第11話 忍び寄る影

「佐藤教授……いや、森園教授、ですね?」

 

 背後からの聞き覚えのない低い声が聞こえた。

 その言葉に、太郎は凍りついた。


 緊張で喉が渇く。ゆっくりと振り返る。

 大柄でがっしりした体格の黒ずくめの男が立っていた。

 この男は何者だ? なぜ「森園」という名を? まさか米軍の⁉

 様々な思考が一瞬にして、頭を駆けた。


 が、努めて冷静に返す。

「どちら様でしょうか? 森園という名は聞いたことがありません。人違いでは――」

「――いいえ、森園教授。娘さんのことでお伺いしたいことがある、と言えば素直に認めて頂けますかね、森園教授? ご同行頂けますか?」

 男は不気味な笑みを浮かべる。


「できれば……手荒な真似はしたくありません」


 どうやら、手段は選ばないと言いたいようだ。

「おっしゃっている意味がわかりません。急いでいますので、失礼」

 それでも、できるだけ冷静に返すと、男を避け右に踏み出した。

 が、男もすぐ右に動き行く手を塞ぐ。

「ご同行願います」

 男は表情を変えず、繰り返した。


 こうなったら、逃げるしかない!


 一瞬、男に微笑むと、左に大股で駆け出した。が、


 ――!


 直後、背中に強烈な熱と痛みを感じた。

 なす術もなく、のけぞるようにその場に崩れる。


 首だけ振り返ると、見下ろす男の手に黒い直方体のようなものが握られていた。


 ……スタンガン?


 それでも這うようにして、なんとか前に進もうともがく。

 しかし、再び背中に熱と痛みが襲った。今度は視界にも、火花が散るような感覚があった。


 マズい、このままでは……。


 なんとか抵抗を試みたが、太郎はまもなく意識を失った。

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