interview:常連客

 店長? 外からの客が来てるって聞いたんだけど本当?

 あ、あの二人ね。店長、私も彼らと同じ同じ串焼きと野菜盛り合わせで。

 こんばんは。相席していいですか? 私は、えーっと、そうだな…この店の常連客のひとりです。昼間は街の交通整理の仕事をしているんですが……そうです。それ。この街は階層構造になっているので移動とかが大変なんです。それで、貨物運搬用の多脚移動機械が売れているんです。

 カエルみたい? あー確かに。自動車とも勝手が違うので上下移動の際の補助がないと事故のもとなんですよ。

 域外でも売れているのかはよく知らないです。私は生まれも育ちも蔵先なので。ただ、なるべく域外と同じ。イ界の影響を減らした街が蔵先市街のモットーですから山間部とかで使われる機材を再現していると思いますよ。域外にいくことがあって、類似の機械を見つけたら教えてくださいね

 この店の食事も域外と同じメニューを出しているんですよ。どうやって食材を調達しているか? 

 蔵先には市街の端に生産所があって、市街内で流通する野菜や家畜などの食材を生産しているんです。街全体の敷地の約3割がこの生産所で占められていて、効率性は悪いのですが、おかげでこうして域外と同じ食事も摂れるんです。

 蔵先産を銘打っているのはそういう理由なんですよ。域外の訪問者は滅多にあるものじゃありませんが、きっと安心してもらえるはずです。

 それより、皆さんも街の外からきたなら南部樹海を通ってきたわけですよね。私はその話が聞きたいんです!

 北側ゲートから来ていても、交易路は樹海を貫いているでしょう。交易路から見た樹海の話でも構いません。

 私、興味があるんです。その……樹海のイ形に。管理委員会は外壁でイ界を締め出すだけでなくて、私たち住民にも街の外には出ないように推奨しています。

 現に、私みたいに市街から出たことがなくても生活が成り立っている住民は相当数いるのですが、こういう生活をしていると、イ形を見る機会がないんです。

 この辺りの樹海にも多く生息しているはずですが、警備は厳重ですからイ形は街に侵入しないですからね。

 蔵先では“図書館”も隔離政策をとっているんです。知は開かれない。だから、住人である私たちが訪問してもイ形の情報は閲覧できないんですよ。だから、こうやって外のお客さんが来たときにはみんな外の話を聞きたがるんです。特に、今はどんなイ形があふれているのか?って。 

 情報交換ですか……。皆さんに提供できるものなんてあるかなあ。あ、店長! この弱虫エイルを1つ追加で。

 自警団についてですか。街の皆さんが知っているようなことくらいしか知りませんよ。

 蔵先市街自警団は市街周辺の樹海の警戒を担う集団です。街に侵入しようとするイ形、外壁や市街の環境を脅かす可能性のあるイ形を追い払う仕事ですね。彼らのほとんどは市街外壁部にある宿舎か樹海内のキャンプで任務をこなしているはずです。

 どうやってイ形を追い払うのか? 皆さんが旅の途中にやっている対応と変わらないと思いますよ。武器を手に相手の生態を確認して弱点を突く……みたいな。装備のことですか? 

 どうでしょうね、街では武装した自警団はまず見かけませんからね。ただ、樹海内にはそこそこ大きなイ形、あと飛ぶイ形がいるそうなので、ボウガンのような飛び道具を携帯した部隊がいますよ。近接部隊だけじゃ駆除しきれないんだとか。

 銃は命中率の割にエネルギー効率が良くないので使わないそうです。資源に限界がある蔵先では矢のほうが効果的なんです。威力の底上げもしやすいですしね。

 自警団の知り合いですか? 知人、友人ってほどの人はいません。あの人達、あまり市街に来ないんですよ。だから知り合いになる機会も少なくて。

 この店はそれでも時折自警団が立ち寄るんですよ。でも、半年くらいはみてない気がしますね。ねぇ? 店長? 自警団の人たち来てないよね最近。

 話せるのはこれくらいですが、外の話、聞いてもいいですか?


――――――

 お二人さん、さっきの話聞いていたよ。樹海の外から来たんだって?

 え? いいじゃないか。彼女も初対面だったんだろ。俺たちとも少し飲んでくれよ。こういう店の常連だから、街じゃ聞けない話もそこそこ知ってるぜ。

 何が知りたいのか? ははん。そんなに警戒しなくてもいいよ。俺たちが知りたいのは他の市街の様子だ。あんたたちが樹海探索前なのは充分わかったからさ。

 なんだこの犬。

 犬なのはわかるのか? 何バカなこといってるんだよ、この顔を見れば誰だって犬って答えるさ。街でみかけたことがないか? なんだ二人とも犬探しをしているのか。

 残念だが、この街に犬はほとんどいない。というより、ペットがいないんだよな。さっきカコ…あの常連と話していただろう。蔵先は三瀬内に居ながらにして外の生活を再現を目指している。

 外じゃペットを飼う習慣があることは知られているんだが、壁の内側で全て賄おうとするには資源が足りない。住人全員の食料やインフラの提供で市街の機能は限界に近いんだ。生産所は常にフル稼働だから、勤めている人間たちがコッチに出てくるのを見たためしがない。生産所内で衣食住を賄っているらしい。話は逸れたが、要するにこの街にペットを飼う余裕はないんだよ。

 だから、その可愛い犬も街では見たことがない。いや、しかし可愛いなその犬。実際、余裕があればペットを飼いたいって奴は沢山いると思うぜ。こう、生活が変わるっていうかさ……

 生産所? なるほど他の市街にはないのか。それは意外だな。見学ねぇ。市街の住民は受け付けていないと思うが、問い合わせてみると良い。

 見学用チケットがないのかって? ないよ。この街も他の市街と同じでチケットは導入されているが、住民間ではあまり使われない。いや、言い方が違うか。俺たちはチケットとは別に住民としての権利を広く与えられているんだ。だから今ひとつチケットのことはよくわからない。

 生産所は管理委員会の管理施設だから、気になるなら“図書館”か委員会に問い合わせてみるほうが話が早いさ。

 ところで、生産所がないなんて、他の市街ではどうやって食料生産をしているんだ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る