第13話 ユニオンA

第十三話 ユニオンA

 薄暗い部屋の中、僕は岩肌を流れる小さな水滴を目で追いつつ、今何日だろうと、ぼんやり思案した。

「よお、新入り」

 僕と同じ独房にいる犯罪者のルーという人だった。

「何やらかしたんだ?」

 何をした――か。

 僕もよくわかっていない。だっていきなりここに入れられたから。

 監獄ユニオン。そこに僕は、核を個人的利用で取ったとされ、入れられてしまった。

 ギルド法違反ってやつだ。

 独占のナントカってあった気がする。

「難儀だなあ。俺は人を殺しちまったのさ」

 本当にこの人は、殺人を!?

 それがどうしても信じがたかった。普通の人間だ。とても人を殺しそうには見えない。

「どうして、殺してしまったのですか?」

「まあ、いろいろあってな。だが、故意ではないってことで、死刑は免れたさ」

 そうか……。故意ではないってことは、事故に近い形でだから、悪質な人間ってわけじゃないのか。

「僕は、ギルド法に違反したからです」

「はははっ。ギルド法って、なかなか違法しにくいやつだぞ。面白え」

 そうなの……? 核を壊してしまう人とか、普通にいそうだけど。

「ほら、この前、新しいギルドマスターになったじゃないですか」

「あ? 俺はここにいるから、そんな世情なんて知らねえよ」

 そっか。この人は、ずっと牢屋にいるから、世間で何が起こっているかとかわからないのだ。

「えっと、ギルドマスターがモンスターだったってことは……?」

「え? マジかよ。そうなのか?」

 最近に起きた事件についてすべて説明をした。すごく驚いていた。どちらかというと、面白がっていた。

「へえ。それで、お前はテラーのやり方に反しちまったってわけか」

「人を救ったのに、あんまりですよ。核は壊れていないと思うので、それが出てくれば、ここから出れます」

「ブラックホールの<主義>をもう一回出すか、その先がどこにあるかを見つけるか……ここで暮らすかだな」

 友人の牧田が入らなかっただけで、マシみたいなもんだ。それだけはよかったと言える。

「まあ、仲よく暮らそうな。そう短くは済まねえだろうよ」

「はい」

 そうすると、看守がやってきた。

「二人とも、食事の時間だ」

 ちゃんと食わせてもらえるんだ……。そう思った。

 ただ、その食事は、コーンスープのようなドロッとした液体と、オートミール、牛乳……だけだった。

「まだいい方だぜ。昔は、このオートーミールが砕いてこのよくわからん液体と混ざって、はいどうぞって感じだったからな」

「そうそう。全然腹も満たされないって感じだぜ」

 みんな犯罪者なのに、このアットホームな雰囲気は何なのだろう?

 とても犯罪を過去に犯したことのある人たちに思えない。

「お前はどういう経歴なんだ?」

「僕は、冒険者でした。核を取っておかなきゃいけないのに、ブラックホールに飲ませてしまい、ギルド法違反。それで、ここに来ました」

「何だい。しょーもないことで入れられていたのか。そりゃあ、そうだよな。あんたみたいな若いやつが、ここに入るなんて、結構珍しいからな」

「皆さんはどういった経歴なんです?」

「俺は、万引きさ。しかも常習犯。金がなかったもんで、それをするしかなかった」

「俺は、嫌がらせ。むかつくやつがいたもんでさ」

 何だ……。ここにいる人たちは、大した経歴の持ち主じゃないんだ。

 だから、雰囲気がよかったんだ。

 そういえば、年齢層が高い気がする。生き残りなのだろうか。

「ここにいる人たちは、生き残りなんですか?」

「ちょっと違うかな。半分正解だ。俺たちは、牢屋の中にずっといたから、モンスターに食われなかった。だから、モンスターがどんなのかを知らねえ」

 そうか。そういうことか。でも、何だか安心するような。

 めっきり生き残りに近い大人の人たちと会ってなかったから、とても心地よく感じた。

「はい。食事やめ! 仕事にかかれー!」

 監獄での仕事が始まった。

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