第34話 突破

 ――キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


 突如、背後にタイヤが擦れる音が響いた!

 その音に、反射的に振り返る。


 黄色のスズキジムニーが、猛スピードで向かってくる。


「えっ」思わず、間抜けな声がもれた。

 日向も振り返ると驚きの表情を浮かべたが、直後、その車に目を凝らしつぶやく。

「あの車って……」

 その時、前方で地面を蹴る複数の音がした。

 視線を前に戻すと、隊員たちがこちらに駆け出していた。


 前方からは武装隊員が、後方からはジムニーが近くづく。

 駆と日向は、どちらからも距離を詰められ、その場で前後を何度も見返した。

 ジムニーの方が速かった。

 煙を上げドリフトする車体が、ふたりの眼前で急停車。鼻先にタイヤの焦げた匂いが漂った。


「咲さん!」

 運転席を見た日向が、目を見開いて言った。


「乗って!」


 運転席から身を乗り出した女性が短く叫んだ。

 サングラスをしていたが、その顔には見覚えがある。

 確か柴崎咲しばざき さきといって、佐藤家にちょくちょく訪れる女性だ。

「乗って!」

 咲は再び叫んだ。


「いいから乗って‼」


 少し躊躇していたふたりも、三度の叫びに動いた。

 日向がまず後部座席に乗り込む。駆も慌てて後を追う。

 駆がドアを閉める前に、ジムニーはバックし始めた。

 つんのめりそうになるが、駆はなんとかシートベルトを締めた。


「おい! 待ちたまえ!」

 前方から叫び声。隊員たちの声だ。

 走る隊員たちから離れるように、ジムニーは猛スピードでバックする。


「止まりなさい!」

 ひとりの隊員が小銃を構えた。

 直後、ジムニーが急停止。

「つかまってて!」

 咲が叫ぶ。

 すると、あろうことか、その隊員たちめがけジムニーは急加速し始めた。

 体がぐいっと後方に引っ張られる。

 駆も日向も、慌てて車内でつかまるところを探し、とにかくつかんだ。


 隊員たちを轢いてしまう! と思ったところで、隊員たちは左右に飛び退く。

 まるでアクション映画の一場面ようだったが、これは現実リアルだ。


 振り返ると、起き上がった隊員のひとりがなんと銃を構えた。

 これは洒落にならない!


「伏せて!」


 再び咲の叫びを聞いた瞬間、発砲音が聞こえた。

 慌てて頭を下げ、できるだけ低い姿勢を取る。

 幸い、弾がジムニーに当たることはなかった。


 が、今度は前方に閉じたままのゲートが迫る。

 このままでは、ぶつかる!

 すると、ジムニーのエンジン音がさらにうなりを上げた。

 おいおい、嘘だろ? まさかこのまま――


 ――!


 バキッという嫌な音が響き、衝撃を体全体に感じる。


 振り返ると、ジムニーはきれいにゲートを真っ二つにし検問を突破していた。

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