1-3
「
「ちょっと。そんなに乱暴にしたら、生地が
山主はこちらの手つきに文句をつける。青嵐はそんな相手を、き、と、鋭く
「うるさい! 黙れ! だいたい俺はアンタを殺しに来たんだぞ!」
なんで洗濯なぞさせられなければならないのだ、と、そう
「残念ながら、私を殺すことなど、誰にも不可能です。――あなたもさっき、それは身を
調べが足りませんでしたね、と、天涯山主は笑いながら、くすん、と、肩を
青嵐は、ち、と、舌打ちをする。とはいえ、相手の言う通りといえば、そういう面も確かにあった。
不老不死――……天涯山主というのがそういうものだと、青嵐は
「その……天涯山主ってのは代々、アンタと同じなのか?」
青嵐は訊ねてみる。
すると、こと、と、
「少なくとも、私の記憶の限りにおいて、先代などいませんが」
天涯山主は、またしてもこちらを
「天地人の
青嵐は返す言葉を失って、思わず相手をまじまじと見据えた。
天涯山を守護する者を、代々、天涯山主と呼称するのだ、と、
天涯山主は、代替わりなど、ただの一度もしてはいない。
だが考えてみれば――この青年が、真実、老いず、死にもしないというのなら――それも当然のことだった。そも、代を重ねる必要がないではないか。
青嵐はきゅっと眉根を寄せた。あまりにも根本的な情報を、己は掴めていなかったわけだ。調べが足りない、と、天涯山主に
とはいえ、己の情報収集不足の未熟を、ただただ相手に指摘されるがままに認めるのも、なんとはなしに業腹だ。
「……今回はちょっと、時間がなかっただけだ」
それで青嵐は結局、ぼそ、と、そんな言い訳をした。
すると天涯山主は、ああ、と、得心したように息を
「
そう言われて、青嵐は、ふと、
天寿も近い高齢――……凌の国主は、もはや明日の命をも危ぶまれる状況だった。だからこそ青嵐は、一刻も早く復命せねばならないのだ。
それなのになぜ、自分はいま、暗殺を命じられた標的のはずの男の
急がねば、と、おもう。早く天涯山主を仕止めて、龍玉をこの手に得ねば、と、じりりとした焦りが胸に湧いた。
こんなことをしている間にも、我が王の命の
その刹那、ふう、と、静かな息が聞こえた。
己でないなら、もちろんそれは、天涯山主の
「心配せずとも、凌王はまだご存命でしょう」
いまのところはね、と、まるで青嵐の心を読んだかのように山主は言った。
「中原の王の
国主の交代などに際しては、人智の外の現象によってそれが
「だから安心して……次は、お掃除をお願いしますね。――ほら、あそこの石畳。
「っ、はあ?!」
なんで俺がそんなことを、と、言いかけるが、それよりも先に天涯山主がにこりと笑った。
「いいですね? 〈青嵐〉」
「……っ、わかったよ! やればいいんだろうが、やれば!」
そして青嵐が中庭を
とはいえ相手は、なにも掃除に励む青嵐の様子を見守っていたわけではない。そのことは、青嵐の視線に
けれども、またすぐに、山主は、ぼう、と、遠いどこかへ視線を投げてしまうのだ――……庭の先にある門のほうへと顔を向けている相手の姿は、まるで、いまだ来たらぬ誰かの
そんなことを考えて、なにをくだらない、と、青嵐は首を振って、己の
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