第2話 なぜ、こうなる

 これまで生きてきて二十七年間、私は真面目に頑張ってきたつもりだった。自分磨きも頑張って、人並みに恋愛がしたいと思ってやってきた。受け身ばかりではどうかと思うから、自分でも動いてみたり。


 それがどうなのだ。寄ってくる男は悉くチャラい奴だったりで、自分が気に入った人は私を好きにはならない。それどころか、なぜかいつも『ヒーローにちょっかいを出してすぐに振られる当て馬女』みたいな役柄になっているのだ。


 解せん。


「あー朱里はさ。めっちゃ可愛いんだよ」


「もっと褒めて慰めて」


「ただなんていうか、可愛いんだけどこう……顔がやらしいんだよ」


「急に落とすやん」


「ごめん、やらしいはないな。正統派ヒロイン顔って言うより、なんか愛人顔なんだよ。派手顔っていうの? その涙ぼくろとか特にそう見える」


「全然フォローになってないんですが」


「あと細いのに胸でかいしね。モテるのは間違いないけど、変な男も寄ってくるよねーって感じ」


 友人の分析は尤もなことだった。私はため息をついてアイスティーを飲む。


 そうなのだ。私もそれは自覚している。


 可愛いねと言われることは多くあった。寄ってくる男の人だってそれなりにいた。でも、みんな私というより顔と体を見て会話していた。あ、これ付き合ったら絶対大事にしてくれないタイプだな。そう女の直感が働く男ばかりだった。


 私は幸せになりたい、と常々思っている。真面目な男性にちゃんと愛されて、恋愛をし、いつかは結婚したい。でも、私が好きになる男の人はいつも私と正反対の女の子と結ばれていた。


 化粧っ気もそんなになく、黒髪のロングヘア、大人しめの性格。いつも一生懸命頑張ってる、笑うと愛嬌があるけど、実はそこまで美少女でもない子。実はそれが一番ヒロインに相応しい女であり、最も男に愛される女像なのだ。


 私はオシャレが好きだ。だって、可愛い恰好をしたり可愛い物に囲まれるとテンションが上がるから。性格は大人しいとは言えないタイプ。仕事もプライベートも頑張りたいって気合を入れている。


 見かけにプラスしてこの中身だと、私はどうも『当て馬女』キャラになりがちらしい。


 彩はケーキに乗っていたイチゴをフォークで刺しながら言う。


「見た目男に苦労してなさそうな感じだけど、朱里なんてそこまで男経験ないのにね。ていうか中身結構ガサツなおっさんだったりするしね。思い込み激しいとこあるし何気に天然だし、見てる分には面白いんだけど」


「ガサツなおっさん」


「でも確かに男は、結局守ってあげたいタイプが好きだからなあ。バリバリ仕事してコミュ力高いおしゃれな朱里は、案外損な役回りかも」


 私はグラスを両手で包み、しっかりした声で答える。


「でも、私はオシャレも好きだし、この性格は今更変えられないもん。男のために自分を変えるなんてしたくない」


 きっぱり言い切ると、彩が優しく笑った。


「私は朱里のそういうところ、好きだよ」


「てことで彩! 誰か紹介してくださいっ」


「うーん探しとくね。でもほら、あんた来週から営業に異動でしょ? そこでいい人いるかもしれないじゃん! 職場で見つけるのが一番手っ取り早いよ!」


 彩が笑顔で励ましたが、私はぐっと言葉に詰まった。


 そうなのだ、先日私の異動が発表された。まさかの営業部だった。新しい環境は緊張もするし、正直憂鬱だ。男探しなんかしてる場合ではない。


「そんなつもりは全然ないよ。職場なんて、それこそスクールの時みたいにすぐ辞められないし、揉めたくないんだよ。あとそんな余裕もなし! やだよー今になって営業部って! 上手くやっていける自信ないってー」


「え、絶対向いてるじゃん。見た目もいいし、朱里は人に気遣えるの上手いしさ。絶対いい成績残すと思う」


「エロおやじには好かれる傾向あるから、そっちはいいかもね……」


「卑屈になるなって! 私は本気で言ってるんだよ、朱里なら大丈夫だよ」


「あと私、あんまり第一印象よくないからさあ……特に同性に」


「あー……」

 

 心辺りがあるのか、彩が返答に困ったように天井を見上げる。そう、当て馬女は、女から嫌われやすい。友達作りは苦労するタイプだ。


 彩の言葉を借りると『顔がやらしい』女が、しっかりメイクをしておしゃれをし、仕事頑張ります! って言ってると、なんか目障りらしい。私は特に猫を被ったりしてるつもりもないのだが、『いい子ぶってる』だとか、そういう風に見えるとか。


 一時期は悩んだりもしたけど、ちゃんと話せば彩みたいに友達になってくれる人は沢山いたし、色々試したけどうまく行かなくて、どこを直せばいいのかも分からなくなった。だから、諦めた。


 仲良くなれば『話すと印象違うんだねー』ってみんな言ってくれるし、時間が解決してくれるだろう。


「まあ、うちの課でも最初は浮いてたけど」


「ずばずば言うやん」


「しばらくしたら馴染んでみんなと仲良くなったし、朱里は大丈夫だよ! 実は計算じゃなく本当に真面目だってそのうち気付かれるさ。職場の環境も変わるから、気分も変えてがんばろ。仕事も恋も!」


 彩はガッツポーズを取ってそう言った。親友に励ましに、私は少し表情を緩める。


 今はとにかく頑張るしかない。仕事だって恋愛だって、とにかくがむしゃらになるしかない。


 私はこんなところで立ち止まっている暇はないのだ。



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