第18話 ダンジョンナイン4

第十八話 ダンジョンナイン4

 僕らはダンジョンの深部へと向かった。

「全員無事なのが、少し不思議なくらいだ。ここはきっとダンジョンナイン。それは確かだ。誰が仕組んだのかはわからないが」

「とにかく核を取っちゃいましょう。そうすればモンスターのリスポーンが止まります。ただ、そのモンスターを倒せるかというと、倒せないので、結局逃げることにはなるんですが……」

 僕がどうしようかと思案した。

「それか、こういう作戦もあります」

「何? 名案でも思いついたの?」

 紅が言った。

「うん。すごく基本的なことなんだけれど……」

 そうすごく基本的なことだ。これは僕らの命を守るためのもの。もう、ダンジョン攻略とか言ってられない。レベルナインのダンジョンは誰も攻略できないのだ。だったら――。

「ここはギルドがどうとか言う前に、出てしまうという選択肢はあります」

「なるほど。クエスト放棄か」

 紅丸さんが言った。

「はい。レベルシックスかと思ったら、レベルナインだったわけですから、これはもう仕方がないです。諦めも肝心です」

「核を取りに行くんじゃなくて、出る方向へ行くってことね」

 紅が言った。

「僕もその方がいいと思うな。死んじまう」

 そして、僕たちは踵を返して、出口の方へ向かった。

 しかし――。

 そううまくはいかない。

 モンスターが道を塞いでいた。

「ここは僕に任せろ」

 紅丸さんがモンスターの姿に変わって、モンスターを薙ぎ倒していった。

「行け! 通れ! 今のうちだ!」

 足止めをしているうちに、横を通り過ぎる。

 そして、紅丸さんもあとから逃げる。

 それを、繰り返し行った。

「今、階層はいくつですか? 阿久津さん」

「だいぶ深いところまで来ちゃったからね。十二とかじゃないかな。地形的に」

「十二……」

 紅が繰り返した。

「でも、今までやってこれたわけですから、戻るのは造作もないことな気はしませんか?」

「強力なモンスターが現れなければ――というただし書きではあるがね」

 そして、第五階層に到着すると、壁から何かモンスターのようなものが出てきた。

「何……だ? あれ……」

 モンスターなのか、そうなのか? 手……じゃないのか?

「巨人の手だわ。あれが生まれたら、地上に戻りにくくなるわ」

「フー。グガガガ……」

 そう声が聞こえたかと思うと、壁が崩れた。

 巨人が出てきた。

「トロールではないみたいだ」

「たぶんもっと上位のモンスターだろうね」

「逃げるぞ! 走れ、走れ!」

 そう紅丸さんが言うと、僕らは、急いで、ダンジョンの階段を昇った。

「畜生、早くビールが飲みたいぜ」

 阿久津さんが言った。

「今は、ビールってないんじゃないです?」

 僕が言った。

「ああ。そうだった」

 大人が狩られた影響で、タバコ、酒はなくなったのだ。

「とにかく何か飲みたい。喉が渇いた」

 それから、順調に階層を戻っていき……。

 第二階層付近で、休憩を取った。

「はあ、はあ。死ぬかと思ったぜ」

「ええ。まあ、何とか生きてますね。我々」

「うん。でもまだ油断ならないわよ」

「ここまで来れば大丈夫だ。僕の強さがあれば何とかなる」

 そして、休憩が終わると、すぐに第一階層への階段を昇った。

「まったく、ギルドもレベルシックスとレベルナインをどうやったら間違えるんだね」

「しょうがないですよ。こればっかりは」

「まあ、あとで抗議してやる」

 阿久津さんはだいぶ怒っているようだった。

 そして、僕らは無事に地上へと出ることができた。

「よっしゃ。勝った! 何とか生きることができた!」

 その時の開放感たるや。

 生きていてよかった……。

 そのあと、ギルドに文句を言ってから、宿屋で夕食となった。

「まあ、金は吹き飛んだけど、乾杯」

「乾杯」

 そして、僕らは二度と背伸びして難しいダンジョンを攻略することはしないと誓ったのだった。

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