第37話 彼女らしい笑顔(ギデオン視点)


 更新を止めてしまい大変申し訳ございません。本日から再開致します! よろしくお願い致します。

▽▼▽▼


 ヒューバート殿下との話が終り、アンジェリカ嬢の元へ戻る。できるだけ早く戻りたくて、足早に移動した。


 殿下の考えを汲んで、アンジェリカ嬢に大会の話をしながらこの場を離れようとする。馬に関するものだと興味が大きいようで、説明すると彼女は目を輝かせていた。


 すぐに移動しようとしたところで、アンジェリカ嬢の奥から一人の女性がやって来た。その正体はネスロダン国王女のようで、基本的な挨拶を済ませる。とにかく早く場所を空けることを頭に、動いていれば何故か感謝をされた。


(俺が……ネスロダン王女を助けた? 申し訳ないが身に覚えがない)


 こちらが助けた側なのが救いなのかもしれない。逆の場合、とても失礼に当たってしまうから。感謝を受け取ると、挨拶をしてその場を去ろうとした。しかし、王女殿下はまだ何かあるようだった。どうしたのだろうと思えば、王女殿下はアンジェリカ嬢の方を見ていた。


(もしかして女性同士の話をしたいのか?)


 そう考えていれば、ヒューバート殿下が間に入った。どうやら急ぎの用事らしく、王女殿下に戻るように伝えていた。二人を見送ると、俺達も移動することにした。


 競争の会場に着いて説明を開始する。彼女はずっと興味深そうに聞き続けてくれた。レースが開始すると、アンジェリカ嬢は真剣に会場に視線を向けていた。


(……駄目だ、俺もレースの方に集中しないと)


 アンジェリカ嬢の横顔を眺めていたい衝動にかられたものの、彼女が集中しているからこそ俺もレースを見ないと会話ができないと思った。視線を前に戻しながら、二人でレースを楽しんだ。


 すると、見知らぬ男性に話しかけられた。どうやら大会の運営委員のようで、最終レースに欠員が出てしまったようだった。男性は俺に走らないかと誘ってくれたが、正直その気にはなれなかった。


(シュバルツはあまり競争心のない馬だからな……)


 悩みつつも、俺はアンジェリカ嬢の方を見た。


(それに、きっと俺よりも走りに相応しい人がいる)


 そう考えると、アンジェリカ嬢に出場しないか提案してみた。

 すると、興味はあるが故に俺に気を遣ってくれているようだった。自分は問題ないと伝えれば、彼女が出場することになった。


「頑張ってください、アンジェリカ嬢」


「ギデオン様とシュバルツの分も頑張ります!」


 朗らかに口角を上げる彼女を見送った。


(……今の笑顔、凄く可愛かったな)


 いつも見るようなお淑やかで優しい笑顔に比べて、今日はアンジェリカ嬢の心からの笑みを見ることができた気がした。個人的には後者の方が好みで、胸の鼓動が少し早まったのがわかった。


「ギデオン、どうして一人なんだ」


「殿下」


 感傷に浸っていると、意外なことに殿下も大会会場に来ていた。


「一人ではないですよ。今彼女が席を外しているだけで……公務は終わったのですか?」


「いや。絶賛仕事中だ。……もしかしてギデオンは大会を見に来たのか」


「そうです」


「そ、そうか。まぁ見るくらいなら問題ないか……」


「殿下?」


「いや、大丈夫だ。問題ない」


 何か問題があるのか、殿下は一気に顔を曇らせた。公務の邪魔をしていないかと思ったが、その不安はすぐに否定された。


「レリオーズ嬢もすぐ戻るだろう。邪魔したら悪いから、俺はこれで」


「いえ。しばらくは戻りませんが」


「……何かあったのか?」


 真面目に答えてしまえば、殿下が真剣な声色でこちらを見た。俺は慌てて首を横に振る。


「いえ、問題は何も。実はレリオーズ嬢が大会に参加することになりましたので。俺はその応援を」


「…………何だって?」


「最終レースはどうやら欠員が出たようで、出てくれないかと勧誘されたんですよ。それで、レリオーズ嬢が出る流れに」


「……そう、なのか」


 アンジェリカ嬢がレースに出ることが意外なのか、殿下は唖然とした様子になっていや。


「意外ですか? ですがアンジェリカ嬢とティアラさんの走りは他の方と遜色ないものかと」


「それは、うん。それは期待するが……待て、ティアラというのは誰のことだ」


「ティアラさんはアンジェリカ嬢の愛馬の名前ですよ」


「馬……そうか。馬の名前か」


 驚いている殿下に、俺は遠乗りで見た二人の実力を軽く話した。どうやら殿下も大会を見ることが仕事の一つのようだったので、そのまま並んで観戦することにした。


「実は最終レースにルクレツィア王女が出場するんだ。それを見届けようと来たんだが……まさかレリオーズ嬢まで出るとは」


「王女殿下が参加されるんですね。それは興味深いレースになりますね」


「あぁ……」


(……王女殿下が速いという話は聞くが、俺はアンジェリカ嬢を応援するだけだな)


 こうして俺は、どこか疲れた様子の殿下と一緒に最終レースを観戦することになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る