第7話 バイト生活 上

第七話

 ギルドが完全に陥落してから、一週間が過ぎた。

 この間に、ギルドの本質みたいなことが問われるようになった。

 モンスターをギルドの長にしていたのか、とか。

 モンスターと今まで気づかなかったのか、とか。

 モンスターだったのだから、ギルドはだめだ、とか。

 そうなって、結局は、モンスターイコールギルドマスターであるということだ。

 その事実が、よくなかったのだ。

 そして、ギルド支所も休業した。

 それから、僕らのような攻略を生業とする人たちは、路頭に迷うことになってしまった。

「お金を稼ぐ何かを考えないといけないわね」

 紅が、ベーコンを食べながら、言った。

「そうだね。ダンジョン攻略以外で、だね」

「僕はダンジョンのモンスター飯は嫌だぞ」

「脳汁でしたっけ?」

「やめろ、言うな」

 そう、阿久津さんが気持ち悪がった。

 確かに、モンスターは、食えるが、食い物ではなく、倒すものである。

「どうしようかな。今から就活? どうしよう。職業、冒険者じゃだめなのかしら」

「まあ、鹿とか、猪とかを食べれば、いいかもしれないね」

「まさに冒険者って感じだな」

「それでも食ってくことはできる。でも、そんなことをやっててどうしようかって感じですよね」

 それじゃあ、原始人と同じだ。食ってはいけるけれど、現代社会からは、離れてしまう。

「バイトをしましょう。阿久津さんも例外じゃないですよ。生き残りだからって、適当じゃだめですからね」

「わかってるよ。僕はプログラミングの才能があるから、それで何かするよ」

「私は、新聞配達でもしようかな」

「僕は……」

 何がいいんだろう?

 どうすれば、いい? 他のことを一切やってきたことがないからなあ。

「バイトか……。僕は店で働こうかな。知識あるし」

「いいんじゃない? そうと決まれば、これから面接に行くわよ!」


 無味乾燥な部屋に二人。

「えーと。君は、元冒険者?」

「い、いえ。一応、現役というか。本職の方が少し危ぶまれたので、副業を、というか」

 冒険者でいられるなら、冒険者のままでいたいよ!

 そんなことをおくびにも出さずごくりと唾を飲み込む。

「ふむ……。難しいと思うよ」

 何が?

 どういうこと? 誰でも簡単にできます、と書いてあったが!?

「え、ええと……」

 二の句が出なかった。言葉に詰まってしまった。

 何が一体、難しいのか、わからなかった。

「うちは大体、主婦がやってるんだよね。だから、君には少し難しいかもね。だから、今回のことはなかったことで」

 は?

 頭が真っ白になった。難しいって、どういうこと?

 なかった……ことで?

 そして、完全に意気消沈して、トボトボと帰路に着いた。

 宿屋の二階。そこが僕らの家。そこに行き、一人で溜息をつきながら、思いっきりベッドを叩いた。

「ちくしょう。何なんだよ。難しい? 難しいわけねえだろ、馬鹿野郎!」

 理不尽な断り方をされたからなのか、すごく悔しかった。

 たぶん、冒険者だから――だろう。

「あのスーパー、二度と行かねえ……」

 しばらくすると、紅が帰ってきた。

「ただいま〜」

「おかえり。どうだった? そっちは」

「うん。バッチシ」

「僕は断られた。めっちゃ馬鹿にされて」

「そっか」

「もう、どうすりゃいいか、わかんなくて……」

 彼女の胸に飛び込む。

 そこで、思いっきり泣いた。

 僕は、冒険者以外では、何にもできないという不甲斐なさに、泣いた。

 彼女はそれを受け止めてくれた。

「大丈夫、大丈夫」

 彼女は、頭をさすってくれた。

「僕……何にもできなくて……ごめん、ごめん」

「大丈夫、大丈夫」

 そして、その翌日。

 結局、宿屋で働くことになった。

「いいか、新入り! ここでは私がお前のマスターだ!」

 身長が足りてない女の子が言った。

「へい! イエッサー!」

「よし! バイトを舐めるなよ! 私たちがいてこその宿屋経営……だっ!」

 そして、バイト生活が始まった。

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