帰り道

 「うま! やっぱりドーナツと抹茶は最高の組み合わせだわ!」


 ドーナツを5個も買って頬張る姿がリスみたいで可愛い。


 「ほんとに綾は抹茶好きだね。私には理解出来ない」


 「あ、今、凛は抹茶好き全員敵に回したからね」


 「抹茶は飲むものでしょ」


 「いーや、それだけじゃないから」


 こんな下らない事で言い合えるのは、きっと今だけなんだろうな。抹茶の在り方について、熱く語る綾の話を少し聞き流しながら思う。


 「ちょっと、凛また話聞いてなくなかった? もう、何時も言ってるでしょ? そうやって聞いてなかったらいざって時困るのは凛なんだから!」


 「ん? 分かった分かった。気を付けるから」


 「それ何回目よ!」


 2人で些細なことで笑う。きっと、これから先もそう。この日常がずっと続けば良いのに。


 「もう……あ、そうだ。凛は最近、れん君と進展あったの?」


 「え! いきなり何?」


 つい焦ってお茶を溢すところだった。


 「あ、その様子じゃまだ何も無いな? 告白しないの?」


 「いや、だって、まだまともに話したりもしてないし……私が一方的に好きになっただけだから」


 「ああー、蓮君、一匹狼だしね。誰とも話さないし。でも顔はかっこいいよねー」


 「え、いや、私……顔で選んだわけじゃないし……」


 「ふふっ、凛ったら顔真っ赤! 知ってるよ。凛は顔で選ぶ様な子じゃないし。なんで好きになったの?」


 「えっと……移動教室の時、場所分からなかった時に教えてくれて……」


 顔が熱い。声が何時もより小さくなるのが分かる。恥ずかしい。逃げたい。


 「ふーん、そうなんだ~。よし、明日からアプローチ頑張ろ! 私も手伝うし」


 「え、あ、そうだ! 綾バイトは? もう少しで18時だよ」


 「え!? やば! よし、じゃあ帰るか。凛、また明日ね。明日から気合い入れるよ!」


 「いや、いいから! バイバイ綾」


 遅刻すると急ぐ綾を見送ってから、歩き出す。


 工藤くどう蓮。私が好きになった人。少しだけ話したりもしたけど、きっと、側に居ると私が好きな事がバレそうで怖かった。でも、彼ならきっと。


 明日は、髪巻いていこうかな。久々にリップ塗ってこう。


 人通りの少ない道に居ながら、考え事をしていたからか、後ろに人が居ることに気が付かなかった。


 そして、その人が笑っていた事にも。

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