る。


「お嬢様、お怪我は?」


「私は大丈夫。たいしたことはないよ」




それにしても、今回もネビロス様の居場所を引き出せなかった。それに今回の奴の行動が不可解だった。




ぐらたんは、船虫が去っていった方向をただ見つめていた。

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