追憶

踊る蛇

追憶

それは、記憶だ。


音楽が流れている。

心地良い音楽。

自分にとってこれ以上はない音楽。


彼女は、椅子に座って、背中をこちらに向けている。

僕は、出しっぱなしの敷き布団のうえに座って、

壁にもたれながら、彼女の背中を眺めている。


窓からは、やっと高みに達した太陽の光が差し込んでいる。

少し開けたその隙間から、乾いた風が入ってきて、


わずかにカーテンをゆらしている。


ずっと、背中をみている。

彼女は、僕のことを忘れて集中している。

僕は、彼女の邪魔をしないように、存在を消している。

音楽に身を任せ、部屋の空気の中に漂っている。


カーテンがゆれている。

彼女の背中も、両手の動きに合わせてわずかにゆれている。

僕は、空気と音楽の流れのなかで、ゆらゆらゆれている。


やがて、永遠が訪れる。

まだ、音楽は流れている。

まだ、彼女の背中はゆれている。

僕は、そのまま目を閉じて、開かない。


それは、記憶だ。


僕は、ひとりで椅子にすわっている。

少し開けた窓から、心地良い風が入ってきている。

目を閉じれば、音楽が。

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追憶 踊る蛇 @odoru_hebi

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