家族団欒

浅野彼方

家族団欒

「ママ!これ美味しいね!」

 息子の圭太が美味しそうに赤身のステーキを頬張っている。うちは、経済的に余裕がないことから滅多にお肉を買うことができず、貧相な生活を送っていることから圭太には申し訳なく思う。


 そんな中でお肉を調達する機会があり、今夜は厚切りのステーキを夕飯に出すことができた。喜んでいる表情を見ると本当に良かったと思う気持ちと、少し申し訳なく思う気持ちが交差する。


「…ええ。美味しいわね」

 私も目の前のステーキを一口食べると、それはもう大変美味しいお肉だった。筋肉質であることから硬いと聞いていたから、繊維を切るように隠し包丁入れたり工夫したことが功を奏したのだろう。


 半分以上食べ勧めた圭太がフォークを皿に置き、顔を下げた。


「どうしたの?もしかして、あんまり美味しくなかった?」

 席を立ち、近寄ると俯いた圭太は涙を浮かべていた。近づいてくる私に心配かけまいと流れ落ちる雫を拭う。その腕にはところどころ青黒くなった部分が垣間見え、もっと早くに行動していればと後悔が募る。


「ううん。こんなに美味しいお肉……高かったよね。きっとパパが怒るよ」

「……大丈夫よ。けいたは何にも気にしないでいいの」

「だって、パパは遠くに仕事しにいくからしばらくは帰ってこないもの」

「ほんとう?じゃあ、これ全部食べても怒られない?」


「大丈夫よ。安心して食べなさい」

 青く血液の流れが悪くなっていた表情から、ほのかな赤みを取り戻し先程のような嬉々とした様子で残りのステーキを食べ始めた。


「ほんとうに美味しい!……また明日も食べたいなあ」

 目先の幸せから、またいつもの質素な生活を送ることを悲しく思っているのだろう。でも、そんな心配はいらない――


「大丈夫よ、まだまだ沢山あるから遠慮しないで食べなさい」

 そう。冷蔵庫の中には約30キロ近くのお肉があるんですもの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家族団欒 浅野彼方 @sakana397

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ