第4話 借金返済クエスト2
「俺が、アレを?無理だろ」
と、自分とクマを指を差して見比べる。俺より遥かに大きな体躯に強靭な手足、そこから繰り出されるお手を喰らえば一撃で死ぬ。
目の前にいるのはそういう相手だ。間違っても倒せるような相手じゃ無い。金太郎なら別かもだがあいにく鉞を持っている訳でも相撲自慢という訳でも無い。
「勿論、お主が素手で倒せるとは思ってないさ」
少し自慢げな顔をしながらシキは懐に手を突っ込み何かを探し始めた。時代劇なんかで懐から取り出すようなところを見たことがあるけど、まさかリアルで見ることになるとは。
「……で、なに探してるの?」
「あれぇ?ここにしまったような………」
某猫型ロボットのように懐をまさぐり、袖をパタパタ、自分の尻尾を追いかける犬のようにくるくると。
明らかにとっておきがあるように見せていただけに格好が悪い。
先ほどまでの自信はどこかに飛んでいってしまったようで、冷や汗を掻きながら今にも泣きそうな子供のようだ。
「あぁもう、仕方ない」
まだ見つからないらしい様子のシキを両手で掴む。ちょうど、たかいたかいをするような体勢をとる。
すると急に持ち上げられたからかきょとん、とした表情をするシキは少し合間を開けて俺の意図を理解した。
「ま、待て!?」
「ほら、ジャンプしろぉ!!」
ジャンプして小銭持ってないか確認するアレ。一回やってみたかったんだよな。
「!?〜〜!」
しばらくお洒落なバーのマスターのようにシキをシェイクしていると、
「何だこれ」
和服の中から数枚中身がひらひらと落ちてきた。
目を回しているシキを置いて紙を拾ってみると墨で文字が書かれていた。
達筆すぎてよく読めないがおそらく日本語、そして俺はこの字を書いた人物を知っている。
「そ、それは、レイジが残した符、だ。中には奴の込めた術が入っている、から、それを使え」
フラフラと千鳥足ながらいつのまにか立ち上がっていたシキが俺の持っていた紙の一つを摘み取る。
「魔力を込めれば勝手に術が出る仕組みになっている。中に何が込められているかは儂にも分からん。が、クマ程度なら倒せる………と思う、たぶん」
「ものすごく不安なんだけど!?」
「知らんもんは仕方ないだろう!?えぇい、さっさとあのクマ倒して来い!出ていくにしてもここに残るにしても始まらんぞ!………うぷっ気持ち悪いぃ」
◆◇◆
今にも吐きそうな様子のシキから受け取った紙を合わせて全部で五枚か。本当に倒せるのか……?
玄関から出て正面、鳥居の周りを奴はウロウロしている。距離は大体三十メートルくらいか?車並みの速さで走るらしいクマは一瞬で目の前まで来るだろう。
シキのアレに賭けるしかないのが不安ではある、けどやるしかない。
「おーい!こっちだ!!」
きっと俺の言葉の意味は理解していないだろう。しかし、返事をするかのようにクマは一度だけ吠えてこちらを視界に収めた。
そして、俺とその背後にある玄関を丸ごと突き破る勢いで加速を始めた。
(まだ、まだだ)
既に十五メートル
(まだか)
十メートル
(まだなのか!?)
クマの前足が俺に届く程に近づいた、その時だった。突然、クマが電気柵に引っかかったように後ろにのけ反り、そのまま尻餅を着いた。
クマがぶつかったのは家に張られたシキの結界。本来なら、所有している土地つまり鳥居辺りまであるらしいのだが、力が弱まったせいで玄関ギリギリまでしか広げられなかった。
おかげでクマに殺されるギリギリまで我慢するしかなったけどーーー
「よし、これでトドメだ!」
紙をクマの額辺りに近づけ魔力を込める。すると、紙が一人でに浮かび上がり淡く青い光を放つ。
そうして紙から程よく優しい勢いで綺麗な水が飛び出して地面を濡らし、染み込んだ土は美味しそうに飲み干して跡形もなく元に戻った。
って待て待て待て!?
「使えねぇ!?これじゃただの水やりだぞ!他のは!?」
他の紙からは心地よい温風が吹き、硬い地面を程よく耕された畑のような土に変え、マッチの程度の火を灯した。
そうして残った最後の一枚は………白紙だった。
(やばい!アイツが立ち上がる、何かないか何か!)
尻餅をついていたクマはいつの間にか二足歩行になり、俺の二倍はあろうかという身体を見せつけてきた。
そして、左手を振り上げ俺へと振り下ろす。だが、シキの結界にはじかれ少しよろけた。
『あと三発が限度だと思え!』
頭の中にシキの声が響く。よく見れば結界の壁にヒビが入っている。だが、既に俺ができる攻撃は全て使い切った。先の四枚は勝手に燃えて炭になっている。もう一度はないらしい。最後に残ったのはまだ何も書かれていない紙が一枚。
(そういえば爺さんと昔習字をした事あったな。そうだあの時教わった奴、もしかしたら)
筆はない、墨もない。今すぐ家に引き返しても間に合うかどうか。
今この場で何とかしなければならなかった。
極限の状況下、一瞬の思考の末俺は頬にある傷を人差し指で拭う。指の先には赤い塗料が。
迷いはなく、一筆書きの要領で爺さんのことを思い出しながら文字を書いた。
『もう、限界……』
既に衝撃が五回、どうやらシキも無理してくれたらしい。ガラスが割れるような音と共にクマと俺の間の結界はなくなった。
クマは六度目の振り下ろしを実行、視界に影が落ちた。あと数秒で裂かれる。
だが、
「俺の方が速い!」
クマと俺の間に滑り込むように飛んできた符が淡く光るのとほぼ同時、クマの体は真っ二つに切り裂かれた。
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