第15話 ダンジョンナイン
第十五話 ダンジョンナイン
「紅丸さん、ユニオンから出れたのはありがたいんですけど、流石に正規の手順を踏んでから出た方がよかったんじゃないかと思うんですけど……」
そう言うと、紅丸さんは、高らかに笑った。
「何を言うか。核はもうギルドに提出済みだ。何も心配することはない」
まあ、いいんだろうけどさ……。
「でも、勝手に出てきたのは、まずい気がするんですけど……」
「気にしすぎだ。君は、何でもその感じなのかい? そんなことをしていたら、気にしすぎて、頭にコケでも生えるぞ」
コケ……。
ギルドマスターはモンスターだった。つまり、この目の前で、人間のように喋っているのは、人間ではない。モンスターが我々に話しかけてきているのだ。知能も同等レベルのモンスターが。
それに、ギルドマスターを当初から務めていたわけだから、本当に頭脳は人間並みなのだろう。
すごく不思議な感じしかしないが、事実なのだから受け入れるしかない。
「では、浩二くん。君の家へ戻ろう。ちなみに私は、顔を変えられるのでね。君のパーティに入れてほしい」
「え?」
これが真の目的だったのだと、今わかった。
紅丸さんを、僕のパーティに?
「いいですけど、阿久津さんや紅に何と言ったらいいか……」
「紅丸という新入りに監獄を出るための手続きをしてもらったでも、何でも言ってくれれば大丈夫だ」
「いや、まあ、事実ですけど……」
どうして僕のパーティに入りたいのだろう?
他にもいろんなパーティがあるだろうに。
「今、君はどうして僕のパーティに入りたいのか? と考えたね?」
「えっと……」
当たりである。まさしくその通りである。
「私はね、モンスターだ。だから、駆逐される対象ではある。そして、モンスターというのは、どういう特性があるか、知ってるかい?」
確か……。
「核を壊せば、いなくなるというか発生しなくなりますよね。少なくともそのダンジョンで出ていたモンスターは」
「そう。私がいたダンジョンの核は既に壊されている」
「え? それじゃあ……」
どうして、紅丸さんがここに? 消えるはずじゃないの?
「では、どうして私がここにいるのか――ということが疑問に出てくるだろう。それは、私は半モンスター、半人間だからだ。どちらでもない。生まれた時からそうなのだ。もっとも、生まれた時の明確な記憶はなく、人生の大部分を人間と過ごしたし、その期間は、私にとっても人間としての時間だった。私はモンスターでありながら、モンスターを倒し、人間の平和が訪れることを願っている」
「そう……だったんですね。てっきり、スパイか何かだと思ってました」
そう。モンスターたちが知能を持ち、その最たる例である紅丸さんを人間界に送り込んだのではないか? と、思っていた。
「ははは。そうだね、まあそう思うのも無理はない。だが、私は君の、人間の味方だよ」
「では、宿屋に……。でも、ギルマスの顔はみんな知ってると思うのですが……。そこらへんは大丈夫なのでしょうか?」
「あー。そうだね。ただその、もうギルドにも和解交渉もしたし、いいんじゃないかな。仮面被った方がいいのかい?」
「ギルドには、話はつけてあるんですね」
「うむ。流石に、途中で放り投げて逃げてしまったのでね」
「じゃあ、大丈夫か」
「そんな、気にするな。君はあれだね。ちょっと気にしすぎのきらいがあるね」
「そうでしょうか。僕としては何とも思ってないのですが」
「そういうのは、他人から見ないとわからないものだよ。さて、宿屋へ行こう。随分と彼女らも心配してるからね」
そして、宿屋へ行った。
紅たちが僕らを迎え入れてくれた。
「よかった」
そう言いながら、僕の胸に飛び込んできた。
シャンプーのいい匂いが……!
「あ、ああ。大丈夫だよ。それより、僕のいない間、どうだった?」
「え? ああうん。別に変わりなし!」
Vサインを向けてくる。
僕もピースで返した。
「じゃあ、今度の話をするわね。今度、レベルシックスのダンジョンに挑戦します!」
信じられないが、そう言ったのは、確かに聞こえた。
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