第21話 最悪の一日の終わり

 駆は闇に慣れてきた目で、改めて隣の日向の寝顔を見た。


 高校入学以来、ふたりの関係は変質してしまったと思っていた。

 地味で大人しかった日向は、つぼみが花開くように美しく生まれ変わった。

 それとともに、付かず離れずの幼馴染の関係は終焉を迎え、日向は羽ばたいていった。

 駆の知らない世界へ。


 でも、隣の寝顔はあの日のままだと感じられた。

 今日一日、久しぶりに一緒に過ごしてわかった。

 日向は、本質的には何も変わっていない、と。

 相変わらず引っ込み思案で繊細で、泣き虫だ。


 実際には、この一年。日向は周りに合わせ、相当に無理していたのかもしれない。

 幼馴染だから、なんとなくわかる。どこか似た者同士だから、わかる。

 きっと、がんばってたんだな……日向。

 それなのに、ふてくされ日向と距離を取っていた自分がひどく矮小に思えた。


 隣からは、変わらず一定した寝息が聞こえる。

 左手には直接、日向のぬくもりを感じる。

 この世界が未曾有の危機を迎えた今日。

 ほとんど一年ぶりに、ふたりで過ごした。


 爆発に遭った。

 家も焼かれた。

 ストーカーに追われた。

 一緒に必死で逃げた。

 そして今も、どこかもよくわからない廃校で夜を過ごしている。


 これまでの人生で、おそらく最悪の一日。


 でも、それでも、駆はどこかうれしかった。

 日向にはとても言えないが、再びふたりでいられることが、うれしかった。

 物心がつく前から一緒にいた。それがあたりまえだった。

 そんなふたりが危機の最中、再びともにいる。手を携えて。

 運命なんて言葉は信じないけど、運命としか言い表せないようなものを感じた。


 やがて、駆の呼吸も静かに、そして深くなり始めた。

 動悸も収まり、まぶたが自然と重くなっていく。

 目を閉じると、左手のぬくもりだけに感覚が収斂していった。

 そのぬくもりだけを意識すると、自然と心が落ち着き、いつのまにか眠りに落ちた。

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