# 04「イチゴミント」

船虫は木の枝の上で、精霊の里の様子を伺っていた。妖精たちが遊んでいる。


「なんだ? お祭り騒ぎか? まあいい、そろそろ頃合いだぜ。出てきやがれ、アクムーンビースト!!」


船虫はアクムーン結晶体を掲げる。紫色の光を放出すると巨大なムカデ型のビーストが出現した。なんだかやる気が無い。眠たそうだ。


「けっ! まだダメージを引きずってんのか!」


船虫はビーストのお腹を軽く二度蹴る。


びっくりしたビーストはようやく目が覚める。


「あくむーーーーーん」


村の前に現れた巨大なムカデ。昨日ハッカタウンで現れた化け物だ。


「あ、あれは!! アクムーンの!!」


アギャンは見上げる。頭の上にはあの死神の少女もいる。


「なんだ? キサマらもいたのか! ちょうどいい。まとめて仕返しができるぜえ!! やっちまえアクムーン!」


「あくむーーーん!」


ビーストは大顎の間から火球を作り出すと、そこから淡い赤色の炎が吹き出した。炎は森の草木を飲み込んでいく。迫りくる炎に、妖精たちは大騒ぎで逃げ始めた。


慌ててアギャンは魔術を発動させて、消火を試みる。


「く、なんてことをーー!! アクアプリズン!」


水の球体が風船のように膨れ上がり、燃える樹木を覆った。一本の木は消火できたが、周りの火の勢いは衰えない。


「みんなこっちだギャン!」


火の手の周りが少ない箇所を見つけ、ウンギャンは妖精たちを安全な場所に誘導する。


「犬神少女はどーした? キサマらじゃ、物足りねーな! やっちまえ、アクムーン!」


必死に消火作業を続けるアギャンにビーストが迫る。気づくのが遅れたアギャンは何もできず怯えてしまう。


「あわわわわわわわわわわ!!」


「おねーちゃん!」


ウンギャンが叫び、アギャンが絶体絶命の時、


天から雨が降ってきた。すごい量だ。雨は森を潤した。炎の勢いはたちまち衰えて、完全に鎮火した。雨雲はすぐに去り、青空に虹を作った。


「ワシが取り込み中によくもやってくれたのう!」


虹の中から現れたのは緑の毛に覆われた龍。はっちゃんの真の姿。そして龍の背中から飛び降りてくるのは、黒いローブを着た少女。


「「お嬢様!!」」


アンギャンの前に着地した。


「ごめん。待たせた」


「やっと出てきたかー! 犬神少女」


ぐらたんは船虫の方に向く。


「この・・・虫!! ネビロス様はどこにやった!? それと、みんなの町をめちゃくちゃにして・・・・・・許さないぞ!」


「船虫だー!!」


船虫は触覚をピーンとさせて、怒りをあらわにした。


ぐらたんはイヌガミギアを被り、


「イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント!」


赤い光に包まれる。そして変身した姿のイヌガミントが現れる。


「・・・! 赤い・・・・・・イヌガミント」


ウンギャンが思わず声を漏らす。緑と白が基本色のイヌガミントが、赤と白が基本色のドレスに変わっていた。ドレスも少々デザインが違う。髪の色もミントブルーからピンク色に変化している。


「色くらい変わろうが!!」


船虫は叫んで手振りで指示を出すと、ビーストは火を吐く。


「ミントエスカッション!」


ビーストの攻撃をミントエスカッションで防ぐ。回転する結界に炎は拡散される。


「あくむーーーん!!」


火炎放射をやめてビーストは大顎での攻撃に移行した。


「ミントスラーーッシュ!」


ミントエスカッションはポジションを変えて、ロッドの先端で高速回転する。一見ピザカッターみたいな感じである。


迫り来るビーストにミントは高く跳躍し迎え撃つ。


大顎とミントエスカッションがかち合う。火花を散らし、高速回転した光の盾が大顎を切断した。


「ミントエスカッションをそんな使い方するなんて!」


アギャンは驚愕した。


防御呪文であるミントエスカッションを円形ノコギリ刃のように高速回転させて、攻撃に応用させた。本来の用途を悪用したと言っていい。


「ち! だがその程度じゃ、アクムーンは倒せねーぜ!!」


ビーストの折れた大顎が再生して行く。




今の内に!




「今だ・・・イヌガミック・ドライブ!」


ロッドの先端が発光し、ミントはロッドをクルクルと回して構え直すと、ドレスの各箇所が発光しだす。




調整中、レクチャーではっちゃんに教えてもらったイヌガミントの大浄化呪文。その負で満ちた心を吹き飛ばしてやる!




「ミント・リフレッシュ・トルネード!!」


ロッドの先端から渦を巻いた風が光の粒子と共に巻き込む。その渦巻く光はムカデ型ビーストの巨体をのみこむのであった。


光の渦の中でビーストはリラックスした表情を浮かべ、光の粒子となって霧散して行った。三日月状の結晶体が残り、まもなく結晶体は眩い光を発して勢いよく弾け飛んだ。


森に散乱した粒子が降り注ぐ。


「ば、馬鹿な! アクムーンを浄化しただと・・・・・・」


狼狽えた船虫は、一歩二歩下がる。


ミントはミントロッドを構え、船虫ににじりよった。


「さあ、ネビロス様の居場所を吐け!!」


「く・・・チクショ~! 覚えてやがれー!!」


船虫は目にも止まらぬ速度で木々を避け、走って逃げて行った。


「あ、待て!!」


ミントスラッシュを飛ばして撃ったが、虚しくも木を薙ぎ倒しただけだった。




逃げ足だけは速いやつめ!




「やったー! 凄いギャン! ミントが敵を倒せるなんて」


お互いの両手を合わせたアギャンとウンギャンは、ミントに向かって飛んでいく。


「これがイヌガミント・・・・・・犬神少女の伝説は本当だったんだ」


隠れていた妖精たちは犬神少女の戦いを目の当たりにして歓喜に沸き、2匹の眷属に続いて一斉に集まってきた。ミントを囲む。


「助けてくれて、ありがとう!」「赤いイヌガミントかっこよかった!」「さすが巫女姫!!」


たくさんの賛美で、ミントは気分が高揚するが、やはり「犬神」といわれるのは気に入らなかった。


「イヌガミント・・・やっぱり犬神は性に合わない!」


ミントはリュックからイチゴのドライフルーツをひとつまみして口に入れた。


「色がイチゴケーキっぽいし、これから私はイチゴミント~!!」


得意げな表情でミントは名乗り直した。ピンクの髪をなびかせて。




☆☆☆


戦いの終わりまでその様子を空から、龍神が見とどける。


「・・・・・・」


思いふけるはっちゃんの背中の上で、やどりんが問いかける。


「どーした? じーさん」


「なんでもない。ソナタ、あれをどう思う?」


地上にいるイヌガミント改めてイチゴミントに焦点を当てる。やどりんは後頭部に両手をまわし、


少し苦い表情の混じった笑顔で舌を出す。


「あー・・・そーだな。アタシも色々調整し過ぎちまった。まあ、使えるんじゃいいんじゃね?」


はっちゃんとともに、ぐらたんが扱えるように大幅にシステムを修正し過ぎてしまったが、システムは今のところ問題なく安定している。




あと気になる問題といえば彼女自身か・・・




やどりんは調整作業で見たあのデータを思い返すのであった。

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