第9話 バイト生活 下

第九話

 バイトにも慣れ始め、段々と板についてきた頃合いだった。

「号外を見たか、烏丸くん」

 宿屋の主の美里さんが言った。ずっとこの人に指導してもらっている。

「え? 何ですか?」

「ギルドマスターが決まり、ギルド復興が本格的に始動したそうだよ」

「あ。そうなんですね……って、ええ!?」

 ギルドが復活する?

 しかも新たなギルドマスターが立てられた?

 そんな簡単にギルドマスターになる人を選んでいいのか?

 僕は懐疑的な心持ちでその号外を読んだ。

「新たなギルドマスターは、梶田涼太を任命する……ん?」

 この人、どこかで見たことがあるぞ……。

 そりゃあ、ギルドマスターになる男だ。

 僕が知ってても、おかしくはない。

「どうかね? これで安心――」

「あ!」

 会ったことあるわけだ。あの人だ!

 だが、一体どうして……?

 そう。それはテラーの一員である、あの男だったのだ。

「美里さん。この男、知ってますか?」

「いいや。特に……。何かあるのかい?」

「この男……。テラーの一味ですよ」

「何? テラー? それって、いわゆる悪の組織……か?」

「はい。どうしてこんなことになったか、聞いてきてもいいですか?」

「わかった。行ってくるのだ。今日は大して忙しくはない」

 そして僕は、ギルド本部に向かった。

 あれから少しだけ整備されて、元通りになっていた。

 しかし……。

 テラーを仲間にしたのは、どうしてなのか?

 それが疑問だった。

 扉を開け、中に入る。

「ギルド本部へようこそ。本日はどのようなご用件で……?」

「ギルドの中で、偉い人と話がしたいです」

「ええと……。クエスト関連でしょうか? でしたら……」

「いいえ。このギルドのことです」

「は、はあ……。左様ですか。でしたら、ギルド副部長をお呼びしますね」

 別室に通され、ギルド副部長とやらが来た。

「今回はどのような要件で……?」

「副部長さん。ギルドマスターがなぜ、テラーの一員なのか、教えていただきたく思います」

「なるほど。それにはいくつか段階があります。すべて話しますね」

「はい。お願いします」

「なぜ、テラーの人がギルドマスターになったのか。それは複雑な経緯があるんです」

「テラーであるということは、わかっているんですね」

「はい。前のギルドマスターは、モンスターでした。別に、テラーは、ギルドに対抗はしていません」

 そうなの……?

「テラーは、ダンジョンの核を取ること。それはギルドのダンジョン攻略を阻害していることになりませんか?」

「ええ。そうですね。でも、ダンジョンが攻略されているということに関しては、まったく同じ志です」

「悪の組織ですよ?」

「それは理解しています。そこで、我々は、幾度に及ぶ、軋轢、摩擦を解決するため、テラーを引き入れたんです」

「手を結んだってことですか」

「はい。今回、テラーと契約を交わしました。それは、お互いのことは干渉し合わない。ただし、核は破壊せず、テラーに引き渡すということ」

 え? それじゃあ……。

「じゃあ、今までのように、ダンジョン攻略はできないということですか?」

「まあ、そうなりますね。ただ、核を壊すのではなく、核を持ち帰るという感じになります」

「なるほど。核がなくなれば、ダンジョンは攻略されたのも同然……」

「そうです。利害関係は一致しています。何も問題はないのです。それから条約を結びました」

「どのような?」

「お互いに何もしない、停戦条約と、核を渡す譲渡条約、それからお互いのことには口を出さない不干渉条約。この三つを締結しました」

 それではまるで、ギルドが……

「それではまるで、ギルドが、テラーの傘下に入ったみたいな感じじゃないですか!」

「まあ、そうとも捉えられるでしょうが、これにより、ギルドがなくなることはほぼないと思います」

「それはそうですが……」

 そして、納得がいかなかったものの、ギルド復興により、バイトはしなくてよくなったのだった。

 絶対に、おかしい。

 そう思いながら、寝た。

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