第14話 ユニオンB

第十四話 ユニオンB

 監獄でのルーティンはこうだ。

 まず、清掃をする。これは、僕らのいる監獄を清掃するのだ。

「隅々まで磨け。いいか? もし変なことをしたら、レベルナインダンジョンへ追放するからな。覚悟しておけ」

 そう脅されながら、やることになる。

 そして、食事だ。

「大体が、オートミールを食べさせられる。だが、たまに肉が出る。その時だけお祭りだよ」

 ほぼ食事は、栄養成分の含まれたオートミールだ。

 それ以外は、牛乳かオレンジジュース、お茶の中から飲み物を選べる。

「牛乳かオレンジジュースにしておいた方が、原価が高いからいいぜ」

 それで、工芸品やアイテムなどの製造をひたすらやって、監獄での仕事は終わる。

 就寝は十一時となっているが、特に決まりはなく、起きて喋っていても、何も言われない。

 だが、次の日のことがあるので、寝る方がいいだろう。

「よし、やめ!」

 その一言で、みんな脱力する。

「はー。終わった、終わった」

 そして、また牢屋に戻っていく……。そんな日々を送っていた。しかし――。

「何? 脱走? 誰が?」

 誰かが脱走したらしい。

 騒がしくなって、看守たちは、どこかへ行ってしまった。

 その日は、木の置物の作業をしていたが、そんな雰囲気じゃなくなっていた。

 何やら不穏な空気だ。

「飯が食えるんだから、脱走なんてしなきゃいいのに。普通に実刑の年数いれば出れるんだからよお」

「それに、俺たちはいわゆる生き残りさ。モンスターに食われる心配もない」

 確かに、この人たちは、ここで生活できている。

 少しつまらないけれど、死ぬことはない。

「でも、脱走なんて、どうやったらできるんですかね」

 僕が先輩に問うた。

「今までも脱走する輩はいたさ。大抵が塀を乗り越えて――って感じだったな」

「だが、結局は捕まる。それで重い罪が降りかかる」

「結果、より長くここにいることになっちまう。意味のないことさ」

 僕は<主義>の力があるから、出れそうだけどな……。

 でも、何の<主義>が発動するかわからないから、おいそれと、そんなことはできない。

「お前は、あれだろ? 特殊な力持ってるんだろ?」

「ええ、まあ。いわゆる<主義>ってやつですね」

「じゃあ、ここから出て逃げることは可能だ。それはやらないのか?」

「そんなことしたら、一生逃げ続ける人になってしまいますよ。そんな不自由な生活は送りたくありません。それに――」

 それに――僕は、僕の<主義>は、ランダムで何か発動する仕組みだ。

 つまり、逃げるのに、最適な力が出てくるかもわからない。また、制限時間もある。

 出れる保証はない。

 そもそも、それで出れたとして、自由の身になるのか? というと、それはまったくもってならない。

 常に、また捕まるんじゃないか、という気持ちもあるし、実際逃げ出しただけで、何も変わりはしないのである。

 だから、僕はまっとうに、刑務所もとい監獄暮らしをしようと思う。

 でも、僕の罪って一体どのくらいのものなんだろう?

 何年くらい監獄暮らしすればいいんだろう?

 それがわからないと、ちょっとやる気が出ないというか……。

「まあ、ここでの暮らしは、全然いいものだからな」

 しかし、そんなことを言ってることも、言えない状況が起こった。

 ドン、という大きな音がした。

「何だ?」

 何かが壊れるような音だ。

「誰か<主義>でも使ったんですかね」

 僕がそう言うと、風が吹いた。

「あれって……ギルマス?」

 前ギルマスが立っていた。

「助けに来たぞ! 烏丸浩二!」

 は? 助けに来た?

「烏丸浩二って、お前か?」

 そして、僕は周りをキョロキョロして、誰も何もしなかったので、前ギルマスの元へ行った。

「ギ、ギルマス……」

「俺の本当の名は、紅丸。そう呼べ」

「でも、どうして?」

「お前がどこかへやった核は、既にギルドに提出済みだ。無実の罪を着せられていたのだ。しかし! ギルドはお前を解放しない。だから、俺が助けに来た! さあ、来い!」

 そして、巨人の背に乗って、監獄を離れた。

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