第28話 ゴーストタウン

 ふたりは顔を洗うと、昨晩同様にパンで簡単な朝食を済ませた。

 節約のため、ふたりでひとつのパンを食べた。

 昨日、商店で買った食料も、これで残りパンひとつとなってしまった。


 朝食後、ふたりは早々に廃校を出発した。

 東の空の黒煙が、昨日より近づいたように感じられたからだ。残念ながら、爆発の騒動はまだ収束していないようだった。駆はバックミラーの割れたガス欠の原付きを押しながら、日向はその隣を歩いた。


「足、大丈夫?」

 駆は、出発するとすぐ尋ねた。

「大丈夫。一晩寝たら、だいぶよくなったみたい」

 日向の足取りに不自然さはなかったので、駆もほっとした。


「今日はさ、食料の調達はもちろんだけど、できればコイツの給油もしたい。だから、昨日は避けてきた市街地に行く必要があるかなって」

「だよね、パンも残りひとつだし」

 食料の調達は死活問題だ。所持金は、まだふたりで一万円ほどあったので心配していなかったが、そもそも食料品店が営業しているかが不安だった。ガソリンスタンドも同様だ。


 しかし、行ってみないことには確かめようがない。

 相変わらず、携帯は繋がらない。だから、ふたりは標識と圏外でも使えるコンパスアプリを頼りに黙々と歩く他なかった。

 最初に見つけた標識には、最寄りの比較的大きな街が七キロ先と書かれていた。


「なんか、静かだね」日向がなにげなく言った。

 確かに道路も近隣の建物も静まり返っている。

「朝早いからじゃないかな」

 駆はそう返したが、本音ではこの静けさは少し異常ではないかと思い始めていた。


 一時間半後、ふたりは目的の街にたどり着いた。


 昨日の時点で東京都は抜け、すでに神奈川県内に入っていた。

 この街は神奈川でも政令指定都市とまではいかないが、割と大きな街のはずだ。


 が、ふたりにその実感は持てなかった。

「ここで、あってるよね?」日向が言った。

「あぁ、間違いない」駆が答えた。


 ふたりは、その街一番の目抜き通りに立っていた。

 しかし、本来は喧騒が支配しているべき通りを、今は静寂が支配していた。

 通りに面した店は、ほとんどシャッターが下りている。

 例外的に開いている店もあったが、略奪にあったのか棚は倒れ、窓は割られていた。

 道路にもびっしりと車が停車していたが、乗車している人の姿はなかった。

 通りの突き当りには駅もあったが、電車の音も聞こえず、駅員も乗客もいない。

 風の音と鳥の鳴き声だけが聞こえる。不気味なほどの静けさ。

 駆は内心、こんな感想を抱いた。


 ――まるで、ゴーストタウンじゃないか。

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