第6話 換金所

 【貞子】

 

 呪いのビデオを見た者の前に現れて、テレビから出てきて殺す幽霊。

 井戸から出てくる場合や突然画面外から出てくるなどの変化はあるが概ね白いワンピースと顔を隠すほどに伸びた黒髪が特徴。

と、いう怪談というか妖怪の類いだ。

 

 見たことはないが決して白いメイド服やら波打ち際で麦わら帽子が似合いそうな雰囲気の女性ではなかったはずだ。


 それが何故ーー


『あのー?よろずさん?』


「あっ、ごめん。考え事をしてました。樟葉よろずです、初めまして」

 

 貞子……さんがシキの言う算段なのか?どうにもこの状況をなんとかできそうには無いけど。


「さっちゃん、この前言っていた奴はできているかの?」

『もちろん!三日三晩徹夜して考えた自信作だよぉ。フフフ、完璧なシステムとビジュアル、そして利便性を兼ね備えたーー……はっ!?えっと……』

「無理しなくて良いよ?敬語もなしで。その方が俺も助かる」


 何となくわかってきた、この人内弁慶って奴だ。いや、どっちかというとネット弁慶か?自分の分野になるとものすごく饒舌になるタイプ。

 

『ん"んっ!それじゃあよろず君で。私が童ちゃんのお願いで作ってたのがコレなの』

「これは……ショップ?」


 UIとかレイアウトがまさに有名サイトのような感じだ。少し違うとすれば店員がいて、それが貞子になっている。文房具から食材、工具や資材まで様々な商品が表示されている。

 

『そう!ビデオ田舎からインターネット都会に行ってみた時にビックリしたのー!色んな人が色んなものを売って買って忙しなく動いてるの見てコレだ!って思って作ってみたの』


「さっちゃんは自分を含めて、でーた?を出し入れ出来る力を持っている。これを利用して生活をする、というのが儂の算段、良さそうじゃないか?」


 データを出し入れ?データを本物として外に出せるってことか。確かにそれならここにいても生活は簡単かも知らない。それどころかここでスローライフも夢じゃない。

 とはいえ、なんでも引き出せるなんて簡単なものでは無いんだろうな。そうじゃないとショップっぽくしてないだろう。


『それじゃあ簡単に説明するね。売りたいものをこの買い取りカウンターに持ってきたら私が鑑定、査定して換金してあげられるからいっぱい持ってきてね』


 なるほど、売ったお金でシキに返済が可能なのか。


「じゃあ買い方は?見た感じ現金って訳じゃなさそうだけど」


 ショップの商品にはゲームで良くある仮想通貨っぽいデザインが描かれてる。今までの説明でこのコインらしき物は出てこなかった筈だ。


 俺の質問に貞子は「待ってました」というような様子でショップを一瞬で消してホワイトボードを取り出した。ついでにできる秘書風のコスプレまでして。


『えー当ショップでは【サダコイン】という仮想通貨を使ってもらいます。サダコインは換金の際に10円=1サダコインのレートでプレゼントされる仕組みになっています。また、現金でもサダコインは交換可能としています!って感じでやってるからどんどん交換してほしいな!』


 サダコイン……貞子のコインだからか。ダs……いや、言わないほうがいい。

 確かにこの方法なら借金を返しつつここで生活できる。

 種や苗を買って畑を作るのもありだし、工具を使って何かを作るのも良いかもしれない。

 問題は借金がそれだと間に合わなそうなところだ。


「早速で悪いんだけど家の外にクマの死体があるんだ。買い取りとかって出来る?」


『うーん、出来ればテレビの前に持ってきてほしいんだけど。良いよ、ちょっと前どいてね、よいしょっと』


 ブラウン管テレビだからか貞子らしく頭から這い出すように出てきた。四つん這いの状態だと、髪が散らばって流石に少し怖いな。もう少し大きなテレビにすれば良いのに。


◇◆◇


「うーん、確かにこれだと持っていくのは無理そうだね」


「買い取れそう?」


「切り口は綺麗だから皮は使えそうかな。爪も状態いいね。ただ……顔と牙はダメかな、ボコボコになってるし。それと血抜きもしてないからお肉は無理そう」


 確かに蜂に刺されて鳥居にぶつけたからなぁ。そういえば血抜きをしないと肉が臭くなるとか聞いたことがあるな。やっておいたら肉も売れたのか、次があったら必ずやろう。

 

「取り敢えず閉まっちゃおう、アイテムボックス」

「ん?」


 なんでもないような声で貞子はどこからともなく誕生日プレゼントが入っているような箱を取り出した。

 そして、吸い込むようにクマの死体は血の池を残して姿を消す。

 一連の動作の全てがやり慣れていた。


「今のは……」


「あぁっ忘れてた……ほら、私ってネットのものを持ってきて使えるんだよね。収納に限界はあるけど中に入れたものの時間は止まったまま、便利でしょー」


 便利って言ってるが正直コレはかなりやばい。外見以上に収納できるバックなんて代物は魔力が発見されてから研究されてきたけど、実用レベルに達したものは見たことがない。出来たとしても国家予算並みの金額で取引されるほどの奴だ。


「他にもあるよ!食べると大きくなるキノコとか誰からも見つからなくなる段ボールとか。流石によろず君が買おうとするとお高めになるけど」


「買えるのッ!?…………いくら?」


「物によるけど一千万サダコインくらいかな。外に出そうとするとヘトヘトになっちゃうから」


 一億か、流石にそこまで貯めるのは無理そうだ。


「前に外で売ろうとしたら童ちゃんにものすごい怒られちゃったのもあるんだけどねー。あの時は怖かったぁ」


「絶対やめてね!?」


 一般市場に出回ったらなんかしたら争奪戦が起きかねない。もしかしたら国が動くかもしれないし、犯罪なんかに使われたら目も当てられないからな。


「分かってるって!……………………金欠の時は悩むけど」


「何か言ったかな?」


「ななんでもないよ!?じゃあ私先に帰ってるから!」


 消えた………。

 どうやら戻る時はわざわざテレビに入る必要はないらしい。

 一人残された俺は換金したお金で何を買うか考えながら玄関に向かって歩き始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る