第6話 ギルド陥落 急

第六話

 西暦2204年4月某日。

 そのニュースは、全国へ広まった。

「ギルドって言えば、政府の次に偉いところだろ? それが陥落? しかもギルドマスターがモンスターに……」

「ああ。どうやら、それは本当のことらしいぜ。メタル系に取り込まれたのだとか」

「まじか。ギルドが終わったら、ダンジョン攻略を生業にしている俺らはどうなっちまうんだ〜」

「さあな。支所は生きているらしいから、そっちで受けるってことになるだろうな」

 そう。ギルドマスターがモンスターになってしまった。

 それは、普通の人間に対してなら、よくあることだった。しかし、名のある者がなるというのは、かなり珍しかった。

 メタル系のモンスター。それは、一度取りついてしまえば、もう元に戻ることは難しい。

「まあ、ギルドは、完全に潰れたわけじゃないけど、もう、見切りをつけた方がいいな」

 おそらく、ここにあると思う。その理由は。


 僕は、ベッドから起きると、横のベッドですやすやと眠る紅に、少し微笑みを向けてから、伸びをし、冷蔵庫から炭酸飲料を取り出し、飲んだ。

 ゴクゴクと飲んだあと、電子新聞を眺める。

 うーん。やっぱり、ギルドから離れている人が多いな。

 ここからどうなるんだろう。まず、ギルド再建には、あのダンジョンを攻略しないといけない。

 それは一体、誰がやるのか。

 もっと精鋭がやるのだろうか。僕よりももっと強い、もっとレベルの高い人たちが……。

「ん……」

 紅が起きてしまった。

「おはよう」

 僕がそう呟きかける。紅は、何と言ってるのかわからないが、たぶん「おはよう」と言ってる気がする。

「新聞見てるの?」

「うん。みんな、ギルド陥落に大注目だよ」

「ギルドマスターがまさか、ね……」

「うん。僕も今でも信じられないよ。ギルドマスターになるような人は、レベルがセブン以上な気がするんだ。実際そうだったし。だから、きっとそれよりも強い何かが、あのダンジョンにはあると思う。となると、僕らには、到底倒せるような相手じゃないってことだよ」

「そうね。私たちには、何もできないわ」

「うん。じゃあ、どうしたらいいか。たぶん、これからギルド支所が、実質ギルド本部になると思う。そして、そのうち、ギルドマスターに代わる人がリーダーが生まれると思う」

 それは自分じゃない。もっと別の誰かだ。とても追い越せないような相手。

「リーダーっていうと、レベルシックス以上でしょうね」

 僕はレベルスリー程度である。

 このレベルは、どういう基準かというと、スリーのダンジョンを攻略したら、スリー以上である。

 そういう少し、曖昧な基準である。

「選挙があるのかもしれないね」

「あのダンジョンはどうなるのかしら」

「たぶん、放っておかれる気はする。誰も攻略できないよ。一番上のギルドマスターがモンスターにやられたわけだから、それを超えられない僕らがどう刃向かっても無駄だ。だから、誰も、攻略できないんだ」

 それは、当たり前の事実だった。

 攻略できないのだ。

「ねえ。もう一度行ってみようよ」

「え? どこに?」

「ダンジョンに」

「死にに行くようなものだよ。だめだよ。君まで死んでしまう」

「それはそうだけど、私――」

 ドスン、という音が響いた。

「何だ……?」

 それはすぐにわかった。とんでもなく大きな巨人が家を薙ぎ倒していた。

「巨人? トロール種のモンスターか!」

「見て! あのてっぺんに……」

 そう。そこに、ギルドマスターがいた。メタル系のモンスターがいない?

 どういうことだ?

「我は、人間型モンスターの、ギルレロイド・ヴァーダー。ギルドのマスターだった!」

 え? どういうこと?

「烏丸君。あれは、元々モンスターだったのよ! ギルドマスターは元々、モンスターだったのよ!」

 そうか! それならいろいろ説明がつく。

 ギルドマスターがやられるわけないのに、やられた理由。

 ギルドが突然クーデターが起きたということ。

 その時、秋葉原支所に行っていた偶然。

 これは計画されていたことだったのだ!

「見て、どこかへ行く!」

 その巨人はジャンプし、遠くへ去っていった。

 ああ、本当に、ギルドが陥落したのだ。

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