document:蔵先市街ガイドブック

1.来歴

 蔵先市街は三瀬南部樹海の北側に位置する、樹海エリア唯一の市街です。

 “イベント”後の環境変動によって産まれた三瀬南部樹海、その生成過程で呑み込まれてしまった自治体の避難民を受け入れ、土地を守るために樹海と戦う決意をした。蔵先に集い市街を形成した住民達は、自らの故郷を“イベント”なる怪現象に奪われまいと立ち続ける有志達だったと言います。

 現代では、蔵先市街を象徴するのは市街を取り囲む巨大な壁ですが、“イベント”以前、ここには壁はありませんでした。壁は、日々浸食を続ける樹海を遠ざけ、イ界に抗うために作られた盾であり、この盾がある限り、蔵先では三瀬区域外と同じ生活を過ごすことが可能となっています。

 市街への出入りは外壁部南北にひとつずつ設置されたエントランスゲートにて行います。北は樹海の外、三瀬内の他の市街へ。南は側のゲートは樹海へと通じています。


2.外観

 蔵先市街は外からみたとき、巨大な一枚岩のように見えると言われています。市街を囲う壁は平均100メートルの厚さを誇り、約42メートル、14階建ての高層ビルに匹敵する高さと言われています。壁の製法については秘匿事項とされていますが、この高く厚い壁が樹海の浸食を阻み、外敵の侵入を防いでいます。


3.エントランスゲート

 エントランスゲートは外壁部内に用意されたエントランスホール内に設置されています。ホール内はドーム状の空間となっており、外壁を通行するにあたって、旅行者の皆さまに圧迫感を与えないよう最善の配慮がなされております。また、イ形の侵入を排するため常時監視が行われていますが、警備システムは外観上識別できないものにカモフラージュをしており、審査時の心理的圧迫を可能な限り低減しております。

 なお、人間のみでの来訪時においては市街への入場審査はございません。エントランスホール内にある改札機(写真⑥)を通過し、市街へとお進みください。ホール内に設置された案内板(参考別図①)記載以外の荷物については別途入場審査が必要です。改札機横の連絡ボックス(写真⑧)または内壁側ゲート横の守衛詰め所(参考別図② 写真⑨)にて貨物検査を行ってください。

 検査の結果、イ界浸食の可能性が確認できた貨物については、外壁内荷物預かり所にて保管いたします。保管用チケットを別途交付いたしますので、市外へ出る際には当該チケットを守衛詰め所に提示してください。

(宿泊先フロントにてチケットを提示することであらかじめ荷物受取り予約を行うことも可能です)


4.市街内部 

 蔵先市街は、全6層からなる階層都市構造をとっています。外壁上部に近い層から順に、第1層、第2層と続き、蔵先市街中心部に広がる最下層へと下っていく構造になっています。これは市外構築時、最下層部にあった樹海の根を切り離すために地面を掘削する必要があったこと、樹海の浸食から市街を守るため境界線には高い外壁を用意するのが最適であることを踏まえ、三瀬区域外の自治体での都市計画を参考に作られたものです。

 エントランスゲートを抜け、昇降機にて市街へ向かうこと約5分。旅行者の皆さまがはじめて目にするのが、第2層、行政区となります。

 行政区では、三瀬内の他の市街からの移住あるいは他の市街への移住の手続、チケットの発行など、管理委員会が提供する各種サービスが受けられる他、蔵先市街での生活にあたっての職業の斡旋所、蔵先市街の情報を閲覧するための“図書館”などが設置されています。

 行政区に勤める管理委員会職員及び外部委託業者、外壁の維持管理要員は第1層外壁区に居を構えていますが、旅行者を含め多くの住人は、第3層、第4層にわたり展開されている居住区、商業区にて暮らしています。

 第5層は工業区、最下層は環境調整区となっており、それぞれ蔵先市街のインフラ整備のための各種施設が整えられています。

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