第2話 謎の力

部活が終わって校門へ移動する。またついていなくても石井の瘦せた姿が目に映った。


「待たせてごめん」


「構わん」


いつもと逆方向の電車を乗って、日が暮れたまでたどり着いたのは、もはや都心部でない公園だ。公園と言っても、ただの更地しか見えない。人の姿がひとつもないこの辺りは、本当に三石市にある場所のは信じられない。


石井は僕の手を掴んで、公園をまるで目的もなく歩いていた。そのうち、この公園がこんなに広がっているのは初めて気付いた。地平線には、ある建物が段々大きくなってきた。あそこには、大きな「三石警察署」という文字がはっきり見えた。


「入ってください」石井がまるで人が変わったように、礼儀正しく僕をこの謎のビルへ誘った。


「お邪魔します」


怖いほど人の気配がない真っ白な一階だ。挨拶の声が壁にぶつかってエコーしていた。


石井が一変で何も言わずにエレベーターのボタンを押して、僕と一緒に五階まで乗っていた。一階と同じく静まり返り、あたかも白き聖殿の如し。


石井が502のドアを叩き、中からあっさりとした「はい」が聞こえてきた。


「オヤジ、この人は羽原涼司はばらりょうじ、前に言った友達だ」石井がドアを押し開きながら中のその人に話していた。


目の前にその人は、清潔で見事な警察制服を着ていた。目を上げる同時に、眉間の皺が寄せて現れた。その人を見た瞬間、すぐに刑事ドラマの警察署長のイメージが頭に浮かんできて、なんとなく緊張しちゃった。


「は…初めまして、羽原…涼司です。」


「オヤジの最近受け持つ案件はこの立花小夜と関わっているから、大量なインフォメーションが集まったよ。それは俺が言った証拠。でも、それを見せる前、今日の録音データをコピーさせてくれないか?」


「録音って、なんだ。僕そんなもの持ってない。」


「俺をバカにしないでよ、全部知っている。ほら出してよ、別にそんな重要なものじゃないし。立花さんは絶対許すから。」


「なん…!」


これはこの石井拓海と出会った以来、初めてこいつの鋭い観察力か勘か知らない能力に驚かされた時。


石井の言う通り、僕は確かに録音したんだ。理由と言えば、話は長い。


それは立花さんが転校してきてから二週間のこと。


部活で終わって、僕は廊下で遠いところを見てボーとしていた。


「羽原涼司、ですよね。用事があって、ちょっと付き合ってくれません?」と後ろから立花さんの静かな呼び声が聞こえてきた。


驚きのあまりに、僕は後ろに向いて、一言も言わずに馬鹿げた顔で彼女を見つめて、そして鈍感な様子で「はい」と返事した。


どうして今部活がないはずの立花さんはここに?そして今の大人気者はいつも圏外の僕を探して一体何の用事?


僕はその子と面を向かって廊下で立っていた。よく見れは、確かにきれいな子だ。午後太陽の光がオレンジ色と混じって彼女を被る光景は、カメラで撮れないのが惜しいほど麗しかった。


躊躇しながら、立花が唇を動いていた。


「実は、頼みがあるんだ…」


頼み事は簡単だ。クラスの中には、立花さんについての噂があれば、録音して聴かせる。僕は存在感薄いし、容易くばれないから、僕を選んだ。


「これは法律禁止のことだろう。それに、なんで録音しなきゃいけないの?」


「証拠として録音データは一番だろう?そもそも加害者のそいつらの方が罪深いではないか?羽原さんも、『勇者』になりたいといったじゃない?これぐらいのことさえできないのは、勇者とは言えないよね。」


硬く立花さんは最後の「勇者」にアクセントを置いて、皮肉さは一層強くなった。


「最後のは誰が教えた言葉?」ちょっと腹立っていた僕は直接に聞いた。


「鋭いね。教えないわ。」知らぬうちに、立花さんは廊下の突き当りに消えた。


「ちっ、やっぱその茂だろ。」


「どうして知っているの?」好奇心が上回り、僕は石井に問いかけた。


「あんたってマジで鈍いよ。もちろん茂が教えてくれたから。」からかっているか正直に言っているのかわからない石井っぽい話し方は戻ってきた。


「はいはい、これ、上げる。」もうどうしようもない僕は結局、抗う気もなくした。


「これじゃ、証拠っていうもの、見せてくれないか?」


突然、前よりずっと黙っているその石井のお父さんは咳払いして話してきた。


「録音ありがとうございました。羽原涼司さんですよね、息子の礼儀が不適切なところを、どうかご寛容してください、先ほど失礼しました。改めて自己紹介をします。私は石井龍賀いしいりゅうがと言います、三石市刑事課課長です。私は今、『精霊の力』をめぐって、調査をしています。」


「いや、これほどの機密はいいのかよ」石井がお父さんに耳打ちをした。


「解説する前に、確認の必要があります。羽原さん、突然ですが、私たちの味方になってくれませんか?」


「え?」


「いいから同意せよ!」恐ろしい顔で石井が促していた。まるで押し付けられたみたい、僕は頷くことしかできない。


「ならばよい。」石井課長が言いながら、机の上に置いている一冊の資料を僕に渡した、「これは機密とは言えませんが、帰ってから読んでください。」



家にたどり着いた時、すっかりの夜だった。


机の前に座って、デスクライトをつけて、ずっと手元に持っていてシワだらけの資料を広げて、一行ずつじっくりと見返した。


「アブラナ村の伝説は根拠があることはもう明らかになった。特に『精霊の力』というものには、モデルがある。」


「歴史的記載によって、この力が見つかれたのは伝説の時代より前のこと。『精霊の力』が耐えられる限り、人の意識をコントロールできると分かった。その力を獲得するため、人はまずこの町特有の蜂蜜を飲んで、そして一日ほど待つ。大部の人はその力に反噬はんぜいされ狂いつつ、その中の一人はこの力を耐えて『支配者』となる。『支配者』は蜂蜜に狂った人を救い、理性を戻させるという機能が持っている。でも、『支配者』がある程度の時間範囲に出てこられていなかった場合、前に狂った人間は周辺へ暴力的行為を取る可能性があり、理性にも戻れない。その故、あれだけのリスクを背負い、勇ましく試練を受ける人を『勇者』と呼ばれた。」


「『支配者』の存在のおかげで、軍隊や政府機関の操作は簡単になった。毎年四月ごろ、試練を受ける人は政府に用意された町の中心に集めて、蜂蜜を飲む。こういう活動もその時期の伝統になったと近代の歴史学者が普遍的信じられている。」


「この伝統を止めた時はおよそ今より300年ぐらい。その年、『支配者』は一人も出られないと記載された。恐怖の代わりに、もっとの人は自分がその『支配者』かもしれないような考えを抱えて試してみた。その故、この意外の被害者ともたらした危害は全く予想以上で、政府も世論もよく備えていなくて、革命まで発展した。」


「また理性を保っている庶民たちは当時の政府を討伐した。『支配者』に依頼し訓練をおろそかにした軍隊は戦力がなくて、程なく首都も陥落しまった。そして新しく成立した国はつまりアリエントリアだ。字面で『勇者』が存在しない国だ。」


「技術の制限で活用されない『精霊の力』は、永遠に封印されるべきなんだが、最近また復活する様子が見えた。それはいわゆる、『都心異常暴走事件』、通称『都心暴走』の一連謎の悪質な事件なんだ。ここには、『都心暴走』は以前認定された事件に限らずに、『都心暴走』と類似する事件も全部調査範囲に含まれた。」


以下の内容はすべて前に起きた事件と解説だ。含まれた事実はほぼ公開された情報で、面白いぶんは解説だ。「都心暴走」の原因は今まで不明だけど、「支配者」の理論で解釈すれば妙に納得できると感じた。


前提として、著者は三つの仮説をあげた。


一、「支配者」は、他人を影響や誘導できること。


二、「支配」された人間は、暫し蜂蜜を飲んで狂った人と同じく理性を失うこと。


三、「支配者」は、一人しかいないこと。


例えば、「稲垣駅ホーム集団無差別突き落とし殺人事件」。電車がくる時、突然で駅前の幾つの人は周りの人をホームから突き落として殺そうとした。十六人死亡で、また数十人は怪我だった。こんなショッキングな事件の続きはもちろん、犯人全員は死刑だ。でも、おかしい点もある。突き落としみたいな殺人手法を監視カメラいっぱいあるホームで使うのはやはり不思議だ。それに、殺人の動機も未だ不明瞭。でも、「支配者」がいれば、色々は説明がつく。本当の犯人、つまりその「支配者」はただ隣で見ながら意志で指令を下す。「支配」された人は「支配者」が誰かが知らないから、罪名を他人に擦り付けて完璧な犯罪になれる。


一と二の仮説は事件で検証できるが、三番目の仮説はたかが推測ので根拠はない。


「『精霊の力』と犯罪における利用」というタイトルが資料のカバーに書いてあって、著者の名前はその下にある。


「ドレドレ…石井和子、石井くんと同じ苗字だね。そういえばまだ石井くんの母親か?見たことはないね、いつも出張中だから。まぁ、明日聞いてみようかな。」


資料を整えてスクバに詰めて、ベッドに倒れた。机の上に置いてある五歳ごろ実家で撮った写真をじっと見ていた。


「ナギ姉…」


元々、僕には双子の姉がいた。羽原凪はばらなぎ、いつも優しくしてくれる人なんだ。

でも僕はナギ姉を嫉妬する。顔はきれいだし、頭もいいし、それに絵も僕よりうまいから、隣のおばあちゃんまでいつもナギ姉を偏愛するようが見えた。いつからか分からないけど、僕はだんだん家族にも無視された存在になった。


でも、僕の好きなナギ姉がいるから、僕は淋しくない。ナギ姉はいつも母親みたいに僕のそばにいて、僕と遊んでくれて、落ち込んでいる時慰めてくれた。


これ程穏やかな生活は長く続いていなかった。


僕の六歳の誕生日その日、ナギ姉は階段から転んで意識を失った。


まさに最悪な誕生日だった。


その日、ナギ姉は救急車に病院へ運ばれた時のサイレンは、思い出したらまた耳側で響いている。その時の僕は、また何が起きたのはよく理解できなかった。


その日から、僕は二度とナギ姉と会ったことはなかった。


その日から、僕は分かった、人は死ぬんだ。目を閉じて、息を止めて、永久にそのままで二度と起きない。それは僕が見た、最後のナギ姉の姿だった。


僕からナギ姉を奪い去ったものは、死神なんだ。


葬式の日にあったこと、僕は全く記憶がなかった。やっぱり、人は悲しすぎることを頭から消し去るのは、本当の話だろう。


過去の悲しみに浸っている僕は、ウトウトとベッドで眠っちゃった。

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