第35話 大仙古墳
――大仙古墳
特徴は、なんと言ってもその巨大さだろう。
全長約四八六メートル、高さ約三六メートル。
エジプトのクフ王のピラミッド、中国の始皇帝陵とともに、世界三大墳墓のひとつにも数えられる。
二〇一九年には、この大仙古墳を含む「
建造は今から約千六百年前の五世紀中頃とされ、宮内庁により
しかし、実際の埋葬者は明らかではない。
なぜなら、宮内庁により古墳への立ち入りや調査が厳しく制限されているからだ。そのため、埋葬者を特定するような本格的な学術調査は行えない。大仙古墳以外にも、宮内庁に天皇陵と指定された古墳は、同様に立ち入り、調査、公開が制限されている。
陵墓は皇室の祖先のお墓であり、祭祀も行われる場所。ゆえに、尊厳と静謐を保つべきだ。これが宮内庁が頑なに天皇陵に立ち入らせない表向きの理由だった。
――が、ついに今日、その真の理由が明らかにされようとしていた。
大仙古墳の向かいには、大仙公園という大きな公園がある。
その公園の広場に、空気を裂くローター音が響いた。
まもなく、白地に青いラインの入った海上保安庁のヘリが着陸した。
中から、ひとりの女性が降り立つと、公園に避難していた市民のひとりが叫んだ。
「理子様や!」
理子が振り返ると、かなり高齢の老婆と目があった。
理子は、そちらに向かって微笑むと会釈した。
すると老婆は頭を下げ、静かに手を合わせた。
大仙古墳の拝所は、大仙公園から御陵通りを渡った先にある。
三重に巡る濠のうち一番外側の濠だけは、砂利道で越えることができる。
だが、間もなく、ここより先には入れませんとばかり柵に突き当たる。
柵の奥には、二番目の濠を渡る砂利道があり、その先に鳥居が見える。
鳥居の背後には一番内側の濠があり、そのさらに奥にようやく墳丘本体がある。
当然、拝所の柵より先に一般人は立ち入ることを許されない。そのため、最初の柵は普段は閉じられたままだ。
しかし、今日はちがった。理子が柵の前に来ると、鈴木が開かずの柵を開ける。
「理子様、どうぞ」
鈴木が促すと、理子はうなずき、砂利を踏みしめ鳥居へと進んだ。鈴木の他、黒い三つの箱を手にした職員も続く。鳥居の手前には三段の石段があり、それを越えると再び柵があった。やはり鈴木が柵を開き、理子たちは鳥居の前まで進んだ。
「理子様、こちらを」
鈴木は理子に、玉串を渡した。
理子は鳥居の前に玉串を捧げると、深く拝礼した。
「では、参りましょう」
鈴木がそう言うと、理子が鳥居の先にさらに進んだ。
すると、一番内側の濠を渡るためのモーター付きのゴムボートがすでに横付けされ、ひとりの男性が横に立っていた。
ボートに理子、鈴木、職員たちが乗り込むと、最後にボートの横に立っていた海上保安庁の職員と思われる男性が乗り込み、エンジンをかけた。
「ここにこうして公に人が立ち入るのは明治以来、およそ百五十年ぶりとなります」
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