第22話 不安な夜明け

 夜が明けた。

 と言っても、災害対策本部は不夜城そのもので、昨夜の延長線上の朝だった。

 

生き延び、なんとか立川までたどり着いた職員たちは、それでも必死に働き続けていた。

 家族の安否もわからぬ者もいた。疲労やストレスも、すでに限界を越えていた。

 救助活動、消火活動、避難誘導、治安維持、情報収集。やることは山のようにあった。


 しかし、すべてが難航していた。


 今回の有事は想定外どころではなく、もはや「未知の領域」と言ってよかった。

 何より、彼らはいまだ自分たちが戦っている相手すら知らなかった。

 果たして自分たちは、いったい何と戦っているのか。職員の誰にもわからなかった。


「今有事の敵は、他国でもテロ組織でもない。この星の住人でもない。異星文明だ」


 信じがたいこの大岩の発言を知る者は、対策本部内ではまだ代田と武田のみだった。

 最初にこの言葉を聞いた直後、ふたりはしばし沈黙した。とても信じられなかったからだ。

 だが、大岩は構わず次のように続けたのだった。

 今すぐ、ひとりの男をここに呼べ、と。

 

 ――天馬和彦てんま かずひこ


 それが大岩が呼べと言った男の名だった。

 かつて東京大学に籍を置き、量子力学の世界的権威となった後、現在は北海道大学で名誉教授をしている男だ。しかし、一般的知名度はなく、代田も武田もその名を知らなかった。それでも、大岩はこう言い放った。


「天馬を呼べ。さもなくば、この戦は勝てん」


 その一声で、自衛隊による天馬和彦のが始まった。

 というのも、天馬がいる北海道札幌は最初の被爆地で被害も著しく、そもそも天馬の生死すらも不明な状態にあったからだ。


 地元の消防、警察もまともに機能しておらず、北海道の自衛隊施設もそのほとんどが被害を受けていたため、天馬捜索には東北の自衛隊が動員された。彼らの中にも被災者は少なくなく、本音を言えば地元の救助や救援に真っ先に向かいたかったろうが、彼らは忠実に職務に準じた。


 しかし、札幌の惨状は凄まじく、天馬捜索は困難を極めた。さらに、その後も断続的に続いていた爆発が隊員たちの作業を一層困難にした。

 それでも夜を徹しての捜索の結果、未明に札幌市郊外に避難していた天馬を見つけ出した。

 天馬を乗せた自衛隊ヘリが、立川に着陸したのは夜が明けて間もなくだった。

「お互い、悪運が強いな」

 天馬を見た、大岩の第一声だった。

「まったくです。ご無沙汰しております、大岩先生」

「あぁ、本当に久しぶりだな」

「先生が私をお呼びになったということは、やはり――」


「――あぁ、そうだ。今回の有事、ヤツらの仕業だ」


 天馬は疲れた笑みを浮かべつつ、自らの定めを悟った。

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