# 03「これからソナタを調べる」

見渡す限りの樹木たち、同じような景色に囲まれ方向感覚がおかしくなってくる。死神の少女船虫は、昨日の戦いでミンティーフォレストに飛ばされていた。

「ちくしょ~!またこの森に来るなんて・・・・・・っていうか、完全に迷った!!」


アクムーンビーストは、あの攻撃で魔力がかなり落ちている。また負の感情をかき集めなければ・・・


彷徨ううちに、森の奥で光が見えてきた。精霊たちの住処がまだあった。

船虫は唇を舌で拭い、笑顔が戻った。

「ひひひ! あたしゃツイてる」


回収し損じた魔力をまた集められる。手ぶらでは帰れない!


☆☆☆

妖精たちに運ばれ、階段を登り切るとそこには小さな屋敷があった。村とは一転して、ワタノ調の建造様式だ。

「はっちゃん様! 犬神少女を連れてきました。」

妖精が屋敷の扉を叩き、声をかける。

すると扉が開き出した。ついに犬神少女を作った者が出てくる。

「なんじゃ? 騒がしい・・・各々方、なんのようじゃ?」

扉からひょっこり顔を出したのは、モフモフの塊。全身長い髪や髭で覆われたゆるキャラみたいな生物だ。毛玉から手足が生えているように見え、かろうじて狩衣らしき袖や袴が見える。

「はっちゃん様にお会いしたい方々が・・・。犬神少女と神使様です」

「ほう、ソナタら・・・・・・魔族じゃな?」

無愛想な表現でぐらたんたちを見て、はっちゃんと呼ばれるモフモフ生物は狭い玄関口からボフンっと出てきた。ふさふさの長い尻尾が器用に玄関の扉を閉めた。

「時代は変わったもんじゃ。悪魔が犬神少女に選ばれるなんてな・・・」

モフモフから吐く皮肉に、ぐらたんは小さなため息をつく。

「私もなりたくてなったわけじゃ・・・今はヤツに対抗するのこの力が必要なの」

モフモフの金色の瞳がぐらたんの顔をジッとみる。何か思い当たりがあるような表情を見せた。

「・・・・・・」

「何?」

「なんでもないわい。中に入りなさい。早速修理に取り掛かる」

「やったー!!」

「やりましたね! お嬢様」

アギャンとウンギャンは喜んでそのモフモフに修理を頼んだ。

「? ・・・そういえばあなた様は辰神なのでは?」

アギャンが訊ねる。モフモフが振り返ると

「うむ。その通りじゃ。ワシはあめのはっか龍王。じゃが、それは数千年ほど前のことじゃ。気さくに、はっちゃんと呼んでも構わぬぞ」

このモフモフ、龍神らしい。どうして龍神が犬神少女を作ったのか少し引っかかるところがある。

ぐらたんは、はっちゃんの後について行き、屋敷に入っていった。

アギャン、ウンギャンも後に続くが、

「ソナタらは、こなくて良い。集中するのにソナタらの魔力で気が散る。妖精たちと遊んどいておくれ」

「えーーーーーー!?」「は、はあ・・・・・・分かりました」

アギャンとウンギャンは取り残された。目を輝かせた妖精たちに囲まれる。

「何して遊びましょうか♪」


☆☆☆

屋敷の中、作業部屋らしいところに連れてこられた。

はっちゃんはドライバーを手に取り、作業台でイヌガミギアを分解し始める。

その様子を見ながらぐらたんは問いかける。

「ねえ・・・」

「はっちゃんで良いぞ」

「はっちゃんは、辰神だよね? どうして犬神少女を?」

ゴーグルを身に着けて作業を進めながらはっちゃんは答える。

「なんじゃ? 辰神なのに犬神は違和感か? そうじゃな。犬神少女プロジェクトの発端はもちろん戌ノ国の戌神じゃ。そいつの元で干支十二各国色々な神々が開発に携わった。その中の一人がワシじゃ」

「ふ~ん。そうなんだー」

イヌガミギアはある程度バラされて、作業台に部品が並べられる。

「・・・・・・。うぬ~・・・やはりコアを保護するために神導回路が焼き切れたか」

作業台に座ったはっちゃんはイヌガミギアのあらわになった回路板をゴーグル越しで見る。

「直せる?」

「うむ。繋ぎ合わせるのは簡単じゃ。しかし、またソナタが変身したら、また負荷が掛かってトンデしまう。少し改良が必要なんじゃが・・・・・・」

ゴーグルを上げ、はっちゃんは腕を組んでは、考え込む。

「そーだね・・・・・・でも今の私の魔力は封印されてしまってるし、もう同じことにはならないんじゃ?」

はっちゃんは首を振る。

「いや、確かにソナタはプロテクトを掛けられた。しかし、その上でもソナタの魔力によって焼き切れたのじゃ。一体、どれほどの魔力を持っているのやら・・・」

「じゃあじゃあ。重要な回路にマナが流れないようにバイパスを通して外に逃すとか?」

「それじゃ! しかし、マナを伝導させる素材がないのう」

ぐらたんはリュックの横についてるポーチから数本の金属線を取り出した。はっちゃんに渡す。

「コイツは?」

「魔導素子だよ。パンデモニウムでできてる。よくマナを通すよ」

パンデモニウム。魔界で出土する金属。マナを蓄積したり、伝導したりできる性質を持つ。魔術を組成するのに欠かせない金属だ。魔界パンデモネア大陸の名前から来ている。

「ほう! ソナタなかなか凄いのう!」

はっちゃんはモフモフな手でぐらたんの頭を撫でた。

「わっふん! もっと褒めてもいいぞ! あ、もちろん。それを使ったのはナイショね! はっちゃん」

「ふっ、分かっとる! ワシも悪魔の手を借りたなんて言えんからの! うははは!!」

「わふふふ」

はっちゃんは笑いながら作業に戻る。龍神とこうやって話すのはなんだか久しぶりのような懐かしいような感じがした。少し誰かの顔が脳裏で浮かび上がったがよく思い出せない。


☆☆☆

「ヨシ! 直ったぞ!!」

イヌガミギアを手に取って見せるはっちゃん。カチューシャの中央のランプ部分が点灯した。

「やったー! ありがとー、はっちゃん!!」

ぐらたんは不意にモフモフな体に抱きついた。

「・・・・・・。やめぬか」

照れ臭いのを隠しながら、はっちゃんはポンポンとぐらたんの小さな背中を軽く叩き押し離す。彼女の両肩に手を添える。

「まだ礼を言うのは早いぞ? 直ったが、後はコイツの再調整じゃ」

「再調整?」

はっちゃんはゴーグルを上げて、髭を撫でながら答える。

「うむ。マナを逃がす回路を増設したのは応急処置に過ぎぬ。ソナタの生体や魂の波長に調整する必要があるのじゃ。これからソナタを調べる」

「うぇえ!! ちょっちょっと待って! いくらなんでもそれは犯罪だぞ!」

両手で胸元をガードして身を引くぐらたん。

「バカもん!!」

はっちゃんはモフっとぐらたんの頭にチョップした。

「見るのはそっちじゃないわい! 見るのはソナタの神通力じゃ!」

「え? 神通力?」


神々の使う超能力で、その源は魂や精神からの発するものだとかなんだか曖昧だ。マナ粒子と対になるエーテリオン粒子がその力を伝えるというが、それ以上悪魔の自分には分からない。そんな魔力と水と油な力が私に備わっているのか?


「コイツに変身できるのは神通力があればこそじゃ。イヌガミギアのシステムとソナタの持つ神通力が同調して変身が可能になるのじゃ! ・・・だから興味あるのはソナタの神通力・・・」

「目、目が怖いよ~」

迫るモフモフに後ずさるぐらたん。その時、部屋から木の枝が伸びて来て、はっちゃんの脳天を叩きのめした。被っていた帽子が落ちる。

「そこまでにしときな~! そういうとこだぞ! じーさん」

壁を貫いて出てきた枝には小さな少女が座っていた。大きさは他の妖精と同じくらいだ。髪は生い茂った草のようなボリュームのある緑髪。

「ぬう・・・だから別にやましいことは考えておらん!! 全く、ワシの家に穴開けおって・・・・・・」

はっちゃんは帽子を拾って被り直す。

「おっと、脅かしてすまんなぁ嬢ちゃん。あたしはヤドリギの精霊やどりんってゆーんだ。いちおー戌ノ国出身だ。イヌガミギアの調律師やってる。こっからはあたしの出番だよ」

木の枝に座る精霊やどりんは名乗り、ウインクして見せた。

「せっかちめ! 後でソナタをよぶつもりだったのに・・・まあ良い、任せる!」


やどりんを交えて調整作業に取り掛かった。

イヌガミギアをつけたぐらたんは椅子に固定された。イヌガミギアと手首足首に蔦のようなのが巻き付いて、やどりんの方に伸びている。

彼女は巻物のような携帯端末を広げると蔦を巻物に繋げた。と言うよりも根がはった。

巻物からホロスクリーンが浮かび上がり。色々な情報が出力されている。

「ははーん、コイツはスゲーな! 確かに微弱だが神通力を感知してるな。昨日の戦闘データを見るからにコイツと魔力が反発して物理的に負荷が掛かってるのとシステムに不具合が起こってるな・・・・・・よし、変身システム起動してみ? 変身呪文だ」

「イ、イヌガミライズ、マジカル・イヌガミント」

ぐらたんは変身呪文を唱える。テストモードで変身シーケンスは始まらないようだ。

ホロスクリーンに映った波形が乱れて、たくさんのログが出力されていく。


イヌガミントの再調整が進む中、外では黒い魔の手が迫りつつあった。退屈で暇を持て余す私には、もちろんその魔の手は見え・・・ない・・・


す~、す~・・・

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