第4話 ギルド陥落 序
第四話
「陥落した」
誰かがそう言った。
最初、何のことかわからなかった。僕がそれを知ったのは、ある日の午後、ダンジョン攻略の帰り道でのことだった。
「何か、人だかりができているみたいね」
紅がそう言った。
「うん。何だろう? 何か、あったのかな」
「こんなに人が出てくるのは、かなり珍しいわ」
僕はそっと人だかりの中心の掲示板を盗み見る。
そこには、「ギルド陥落」という文字がでかでかと書かれていた。
「ギルド……陥落?」
どういうことか、わからなかった。
人に聞いてみて、初めてわかった。中心にいた青年が教えてくれた。
「突然のクーデターらしい。ギルド本部が乗っ取りにあったあと、破壊されたんだとさ。誰も死者が出なかったからよかったものの、資料とかは全部なくなったな。ギルド関係者は、負傷を負って、今は病院だ」
そんなことが……。
「じゃあ、ギルドでのクエストはどうなるんだ……?」
「きっと、そのデータも吹っ飛んだわね」
紅が言った。
「ギルドが機能しない状態になったということか……」
「どうしよっか。素材の換金とかもできないわよね」
「そうだね。それじゃあ、とりあえず、ギルド本部に行ってみよう。どんな感じかわかると思う」
そして、僕らは少し重い足取りで、ギルド本部を訪ねた。
「うわ……。思ったよりも酷い有様ね」
入り口の扉は、割られ、開け放たれ、中が見えるが、物が散乱している。
もう、人なんて住めるところもなければ、廃墟にしか見えない。
「中……。入ってみる?」
紅がそんなことを言った。
「うん。入ってみようか」
そして、砂利の含んだ床を少し靴で擦りながら、中に入った。
「お化け屋敷みたい。もう誰もいないのかしら」
前までの様子はすっかりなくなってしまっていた。
クエストの紙などが散乱している。一体、誰がこんなことを……。
その時、ふと思ったのは、「テラー」のことだった。
「テラー」というのは、いわゆる悪の組織。ダンジョンの核を回収し、それで征服を企てようとしている闇の団体だ。
この間、出会った人物のように、何か、信念のあるような人ばっかりではなく、こういった悪逆非道なこともする人もいるということか……?
二階へ上がると、ギルドマスターの部屋があった。そこに一人の人物が、立っていた。
それはまさしく、ギルドマスターだった。
「ギルマス!」
僕がそう言った。無事だったんだ。そう思った。
「やあ。今回は僕がいない間に酷いことになってしまったね。号外では、ギルド陥落なんて書かれる始末。まったく遺憾なことだよ」
「ギルマスはどこかに行ってたんですか?」
「ああ。出張でね。秋葉原のギルド支所へ向かっていたんだ。途中で、ギルド本部が破壊されたと通告があってね。誰がやったんだか」
どうやら、ギルドマスターにも、誰がやったのかは、わかっていないようだった。
「誰がやったかは、わかってないんですね。その……。テラーが関係しているとかないですか?」
「うん。それは考えた。だが、彼らは、そういう連中じゃないということはわかっている。核を狙うことはあれど、ギルドを圧迫してきたことは一度たりともない」
「そうなんですね……」
「そして、今回も別の輩だろうということがわかっている。まだ負傷者の治療が完了していないが、それが徐々にでき次第、捜査をする。警察ともいろいろ情報共有をしなくては」
この世界のギルド職員も、警察も基本は少年少女がおこなっている。
大人たちの代わりになれるかは、わからないが、それで秩序は保たれている。
いや、――いた。
「とにかく、ギルドマスターが無事だったのでよかったです」
そう。ギルドマスターがやられたとかだったら、きっと、本当にギルドは陥落していたことだろう。
だが、もう、機能しない時点で、そうだとは言えるが……。
「今後、クエストとか、素材の換金はどうされるんですか?」
「とりあえず、出資金を募り、それでギルド再建を図るつもりだ。しばらくは、無事だったギルド支所での活動となるだろう」
そして僕らはギルド本部から、宿屋へ戻った。
「まさかギルドが襲撃に遭うなんてねえ。今までそういうことはなかったのに、なぜだろう?」
阿久津さんが言った。
「そうですねえ。何か、狙いがあったのでしょうか。例えば、お金を扱っている組織ですので、お金目当てとか」
「だとしたら、ギルドは陥落までいかないだろうね。何かを盗むか……それとも別の目的があったのか」
「ギルドマスターが殺されてない時点で、ギルドの本格的な陥落を狙ったクーデターではないと思うわ」
紅が言った。
確かに、ギルドマスターは、元気だ。秋葉原のギルド支所も機能している。
狙われたのは、ギルド本部。それも、ギルドマスターのいない間のギルド本部。
これは何かありそうだ。
「今日は、とりあえず、寝て、明日から秋葉原に電車で向かいましょ。私たちは、毎日カツカツで生きてるんだから」
それもそうだ。
僕らは宿代を何とかしないといけない。
そう思って、その日は目を閉じて懇々と眠った。
しかし、これが大きな事件の序章の序章だということは、この時、誰も思ってなかった。
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