剣聖ヒナタは知る、自分の実力を、そして気持ちを…【ちょっと良い話?】

 追放か…確かにやり過ぎではないかとは思う。

 ただ、ナスビンの行動は余りに酷いのも事実。

 ついつい浴場で言ってしまったが…これはケジメだ。


 それぞれの部屋がある廊下を歩きながら思う。

 ここ最近、勇者レインは賢者サラシダと2人で夜を過ごす事が多い。

 村から出た時はレインのハーレムみたいな状態で、最初にナスビンが脱落し、そして私もレインとの時間は極端に減っていった。

 今では自分からも行かないし呼ばれもしない。

 レインも別に、ただ女を並べたいだけじゃない、強い人と一緒にいたいのだ。

 例えば…今だとアザスさんか…そして彼は信頼の証として恋仲になる方法を取っている。

 

 しかし皆が皆、レインの様に恵まれた職業ではない。

 恋慕だけでは冒険者は出来ない、幼馴染の絆だけでは強くなれない。

 そう思える経験を今では皆が積んだ結果だと思う。

 王国が私達を鍛えるべくパーティー内の師弟制と呼ばれる制度がそれを分かりやすくした。


 大人になるという事。

 冒険者として、1人前になる事。

 そして本来は孤高であるべき職業の剣聖、そして武器種の絞られた侍として成長するという事はそういう事だと思った。

 幼き頃、幼馴染達とした約束。


「私はレインと共に、ずっと前衛で皆を守るぞ!」


 少しずつ感じていた力の差…勇者の奇跡、勇者の力の恩惠と、その結果で手に入る魔石と魔導書…その魔石による賢者の力の底上げと魔導書による強化…それだけで我々はAランクまで登った。


 私とナスビンは見ているだけだった…いや、ナスビンは回復や荷物を持っていたりする。

 一度不甲斐なく思いナスビンに荷物持ちを手伝うと言って断られた。


 しかも私はお飾りと言えど前衛だ、役割として前に立つ…そしてレインに庇われる。


 何故なら剣聖の固有スキル


【居合一閃】条件をクリアすれば即死攻撃

【自動防御】武器の耐久力の限り自動で攻撃を弾く


 どちらのスキルも一度発動すれば疲労困憊になる、そして…致命的なのが…武器が壊れる…つまり役立たずになる。


 私の師となったタインさんに聞いた。

 私はどうすれば良いのか?剣聖とは何なのか?

 

「スキルとは基本的に4段階、他に類を見ないスキル程、文字数が多い。これは以前、転生者がスキル鑑定士の時に定めた取り決めだ。剣聖には、四文字のスキル、数種類の希少な固有スキルが付くが…」


 聞きたくなかった…剣聖のスキルは全て武器依存…侍の武器・刀はただでさえ希少で街で売っているものは値段の割にナマクラばかり。自動防御に耐えうる狂った耐久性のある刀は殆ど無く、侍の剣聖の殆どは高ランクまでスキル無しで他武器を使って強くなる大器晩成型だそうだ。 


「昔、帝国七将に剣聖の上位互換の武神と言うのがいたが…数百年、刀狩をして刀を100本近く背負ってたな…」


 数百年…その頃には死んでいる。


「では…私はこのパーティにいるべきでは無いのでしょうか?ど、どうしら…いいのでじょうがぁ…」


 自然と涙が出た。気付けば泣いていた。

 ずっと皆に気を使われて、我慢していたものが溢れた。

 まだレインが勇者の才能が開花しない子供の頃、1つ年上で皆のまとめ役だった私。

 ナスビンがハーレムがどうしたとかいうがそんなのどうでも良い。

 お姉さん役だった私が一番の役立たず、自分の事しか考えられなくなる様な人間と言う結末に悲しみが止まらなかった。

 師であるタインさんに全てを吐露した。


「そうだな…まず体術と色んな武器を使いこなそう。そこからだ。お前はまだまだ剣聖の卵…だが、その卵は必ず大空へ羽ばたく者になる」


 頭を優しく撫でてくれながら、タインさんは言った。

 タインさんは慰めない、ただ道を示す。


 そこからひたすら体術と各武器の使い方を教わった。

 誰でも使える短剣から鎖鎌という変わった物まで触る。

 短剣に至ってはナスビンの方が使いこなしていたけど…それでも…我慢して、時には弱音を吐いて。

 

 弱音を吐くとそんな事は無いと励ましてくれる言葉に支えられた。


「やはり私は…才能がありません…ナスビンより…」


「それぞれが魔王と言われた、帝国七将の一人と相打ったのが当時剣聖だった男だ。あの剣聖がいなければこの王国は、今も帝国、もしくは魔王と言われた七将の誰かと戦争中だっただろう。その剣聖も少年時代は荷物持ちだったと聞く。それにナスビンはアレだから。」


 最後は何言っているか分からなかったが、タインさんの言葉を私は信じる。


 体術の時はタインさんの力強さにドキッとした。

 それにヘン一族に伝わる少し味も見た目も悪い秘薬もくれた。

 身体が成長する、熱くなる。

 

「体術は体が資本、食って鍛えての繰り返しだ。お前は筋が良い。さぁ私の分も食べなさい」


「はい!頑張ります!」


 日々、優しく、時に厳しく、ダンジョンではギリギリまで助けてくれない…しかし何処かで守ってくれている気がした。


「ヒナタは弟子、つまりヘン一族の仲間であり、二国間暗部の幹部である私の弟子、弱い訳が無い。自らの力を信じなさい、自信を持ちなさい。まずはコレを授けよう。」


 着物の下に着れるという事で、首肩手足にガードの付いた身体のラインが浮くピッタリしたヘン一族の忍び装束という装備を貰った。

 師匠とお揃いでドキドキした自分が情けなく恥ずかしい…


「私のインナーは一族伝統の呪われた装備だから渡せないが、これも様々な機能が付いている一品だ。着物の下に装備出来るぞ。マスクは要らないだろう。顔を隠すだけのものだしな。ん?私の顔かい?同じ一族でも見せないよ、見せる時は死ぬ時だな…まぁ、見れる顔でもないよ、ハハハ」


 アザスさんやシェラスコさんはとてもキレイな人だ、何となく…タインさんも綺麗な人なんだろうなと思った。


 気付けば…私は同性なのにタインさんに惹かれていた。

 私はダンジョンに潜る時は流石に着物を着るが、タインさんの前では着物を着なくなった。

 そもそも自動防御がある私に防具は邪魔だ。

 この人の弟子という事を主張するように。

 

「ヒナタ?な、何故、着物を着ないんだい?そのインナーは、股間が…それに色々と浮いて…」


「皮のショートパンツ履いているから大丈夫です、それより早く体術の修行をお願いします!」


 それからダンジョンに入り、魔物討伐と修行を繰り返した。

 刀で一刀両断する侍に固執せず、安い落ちている様な武器を犠牲にする、その為に着物の上着に専用のホルダーを作り対応した。

 師匠達がいたとはいえ、レッドドラゴンを倒しSクラスになった時は持っていた武器を全部犠牲にして侍ながらタンクの役割を果たした。


「良くやった。祝にこの中から一本選べ、そしてこれは俺からの祝いの一本だ。」


 並ぶ仰々しい刀、そして手渡された長物なのに刃先数十センチしか刃が無い棒のような刀…


「この棒みたいなのは自動再生のある刀…【無限回廊】…かの七武将・ケンシンが自動防御の際に使っていたものだ。刃先がこの約1メートル半の間を移動する。そしていくら欠けても相手の魔力を吸って再生する。俺は自動防御を持っていないからな。今のお前ならしっかり休息を取ればダンジョン内で自動防御を維持出来る筈だ。そして後一本、相手を切るための一本を選べ」


「あ、あぁ、う、嬉しいです!ありがとうございます!では…」


 どれも名刀揃いだが気になる一本があった。


「これは?」


「あ、これは違う。間違えた。ケンシンの懐刀のシンスイという変態妖怪くノ一の刀だ。四刀流とか言ってな。両手と口と下の口でその…柄がアレの形してるだろ?アレをその…アソコに入れると切れ味が戻るんだよ…それを挿したまま襲いかかって来てね……まぁこれはやめた方が…」


「これにします!この刀の持ち主はどんな死に方を?」


「え?コレ!?いや、シンスイは召喚勇者と相打ちになって、その勇者ごと十文字にケンシンに斬られたよ」


「それは…幸せだったでしょうね…タインさんは使った事あるんですよね?」


「まぁ試し切り程度は…」


「やはり…私、これで切りたい人が居るんです…」


 私はまさに男の魂と呼ばれる形の柄を見て、コレをタインさんが挿れたと聞いてゴクリとなった。

 私は気持ちを正直に…心のままに…タインさんに向けた。

 聞けばこの刀…武神の懐刀の刀…

 

「タインさんを…師の心を斬れる様に!」


「え!?お…私!?は、はい」


 私はアレの形の柄をタインさんに向けて目を見て言った、もう後にはひけない。同性だからとか関係無い。私は、この人に心を斬られる為に生まれてきた。

 師に憧れるこの気持ち、溢れ出る想いは止まらない!


 そして気持ちが強くなれば成る程目に付くアイツ……ナスビンの奴が…あの変なチ○コを見せつけて…男娼としてタインさんを誘惑するアイツを…絶対許さん…

 

 

 


 



 

 

 

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〜雄すの娘〜  Sランクパーティーにお荷物は要らないと追放されたら、化け物が一緒にヌけてズルムケを希望していた クマとシオマネキ @akpkumasun

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