第36話 最初の鍵
大仙古墳の濠を、海上保安庁のボートは進む。
しかし、目指す墳丘があまりに巨大かつ深い緑に覆われているため、まるで森のようだと理子は感じた。あるいは、湖に浮かぶ緑の巨艦にも。
濠を渡り切るとボートを降り、鈴木の先導のもと理子も墳丘へと上陸した。
「こちらです」
鈴木の後を進む。鬱蒼と茂った緑が行く手を阻んだ。
ただ、地面はふかふかして柔らかい感触だった。どうやら、長年誰も足を踏み入れなかったため、地面に落ちた葉がそのまま堆積し腐葉土となったものと思われた。
その後、道なき道を十分ほど進んだ。
手つかずの自然を押し分け、ずっと登り坂を登ってきたため、かなり息が切れた。
額に汗を浮かべた鈴木が「止まってください」と静かに言った。
理子も箱を持った職員も止まった。登り坂が落ち着き、平らな場所に出た感覚があった。
おそらく、方形、つまり四角い突出部の一番高い位置にいると思われた。
「
鈴木がそう言うと、職員のひとりが手にしていた黒い箱を理子の前に差し出した。
「理子様、お開けください」
数時間前、理子は鈴木に三種の神器は、じつは祖先が残した「船」を起動するための「鍵」だと知らされた。いまだに信じがたいとは思っていたが、その真偽もこれでわかる。
三種の神器は、天皇自身もその実物を目にすることを許されていないと一般的には言われてきた。祭祀に用いられる際も、箱に入れられた状態で使用されるのが習わしだ。ゆえに、三種の神器がこうして実際に紐解かれ、人目に触れることは、禁忌中の禁忌と言えた。
だから、自ずと理子も緊張しながら、ゆっくりと黒い箱を開けた。中には、さらに専用の布袋に包まれた、玉手箱のような箱。まず、布袋を開ける。続いて、玉手箱のような箱を開いた。
すると、さらに古い木で作られた小さな箱がでてきた。理子は、その木箱も慎重に開いた。
「……えっ」
思わず声がもれた。
小さな木箱の中には、本当に予想外のものがあったからだ。
それは、完全な球体で鉛色の金属製のカプセルのようなものだった。
表面はとても滑らかで、鏡面さながらに周囲の景色を映している。
どう考えても、千年以上前の文明に制作することは不可能と思われた。
理子は、その球体を慎重に取り出す。
すると球体は突然光を放ち――
「――◯□△✕◯□△✕」
信号音とも未知の言語とも思えるような音を発した。
同時に、球体はふたつに割れるように開いた。
――現れたのは、自発光するクリスタルのような立方体だった。
きれい。
思わずそんな感想を抱いた。
自発光する時点で、地球上の鉱物ではなさそうだ。あるいは、そもそも鉱物ではない?
答えは、鈴木が告げた。
「こちらが
「最初の……鍵?」
理子が聞き返すと、鈴木が答えた。
「理子様、八尺瓊勾玉に触れてみてください」
うなずき、言われた通り触れてみると、
――!
深い緑に覆われた眼前の地面に、地下へと続く階段が
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