第28話 実食!させてください……!


 マカロニを器に盛り、スープを注ぎ、チャーシューと野菜をトッピングして、ようやく豚骨ラーメンもどき ができあがった。

 豚骨ラーメンを食べたかったけど、麺がないからしょうがない。


 サラが、盛り付けた料理をテーブルに運ぶ。僕以外の人に料理が行き届いたのを確認して、自分の分を盛り付けた。

 

「フィルのだけ、野菜の量が多くないかい?」


「沢山余っていましたので……」


「残ったのなら、残しておけばいいのに……」


「野菜を沢山食べたい気分なのです」


 ちなみに、まだ野菜は残っている。調子に乗って切りすぎた。あれの処理どうしよう……。


 そんなこと思っていると、母上が一言。


「私は、フィルと同じものが食べたいわ」


 母上、同じものを提供していますよ。


 冗談は置いといて、野菜を増やせ、ということだろう。


「私も!フィルと同じが良いな!」


「パパも、フィルと同じものがいいな」


 ニア姉上と父上も野菜増し増しがいいのか……。


「私は、坊ちゃまと同じ器、同じスプーンで食べたいです」


 サラの要望は無視しよう。

 ……いや、無視してたら隣に座って、1つの器をつつくことになりそう。ここは、騎士に見張っててもらおう。


「サラを騎士の隣の席に……」


「かしこまりました」


「そんなあ!?坊ちゃま!隣で……いえ!私の膝の上に座ってください!一緒に――」


「――黙れ!お前、少しは身を弁えろ!」


「いやああああ!」


 …………黙っていれば完璧なのに。残念なメイドだ。


 サラのことは騎士に任せ、料理の盛り付けだ。


「料理は見映えも大事でして、野菜少なめの方が美味しそうに見えるかと……」


「私は、フィルと同じものが食べたいの。見映えはどうでもいいわ」


「……わかりました。準備します……」


 せっかく綺麗に盛り付けたのに……。見た目で喜んで欲しかったのに……。見映えはどうでもいいって……へこむ。


 不貞腐れているのを笑顔で覆い隠して、料理のトッピングも野菜で覆い隠す。


 僕と同じものがいいと言う父上たちに野菜を追加し、純粋に量が少ないというシルフィー姉上や護衛にも野菜を追加した。


 そして、食べる準備ができた。


「では、さっそく食べようじゃないか。先ずは、私から」


「待って、あなた。私から食べるわ」


 父上が食べようとして、それを母上が止めた。


「フィオナ。まさか、フィルが毒を入れたって疑ってるの?」


「そんなわけないでしょ。フィルは料理に毒を入れる子ではないわ」


「じゃあ、私からでいいだろう?家長が最初に食べて、その後に皆が食べ始めるのがマナーだからね」


「騎士やメイドも一緒に食べるのですから、マナーに則っては萎縮してしまうわ。なので、私が……」


「それならマナーを気にせずに……」


 父上がスプーンに手を伸ばした。

 それを母上が止めて、二人でコソコソ話始める。なんだろう?


 話が聞こえているだろう姉上たちは少し呆れ気味だ。


「別に誰が最初でもいいじゃん。結局、初めての手料理は食べるんだからさ……」


「え!?フィル様の初めての手料理なのですか!?だったら私が!」


「待て!メイドが でしゃばるんじゃない!」


 サラが騎士に取り押さえられた。


「離しなさい!フィル様の初めては全部私のものです!」


「お前は、親の心を配慮しろ!」


 ……あれでは心が休まらないだろう。騎士には悪いことをしたな……。


 なにはともあれ、子供の初めての手料理を誰が先に食べるかで揉めているらしい。


「そんなことより、早く食べようよ。フィルの料理が冷めちゃう」


「そうだね。私も早く食べたい。だから、ここはフィルに決めてもらおう。フィルは、パパとママ、どっちに食べて貰いたいかな?」


「どっちでもいいです」


 丹精込めて盛り付けたトッピングを覆い隠すつらさと比べたら些事だ。


「そう言わずに、決めてくれよ」


「ママよね?フィル?」


「では、母上で……」


「待ってくれフィル!そんな適当に決めないでくれ!」


 ごねる父上を無視して、母上がスプーンを手に取る。


「それでは、いただくわね、フィル」


 母上がスープをすくい口に運び、それを父上が羨ましそうに目で追った。


「美味しいわ。フィルは料理の才能もあったのね」


 珍しく母上が微笑む。


「くぅ……またしても、フィオナが先か」


 父上は悔しがっている。そんなに順番が大切なのかな?


「初めての言葉は『ママ』で、初めての離乳食を食べさせたのもフィオナで、初めてのハイハイを見たのもフィオナで、初めての掴まり立ち見たのもフィオナで……」


 …………なんか、闇が深そう。しかも、ハイハイを見たのって、順番関係ない。たしかに、見逃したのは辛いだろうけど、順番は関係ない。

 

 それに、赤ちゃんの時の話を聞かされるのは少し恥ずかしいというか、むず痒いというか……とりあえず、父上は黙って貰ってもいいかな?


「あの、ご領主様。このメイド以外に力が強く……」


「いや、そもそも、なんで私まだ取り押さえられているんですか!?奥方様が食べられたんだから、もう良いでしょう!?」


「うるさい!黙れ!少しは親の気持ちを理解しろ!」


 ……あっちは騒がしいなー。本当、あの騎士には悪いことをした。


「……ゴホン!私としたことが取り乱してしまったようだ。私もいただくよ」


 父上も料理に手を付けた。


「うん。おいしいね。この濃厚な味わい……体に染み渡るようだ。たしかに体に良さそうだね」


「あ、体には悪いですよ」


「そうなのか……え?……体に悪いのか?体に良いから作ったのでは……?」


「食べたいから作ったのです」


 父上が食べたから、僕も食べていいだろう。そう思って食べようとしたら、ニア姉上に皿を取り上げられた。


「ああ〜〜!!」


「体に悪いものは食べちゃダメ!」


「ちょっとくらい、良いじゃん!」


「ダメなものはダメ!」


「ん〜〜!!」


 僕はニア姉上を睨みつける。そして、姉上は僕を睨みつける。睨めっこだ。この戦いは負けられない。


 断固たる意思を瞳に乗せて訴えていると、姉上の顔が緩んできた。僕の勝ちだ!


「そんなに可愛く見つめても!ダメなものはダメ!」


 睨めっこに勝ってもダメか……!子供のつぶらな瞳で見つめられる破壊力を耐えるとは……!

 

 ならば!理由を説明して納得させるのみ!


「豚骨スープが体に悪いのは、塩とカルシウム、悪玉コレステロールにあります」


 他にもありそうだけど、僕は知らない。

 ちなみに、カルシウムと悪玉コレステロールに当てはまるこの国の言葉を知らないから、そこは日本語で話している。


「塩はガンの原因になりますし、動脈硬化の原因にもなります。そして、カルシウムも動脈硬化の原因になります。悪玉コレステロールは血液をドロドロにし、血管が詰まり易くなります」


 日本の単語を覚えるのは難しいだろう。頭が疲れるだろう。判断力が鈍るだろう。このまま難しい単語を使ってやる。


「つまり、豚骨スープを飲みすぎると、動脈硬化、心筋梗塞、クモ膜下出血などのリスクがあります。しかし、これは、の話です。子供は事情が違います」


 『大人』を強調することで、子供のリスクから目を背けさせる。


「子供の血管は丈夫で、血管に血が詰まることはありません」


 絶対では無いけど、一般論的に大人よりも確率は低い。……たぶん。


「そして、カルシウムは骨を作るのに大事な栄養素で、成長期である僕が過剰に摂取することはありません」


 さすがに、子供もカルシウムの許容量はあると思うけど……たぶん易々と超えることもない。

 そもそも、豚骨スープにどれくらい溶けだしているかも分からないんだけど……。


「そして、悪玉コレステロールは男性ホルモンのテストステロンを作る原料になります。テストステロンには、筋肉の形成、認知症予防、記憶力の向上、がん予防などがあります。つまり、塩による、がんの発生を防ぎ、健全な成長を促すということです」


 悪玉コレステロールからテストステロンの変換率は知らないけど、それは言わない。絶対、不利になる。


「まとめると、豚骨スープは子供の成長を後押しするスーパーフードです!!」


 スーパーフードは言い過ぎだけど、ハッタリが必要。

 

 あえて先にネガティブな言葉を並べて、ポジティブな言葉で否定し断言する。こうすると、ポジティブに受け取られやすい。

 たぶん、最初に言ったことは忘れられるとか、最後に言ったことは印象に残るとかそんな理由。発表会の前半は覚えられてないみたいなやつ。知らんけど。


「そういうことなので、返してください♪姉上♪」


 できるだけ子供っぽく、可愛く言った。恥ずかしいけど、姉上には効果的だろう。


「だ、大丈夫なら……ちょっとだけだよ……」


 やった!成功!


 僕の前に器が戻された。これで食べれる。


「お待ちください坊ちゃま。私は納得できません」


 まだ敵にサラが居たか……!


 さっきの説明でダメなら、理屈で説得は難しいだろう。どうすればいいかな?

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