噂話

 「りん! 話聞いてる?」


 バンッと机を叩く音で目が覚める。少し怒った様な顔をしてこっちの顔を覗いてくる親友を見ると、何だか笑えてくる。


 「ごめん、聞いてなかった」


 「まーた寝てたんでしょ! こっちが真剣に話してるっていうのに……何笑ってんのよ?」


 「いや、こういうの何回目だっけなって思って」


 「ホントよ! もぉ、笑い事じゃないんだから」


 呆れながらも私の世話を焼いてくれる、親友のあや。私はきっと、綾が居ないと生きていけないかもしれない。でもそんな事言うと「また馬鹿なこと言って!」と怒られるから言わない。


 「で、何話してたの?」


 「あぁ、えっとね『黒い糸』って噂なんだけど」


 おちゃらけた雰囲気が一変し、神妙な面持ちで話す綾に只事では無いと判断し、真剣に聞く。


 「この前起きた事件については、凛も知ってるでしょ? あの事件が起きてからこの噂が広まり始めたの」


 この前の事件とは、少し前に隣の県で起こった殺人事件だ。被害者は高2女子。被害者は、四肢や首が切り落とされ殺害。この殺人事件の加害者は、同じ高校に通う人物。同い年で、恋人関係にあったらしい。加害者は何故か、事故現場である高校内に居座り、被害者の亡骸を呆然と見つめ、時折意識がこっちに戻ってきたかの様に叫び声を上げていたらしい。朝、学校に来た先生がそれを発見し警察に通報。警察が到着するまで、一体何があったのか聞こうとしていたが、加害者はよく分からない事を口にしていたらしい。


 『次は誰だ。また探さねば。次、次、次、次、次…………』


 そして、警察が到着し加害者を連れて行こうとした時、は言った。


 『……見つけた……!! ハハハハハハッ!!』


 満面の笑みで、ある一点を見つめながらそう言い、笑ったらしい。それを残して加害者は死んだ。


 この事件は今、日本中で話題となり恐怖の対象となっている。警察も見回りを強化し、さらなる被害者が出ないように細心の注意を払っている。


 「あー、あれ? あれがどうかしたの?」


 「あれね、ニュースとかでは言われてないんだけど、2人の遺体を運ぼうとした時にね、2人の左手の小指に真っ黒な糸がぐるぐる巻きにされてたんだって。で、それがネット掲示板で話題になってるの」


 「……なにそれ……」


 あまり良い噂ではない。顔に出てしまったのか、綾がごめんと謝ってくる。


 「でもね、掲示板で言われてるのは結構信じられる様な内容で……これから役立つかなって……」


 申し訳無さそうな顔で言われると、なんだか断りづらい。その捨てられた子犬の様な顔を向けないでほしい。


 「うん、分かったよ……続けて?」


 「あ、えっとね……」


 朝買って、ぬるくなってしまったであろうお茶を一口飲んだ。


 「この事件はね、悪魔とかそういう類のが原因なんじゃないかって言われてるの」


 「……悪魔?」


 聞き慣れない単語に、頭の理解が追い付かない。


 「そう。どうやら昔、違う国でも似た様な事件が立て続けに起きたらしいの。被害者と加害者の関係性は様々。夫婦や親子、兄弟姉妹、カップル、友人、他人と関係性は特に関係はなくて、必ず最終的にはどちらも死ぬ。で、全員に共通するのは、左手の小指に絡まる黒い糸。これは、今回の事件にも似てるでしょ?」


 「確かに……? でも、それと悪魔にどういう関係があるの? 1人がこの事件を起こして、周りが同じ事をし始めたっていうのだってあり得るんじゃない?」


 「言われてみるとそうかも……でもね、これを悪魔が起こした事って証言した人が居て、それが本にもなったらしいのよ。証言は加害者の1人でね、その人はこう言ったらしいの『これは悪魔がやった事だ。殺される者、殺す者、それは決まっている運命なんだ。悪魔は知っている。この世の全てを。これで終わりじゃない。悪魔はまたこの世に再び訪れる』って。その後にこの人も亡くなったらしい。だから今回もその悪魔のせいなんじゃないかって噂が流れてるのよ」


 そんな事が本当に起こるなんて、冗談にしか聞こえない。でも、本当なんだろうか。よく考えれば、こんなの人間が起こせる様な沙汰ではない。悪魔と言われれば、確かに納得がいくかもしれない。


 「そう……じゃあ、その対処法とかないの? 狙われないようにするとか」


 「うーん……実はそういうのに関しては何も無いの。だから兎に角、気を付けるぐらいしか……」


 「そっか……じゃあ、私達は何時も通り過ごすしか無いね。気を付けてもしょうがないでしょ」


 綾は少し納得がいかない様子だったけど、こればっかりはしょうがないだろう。どうにも出来ない。


 「……そうだ綾。今日の帰りさ、ドーナツ食べない? 新作出たらしいよ」


 「え、ちょっと、なんで早く言わないの!? よし、今日は食べるぞー!」


 午後も頑張ると言う綾を見ると、綾は単純だなって思える。


 もし、その悪魔がきて私達に目を付けられたらどうしようと不安になってくる。私は、綾を殺したくない。それに、綾には誰かを殺してほしくない。綾は繊細だから、きっと殺した事実に相当ショックを受けるだろう。そんなの、見たくない。

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