第26話 封印した記憶

 ――異星人の遺伝子を、解析してもらいたい。


 端的に言えば、そういう内容だった。

 当然、最初は信じられなかった。緊張をやわらげるための天馬のジョークだとさえ思った。


 しかし、天馬の目は真剣そのもので、とてもジョークを言っている雰囲気ではない。

 そして、ある部屋に案内された時、その話が真実だと信じざるを得なくなった。


 部屋には、液体窒素で冷凍保存されたある遺体があった。

 頭と瞳が大きく、口はごく小さく、耳はほとんどなかった。身長は、一六◯センチほどで、手足が異常に細長い。身体的特徴から、二足歩行を行う生物と思われた。

 でも、それは霊長類でも人間(ホモ・サピエンス)でもなかった。

「これは――」森園が絞り出すようにつぶやくと、


「――異星人の遺体だ」天馬は、はっきりと答えた。


 全身に鳥肌が立ち、森園は戦慄した。

 翌日から、森園はその遺体の遺伝子情報について研究を始める。

 ただし、その研究が最終的に目指す「目的」については知らされなかった。

 純粋な異星人研究なのか、医療等への転用を考えてのことか、あるいは、それ以外の目的か。

 知り得る情報は、自身の研究にまつわるものに限定された。


 プロジェクトは、分野ごと細かく細分化されているようだった。他分野の研究者との接点も最小に限定され、各々の研究者が隔離された環境下で各々ベストを尽くすことが求められた。

 すべてを知る必要はないし、知れば身に危険がおよぶぞ。暗にそう警告されている気もした。

 なにせ異星人が絡む極秘プロジェクトだ。森園もあえて深入りはしまいと思った。


 そうした異常な環境下ではあったが、森園の研究欲が下がることはなかった。

 単純に研究者としての探究心や好奇心に抗えなかったのだ。


 このプロジェクトの研究対象は、異星人なのだ!


 おそらく人類初の研究だ。未知の生命体の神秘を解き明かしたいという純粋な研究者としての本能が森園の背中を押した。ゆえに、森園はとても熱心に取り組んだ。天馬などのごく一部のすべてを知る人間から見れば、森園は非常に扱いやすい「駒」だっただろう。 

 やがて森園の成果により、驚くべきことが明らかになった。


 ――異星人と人間の遺伝子構造は、じつは似ている。おそらく、交配も可能なレベルで。


 しかし、皮肉なことに、この成果が後に森園を追い詰めるを導いたのだった。

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