第8話 バイト生活 中
第八話
バイト生活が始まって、はや一週間。
確かにバイトは稼げる。しかし、これでは冒険者には戻れないかもしれないと思ってしまった。
バイトをした目的というのは、宿代を払うためだ。
しかし、これはその日暮らしであって、恒久的なものにはなりえない。
バイトだけで生活が一生続くとも思えない。
じゃあ、どうしたらいいんだ、というのは、わからない。
本当は、冒険者に戻るということを無視して、さっさと就職してしまえばいいのかもしれない。
だが、ダンジョンはどうなる?
あのダンジョンは攻略されないまま、大人たちを食っていったモンスターは生きながらえるし、いずれ僕らが大人になった時に、食われない保証はない。というか、きっと、僕らも大人になれば、標的になるだろう。
そうなってしまったら、日本は終わる。
誰かがギルドを再建し、それを職業化しないと、何も変わらない。
でも、それを考えるのは、僕なのだろうか?
僕がそれを考えるにふさわしい冒険者なのだろうか?
僕は一介の冒険者である。
弱い。
だから、疑問を抱き、それを考える、心配するということくらいしかできない。
だって、僕がギルドマスターになるわけにはいかないし、ありえないから。
誰か、やりたいという人が現れ、内部から、世間的にもギルド復活をやってくれれば……。
まあ、今は、本当に日銭を稼ぐことしかできない。
不甲斐ないけれども。
そして、僕は、少女のような宿屋の店主にこき使われるのだ。
「おい、新入り! ハンバーグの焼き加減はどうだ!」
「はい! すんげえこんがりです!」
「よし! 二番卓へ持っていけ!」
「はい!」
そして、ハンバーグを皿に盛って、二番卓に持っていった。
「お待たせしました! ハンバーグです!」
「新入り! フライドポテトが揚がったぞ! テイクアウトに持っていけ!」
「はい!」
こんな感じで忙しいけれども、段々と慣れてはいっていた。
「ご来店ありがとうございましたー!」
宿屋は、宿の経営だけでなく、一階に酒場があるため、食事処としても機能する。
だから、こんなに忙しいのだ。
そして今日もその営業を終える。
「ふう。大変だった……」
「新入り! まだ序の口だ! あと、ゴミを捨てて、洗い物を片付けろ! 息をついている暇はないぞ! 明日の仕入れもチェックだ!」
この少女は何なのかというと、この宿屋の店主である。
齢十六も行ってないとか、何とか。
「はい! わかりました!」
そして、すべての業務が終わり、スポーツドリンクを喉に流し込む。
「はあ………きついけど、やりがいあるな」
そう思った。
「新入り。よくやったな。これが今日の給料だ!」
そして、一万円札をもらった。
「こんなにもらっていいんですか? 僕は大したことしてないですけど」
「いいのだ。結局宿代としてお前からもらうからな。その差分が給料と思えば、普通だろ?」
「ありがとうございます。ありがたくいただきます」
「おう! 明日もよろしく頼むな!」
「はい! お疲れ様でした!」
そして、僕は二階へ行き、ベッドに飛び込んだ。そして、眠ってしまった。
起きると、紅が書き物をしているのが見えた。
「あ。おはよう。あれ? ずっと眠ってたのかな、僕」
「そりゃあ、もうぐっすりよ。私はこれから新聞配達の仕事があるから、もう出ないといけないけど、宿屋の仕事はどう?」
「こき使われるけど、かなりやりがいはあるよ。給料も高いし」
「でも、いつかは誰かが新たなギルドマスターになって、ギルドを再建して、冒険者という職業がまた普通にならないといけないわね。こんなその日暮らしじゃ、きっと一生は食べていけないわ」
「うん。今度の休みに、秋葉原のギルド支所に行ってみようか」
「でも、誰もいないんじゃない? 休業しているわけだし」
「誰もいないことはないでしょ。そのへん聞いて、どうなってるかくらい聞かないと」
「そうね。まあ、何でもやってみるしかないわね」
そして、紅は部屋から出ていった。
もし、僕がギルドマスターになったら。
ありえない。
僕はレベルスリー程度の冒険者だぞ?
誰かいてくれれば、いいんだけど……。
「新入り! 今日も頑張っていくぞ!」
「イエッサー!」
こうして、バイトはまた続いていく――。
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