第5話 ギルド陥落 破

第五話

 それは、早朝の出来事だった。その日は、秋葉原のギルド支所に行こうという日だった。

「ギルド陥落! ギルド陥落!」

 そういう声が響いていた。またギルド陥落の話か。そう思いながら、顔を洗って防具を装着していた頃に、紅がやってきた。

「あれ、どっか行ってたの?」

「ギルドマスターがどこかへ消えたらしいわ」

「え……?」

 どういうこと?

 声が出なかった。唖然としてしまった。何も言えなかった。

 ギルド陥落……。そういうことだったのか。ギルドマスターが行方不明。本格的に、ギルドが陥落したのだ。

「どうして、いなくなったのかとかは……」

「わからないわ。ギルドマスターが最後に見られたのは、ギルド本部らしいわね」

「行ってみよう」

「え……? 行くの? 何にもないのよ?」

「そこでギルドマスターがいなくなったんだろ? だったら、そこに何かヒントがあると思うんだ」

「探すって、こと? ギルドマスターを」

「うん。そういうこと。ギルドマスターを見つけるんだ。それでギルド復活を目指す」

「ギルドを復活させる……。わかったわ。ギルド本部に行きましょう。そこに何かあると思うわ」

 そして、僕らはギルド本部に向かった。

 そこは荒涼としていて、廃れていた。

 中に入る。阿久津さんが眼鏡の位置を変えながら言った。

「前と何か雰囲気が違う気がしているよ。何かが侵入したかのような気がする」

 それは確かに思った。

 紙が転がっていくのが見えた。しかし、その紙は、何かに吸い込まれていった……。

 あれは……。

「ダンジョン!?」

 僕はそれを見つめた。

「ダンジョンが発生したってこと? そこに、ギルドマスターが吸い込まれていったってことね」

 紅が冷静に言った。

 そして、そのダンジョンの壁を触った。

「突然ダンジョンが発生して、そこにギルドマスターが行ってしまった……」

「中に入ろう」

 僕が言った。

 全員が頷いた。このダンジョンを攻略しないと、ギルドは立ち直らない。

 奥へと進んだ。何のモンスターが出てくるかは、わからない。もしかしたら、レベルファイブ以上のダンジョンかもしれないのだ。

 死ぬかもしれない。

 でも、ここまで来たら、戻れない。

「あれは……」

 何かが近づいてきた。あれは、メタル系のモンスターだ。

「ギルド……マスター……?」

「ギルドマスターにメタルモンスターがくっついているわ!」

「もう、取り込まれてしまっているね」

 阿久津さんが見ながら言った。

「倒さないといけないのですか?」

「ええ。もう、モンスターと同じ。倒さないと、メタルにどんどん取り込まれて、強くなるわ」

「僕には無理です」

「でも戦わないと! きゃっ!」

 ギルドマスターから触手が伸び、紅を掴んで、引き寄せ、壁の中に入っていった。

「紅!」

 しかし、壁は無情にも、吸い込んでいった。もし、紅を助けたいのなら、ダンジョンを攻略しないといけない。

「とにかく、奥へ進もう。ギルドマスター以外に、ボスがいるかもしれないけれど、ダンジョンを攻略すれば、基本的に、ダンジョンは機能しなくなる。それはつまり、モンスターがなくなる。ギルドマスターと戦う必要は必ずしもないんだ。烏丸君? 聞いてるかい?」

 阿久津さんのとても正しい論理に、耳は聞き取っていたが、ショックな現実すぎて、我を忘れていた。

「は、はい。そうですね。核を、壊せば、別に戦う必要はないですよね」

「そう。それを考えて、もうギルドマスターのことは忘れるんだ」

 忘れる……?

 あれだけ元気だったギルドマスターが、メタルモンスターに簡単にやられてしまった。

 ギルドマスターは、ダンジョン攻略において、かなり強い人物が選ばれる。

 つまり、メタルモンスターにやられるくらいの弱い人物じゃないのだ。

 だが、一体、どうしてそんなことになってしまったのか。

 僕は、固唾を飲んで、奥へ進んでいった。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。

 それをよく考えないといけない。ちくしょう……。

 この事件の真相は、すぐにわかってしまうのだった。

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