第5話 さっちゃん

「レイジから符の作り方を習っていたとは驚いたぞ。格好の良い決めゼリフまで言って気分がいいだろう?」

「……」


 シキは給料日手前のように気分が良さそうだ。俺はその逆だけど。


「いやーあの時はもうダメかと思ったぞ!まさかあの術符が雑用の為の物だとは思わなかった。すまんすまん。……なんじゃそんな拗ねた顔をして。言っとくが本当に知らなかったんだからな!」


 術符が全部使えなかったのはまぁ別に。なんとかなったし。クマは胴体が泣き別れの状態になってグロい事くらいで文句はそれほど無い。

 問題はーーーー


「それともアレか?勢い余って鳥居ごとぶった斬ったのがそんなにショックなのか」

「そうだよっこれでもう外に出る方法無くなったんだぞ!?どうするんだ、これから!」


 ヤケになってシキに叫ぶ。すると、シキは得意げな顔をして口を開いた。


「壊したのならばもう一度作る、単純なことだ。幸い、お主がクマを倒したから算段はつく。儂の力も少し回復したからな」

「算段……?」

「まぁここに居ても説明しにくい、移動しながら話そうか」


 ◇◆◇


「それで、算段って言うのは具体的にはどんな事をするんだ?まさかさっきみたいにクマを狩れ、とかいうんじゃ無いだろうな」


 「サラリーマン、脱サラしてマタギになる」とか。いや、死にかけたのにそんなことしてたら命がいくつあっても足りない。出来れば安全にかつ、迅速に出来る方法がいい。

 

「当たらずとも遠からず、と言ったところだな。にも鳥居を壊してしまった場合にレイジが再設置の方法は残している。それまでここで過ごすための算段だ」


 今コイツ、偶然ってとこだけ強調しなかったか?確かに切ったのは俺だ、でも引きつける作戦を考えたのはコイツなんだよな。

 シキにとって俺がここにいたほうが都合がいいのか?閉じ込める、いや隠すため?

 いや、そもそも即興で書いた術が思ったより強かったせいだしな。考え過ぎか。


「着いたぞ」

「ってここ、居間じゃないか」


 畳と明らかに時代遅れのブラウン管テレビとちゃぶ台くらいしか無い部屋だ。あと、破けた障子。

 そんな場所に何があるのかと思っていたらシキはおもむろにテレビを付け始めた。案の定というべきか灰色の砂嵐を映し出したテレビはうんともすんとも言わない。

 そもそも、Wi-Fiとか電波が届いているのかすら怪しい。電気はあるみたいだから夜は安心だが。

 

「さっちゃん、いるかー?」

「おいおい、そんな叩いても直らないぞ」


 昔はなんでも叩いたら直ると思っているから困る。爺さんなんて気がついたらこうなってた、とか言ってとんでもないバグを引き起こしたりするから直すのが大変だったな。

 それからしばらく、シキがテレビに昭和式45度チョップ民間療法をしようとした時だった。


『ちょっとちょっと!そんな叩かなくても聞こえてるってば!あと少しだから待ってて!?』


 ……なんか聞こえた。


 例えるなら、友達とゲームをしてる時にいきなり親がやってきてどうでもいい用事を任せに部屋に入ってきた子供だろうか。

 ……いや、待て。そもそもなんでテレビと会話が通じている?


『アッちょっ今こっちに来ないでってば!ヒール、ヒール!ねぇ、神官さーん!?ピッ!?あぁ〜もぅ……』


 なんだかすごくテレビから聞こえてこないような音声が聞こえてくるのは気のせいだろうか。


『……それで、今度は何の用なの?』


 おや?砂嵐が少しずつ晴れていく。それから奧に人影のようなものが……『さっちゃん』という人なのかな?

 

 そうして、完全に晴れたテレビ画面にはお世辞にも綺麗とは言えない部屋のなかで真っ白なメイド服を着込んだ長い黒髪の女性が座り込む映像が映されていた。

 

「前に話していた孫の話、覚えているか?」

『えっとそろそろ来るって言ってた人のこと?』


 俺のこと、かな?


「そうそう、でそいつが今ここにいるから挨拶させようかと思ってな。ほら、こっち来い」

「あぁ、こんにちは。初めまして?」

 

 なんというかテレビに話しかけるのが新鮮すぎて調子狂うな。

 

『………………』

「あれ……なぁ固まっちゃったんだけどもしかして壊れた?」

「そんなことはないと思うんだが………あ」


 シキが画面を覗き込んでいると勝手に画面が暗転してしまった。そして、その数秒後画面が映った。

 

『こんにちは、よろずさん。初めまして』


 新しく映った画面には整頓された部屋に白いワンピースを着た【さっちゃん】さんが映っていた。これ、どう考えても別チャンネル掃除したな。

 それと、ここまで来たらなんとなく分かった。【さっちゃん】、それから俺の名前を知っていること、シキの友達っぽい雰囲気。


って言います』


 やっぱりか。

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