第37話 万世一系の船
深い緑に覆われた眼前の地面に、地下へと続く階段が忽然と現れた。
さらに一同を驚かせたのは、その素材だった。なんと「透明」だったのだ。それは理子が手に持った
「最初の鍵、八尺瓊勾玉は、船へと続く道を封じる鍵。そして、すべての鍵に共通しているのは、万世一系の血を受け継ぐお方にしか反応しないということです。おそらく、生体認証システムを進化させたようなDNA認証のような技術が用いられているのではないかと思われます。あくまでも推察ですが」
鈴木はここで言葉を区切ると続けた。
「じつは、私がこの鍵が開くのを拝見するのは二度目でございます。先の陛下がご即位された三十年前、密かに鍵の継承の儀式も執り行われまして、そこに私も同席させて頂きました」
鈴木の話は、最初から信じがたかった。実際、この瞬間まで信じ切ることができなかった。
しかし、たった今、目の前で起こった出来事に、理子は否応なくその話を信じざるを得ないと感じた。
「では、参りましょう」
鈴木が厳かに言うと、理子は気を取り直し、その透明の階段を下った。
階段は、古墳の円形部分の地下へとまっすぐ伸びていた。透明の素材は、柔らかく自発光していて懐中電灯などは不要だった。
とても千六百年前に作られた古墳の中を歩いているとは思えない。むしろSF映画の未来空間の中を歩いているような感覚だった。その異空間に圧倒され、誰もが言葉を失った。
階段を降りることしばし、階数に換算すれば五、六階は下に下っただろうか。階段は終わり、踊り場のような空間に出た。
正面を見ると、鉛色の金属の壁が行く手を塞いでいた。
「
沈黙を破り、鈴木が言った。
長方形の黒い箱を手にしていた職員が進み出る。
「理子様、どうぞお開けください」
理子は、先程と同じように黒い箱、布袋、玉手箱と順に開いた。
中からは、やはり同じように細長い古い木箱が現れた。
理子はちらりと鈴木を見た。鈴木は静かにうなずいた。
それを合図に、理子は慎重に箱を開ける。
中には、八尺瓊勾玉の入っていた球体をそのまま細長くしたような金属製のカプセルがやはり入っていた。表面はやはり滑らかで、鏡面さながらの美しさだった。
そして、理子が慎重にそのカプセルに触れると――
「――◯□△✕◯□△✕」
先程と同じような音を発し、カプセルが開いた。
やはり、自発光するクリスタルのようなものが出てきた。ただし、形状は異なり細長い直方体だった。
「それが草薙剣の真の姿であり、『船』に乗り込む扉を開く二番目の鍵です」
そして、鈴木は正面の金属の壁を指した。
「こちらに鍵を」
理子は鈴木が指す辺りに、取り出した自発光する直方体を近づける。
すると、なんとそのまま鉄製の壁に吸い込まれた。
直後、正面の壁全体が二回明滅し、壁の一部が透過し始めた。
つまり、扉が消えることで開いたのだ。
透過した扉部分から奥に進むと、半球のドーム状の広い空間が見えた。
中は薄暗いが、壁や床はすべて乳白色の素材に統一されており、やはりSF映画の前衛的な建造物あるいは先端的な宇宙船のようにも感じられた。太古の古墳の地下に、こうした超未来的空間があったという真実に、理子は改めて驚嘆せざるを得なかった。
「これが、船?」
理子がつぶやくと、鈴木が答える。
「その通りでございます。これが皇祖から受け継がれ、守り抜かれた『船』でございます」
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