第10話 ラーヴァ学園編 1

第十話

 ギルドが復活してから一週間。

 何か不満の声が上がるのではないか? と危惧していたが、特にこれといったデモも反論もなく、悠々と日々は過ぎていった。

 僕の方は、ダンジョン攻略を進めていて、未だにその日暮らしだけども、何とかやっている。

 そんな時、ある手紙が届いた。

「技術を得たくありませんか? 〈主義〉を持たない無色のそこのあなた! 一度この学校に来てみることをおすすめします!」

 とのことだった。

 僕はよくある勧誘チラシか……と、ビリビリに破いて捨てようと思ったが、そこでふと思った。

 僕がその日暮らしなのは、弱いから。

 弱いのは、〈主義〉を持ってない無色だから。

 じゃあ、この学校に行ってみるってのも、いいんじゃないか?

 と。

 まだ紅や阿久津さんには、相談してない。

 ダンジョン攻略をするフリをして通ってみるのもいいんじゃないか?

 だが、お前金稼いでないじゃん、と思われるのも癪だ。

 じゃあ、どうすればいい。

 そんなことを考えていた時――。

「ただいま〜。はー、疲れた」

 紅が帰ってきてしまった!

 チラリと僕の持ってる手紙を見る。

「どうかした?」

「え? ああ、いや、何でもないよ」

 クシャクシャにしてゴミ箱に入れてしまった。

「そう。ダンジョン攻略とバイトのかけもちって疲れるわね」

「そうだね。僕は宿屋辞めちゃったけどね」

「いいのよ。ただ私は欲しいものがあるから、働いてるってだけで」

 偉いよ。僕なんかより強いし、働いてもいる。

 それなのに、僕の方はどうだ?

 ダンジョン攻略だけして、特別強くもない。

 お荷物と言えば、それまでだ。

「ねえ、紅。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

 顔を近づけて言った。

「〈主義〉を手に入れるにはどうしたらいい?」

「顔近い……。ちょっと離れて。えっと……それは強くなりたいってこと?」

「うん……。なんか、僕って弱すぎるというか、全然パーティのどの役にも当てはまらないというか……」

「剣はこないだ買ったばかりの鉄剣だもんね」

 そうなのだ。

 金さえあれば、黒曜石の剣とか、溶岩剣なんかが買える。

 だが、それ買うお金すらない。

「うーん。私の場合は、ダンジョン攻略しててたまたま発現したかな……。だからそのうち出てくるんじゃない?」

 そういうものなのか?

 そろそろ出てこないと、一生バイト暮らしも冗談ではすまない。

「今度から素手でモンスターを倒すことにするよ」

「それはそれで、強そう……。じゃなくて、そんなことはしなくていいと思う。ただ何ていうのかな……。強さは、〈主義〉だけじゃないというか」

「〈主義〉だけじゃない……。じゃあ、それ以外の技術ってこと?」

「うーん。まあ、魔法系が使えると、だいぶ助かるかな」

 魔法……。あれは〈主義〉じゃないのか?

 ヒーラーってことだよな。

 うーん。さっきの学校の話。

 少しは真面目に考えてもいいのかもしれない。

「実は……その、こういう手紙が来てて……」

 その手紙を見せた。

「へえ。いいじゃない。わかった。私がこの費用は何とかするわ」

「え?」

「それに阿久津さんのお金も少しいただきましょう」

「いいの? だって学費プラス、生活費だよ?」

「強く……なりたいんでしょ?」

「そ、そりゃあ、そうだけど……」

「じゃあ、いいじゃない。私が何とかしてあげる! いつまでも無色の鉄剣使いじゃ、正直レベルスリーがいいとこだから」

 グサリときた。

 しかし、それは事実だ。変わらないといけない。

 僕から――。

「じゃあ明日、学校に行ってみるよ」

「うん。何か得れるものはすべて得なさい」

「わかった。ありがとう」

 そしてすごく平凡な僕は、次の日、「私立ラーヴァ学園」に入学した。

 その担任となった黒木先生が口を開く。

「諸君。よく入学を決意してくれた。僕は担任を務める黒木だ。レベルセブンを一人で攻略できる。〈主義〉は、迷彩主義。隠れて敵の喉元をかっ切ることができる。これからよろしく頼む」

 僕の、無色だけが集まった学園生活が始まった。

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