第27話 おいしくなーれ(神頼み)


 豚骨スープを作ってみた。といっても、作り方が分からないから、白湯パイタンスープと同じ作り方で作った、「豚骨スープもどき」かもしれないけど……。


 水に豚の骨と香味野菜を入れて、強火で煮込む。結界魔法を使って、鍋の中の空気を閉じ込め、圧力鍋状態にして、時短した。


 そしてできたものが……。


「くさっ!」


 豚の臭みとガツンとした香辛料の香りが合わさって、なんとも言えない臭いになっていた。


「すごい匂いだね……」


「試作段階なので……やっぱり、食べるの止めますか?」


「いや、食べるさ。せっかくフィルが作ってくれたんだ。どんなものでも完食してみせるよ」


「そこまで意気込まなくても……」


 嫌々食べられても嬉しくない。


「私のことは気にせず、完成させてくれ」


「分かりました」


 父上の指示通りに作業を再会しようとすると、今度はニア姉上が声をかけてきた。


「フィルも食べるの?止めない?父上に食べさせれけば良いから」


「このくらいなら大丈夫ですから、僕も食べます」


「でも、臭いがすごいよ」


「確かにすごいですけど、鼻への刺激も、吐き気を催す臭いも無いですし、大丈夫です」


 納豆とか臭いものを食べてきた日本人(前世)の僕は、少し耐性がある。それに、鼻は疲れやすいから、食べる頃には慣れてると思う。


「でも……」


「ニアが食べたくないだけでしょ?あなたが食べなければいいじゃない」


「はあ?そんなことないし!私はフィルの心配をしてるだけ!」


 また姉上と母上が喧嘩し始めた。

 僕のために争わないで!って言うべきかな?恥ずかしいから絶対に言わないけど。



 


 とりあえず、スープは置いといて、マカロニを茹でる。

 

 普通にラーメンの麺を作ろうと思ったけど、この国に箸を使う文化がない。フォークでラーメンを食べるのは難しいかなと……。

 短い麺を作ればフォークでも食べれるけど……そもそも、麺を作ったことないから失敗する自信しかなかった。

 というわけで、スプーンですくって食べれるマカロニにしました。


 海水ぐらいの塩水というか塩湯で茹でる。茹で終わるまでにスープを完成させたい。


 こし器でスープをこしながら、別の鍋に移し替える。レードルで少しづつ、チマチマと……。


 ヤバい!スープをこしてる間にマカロニが茹で上がりそう!


 別に茹で上がったら水気を切って放置で良いけど、放置中に麺の食感が変わるし、麺が冷めたらスープも少し冷める。

 同時に完成するのが一番いい。


 とりあえず、マカロニの鍋は火を止めて、予熱で火を通す。スープができてから様子を見よう。


 スープをこしたら、味見。塩は確実にいるけど、味見しないと他に何を加えればいいか分からない。


 小皿に取って味見をしようとして、ニア姉上に止められる。


「味見ならお姉ちゃんがするよ!フィルは体が弱いから毒見しないと」


「毒見でしたら私がします!ニア様に万一があってはいけません!」


「万一があるなら、平民の君では心許ないね。一番、体が丈夫な私が飲もう」


「領主のあなたに毒味をさせられないわ。私が飲みます」


「父上がダメなら、フィオナもダメでしょ?だから、私が飲む!」


「いえ!お待ちください!毒味の誉は、ぜひ私に!」


 毒見争奪戦が始まった……。


 僕が作った物を毒とか言われると、さすがに凹む。ここは、僕が飲んで無害を証明するべきだな。


 というわけで、飲んだ。


「「「あああーー!!!」」」


 訓練場に響くぐらいの悲鳴が、すぐ近くで上がる。めっちゃうるさい。


「フィル!大丈夫!?何ともない!?」


「坊ちゃま!毒見せずに食すのは、お止めください!」


 ニア姉上にめっちゃ心配されて、サラには怒鳴られた。


「僕が作ったんだから、毒が入ってないのは分かってるよ。心配しすぎ」


「ですが、豚の骨は普段食べないものですし、毒があるか分かりません」


「犬は食べるんでしょ?毒が入ってたら犬も死んでるって」


「そうですが……」


 分かっていても心配か……。


 たしかに、絶対安全では無い。

 食品の保存状態とか、調理法によっては、毒が作られる場合がある。食べ合わせの悪いものを煮込んで、体調に影響が出ることも考えられる。


「フィルの様子を見る限り、大丈夫だろう。サラの心配も分かるが、全てフィルに任せよう」


「……かしこまりました」


 サラは渋々引き下がった。

 ニア姉上は心配そうな顔をしているけど、何も言わない。ただ、また何かしようとしたら、問答無用で止められる気がする。


 なにはともあれ、スープの味付け。

 味見した時は、こってり した臭いお湯って感じだった。塩を入れてないから、味が無いのだろう。


 今、スープに調味料は全く入れてない。つまり、塩分濃度0%。

 3%で海水と同じぐらいの塩気って言われている。だから……1%ぐらいにすればいいのかな?

 1リットルで1キロと仮定して…………これ、どのくらいあるんだろう?2リットル?いや、3リットル?……わからない。


 わからないから、味見しながら塩を加えることにした。


 食べ物が温かい時は味が薄く感じて、冷たいと濃ゆく感じる。だから、熱い時に塩気が強く感じると、冷めた時に塩辛くなる。

 スープが熱い今は、ちょっと物足りないぐらいの塩気が丁度良いはず……。でも、舌が塩気になれるから、飲み終わる頃には味が無いように感じるかな?

 

 塩気って指で一摘みぐらいの分量でも違うから難しいんだよな〜。

 美味しい物食べて、舌の肥えてる父上たちは、一摘みの塩の違いが分かりそうで怖い。


 やばい。プレッシャーが……。


 僕が味見しながら唸っていると、父上から質問があった。


「そういえば、そのスープは何人分あるんだい?」


「それは分かりませんが、用意した器の大きさを基準に考えて…………三十人分程だと思います」


 用意された器の容量が小さい。もしかしたら、四十人分あるかもしれない。


「それなら、ここに居ない人の分を残してもらえるかな?急ぎの仕事はドルスに押し付けて来たから、フィルの手料理を食べていたと知られると、後が怖いんだ」


 長男のドルス兄上。昨日、お見舞いに来てくれた兄上だ。

 僕のお願いのせいで仕事が増えたのか……申し訳ない。


「誰が食べたがるか分からないから、多めに残しておいてくれると助かる。それと……サラも食べるよね?」


「……よろしいのですか?仕事中ですが……?」


「構わないさ。君は、明日から数日、再教育だ。その間、フィルに会えないだろうから」


「そんなああああ!?」


「せめて今日は、フィルの手料理を堪能すると良い」


「くぅ……ッ!全部飲み干してしまおうか……!」


「それは止めてくれ……。奴隷はどうする?飲みたいかい?」


「……の、飲みたいです」


「わかった。準備して貰おう。後は……護衛騎士。私がいるのだから、警備の心配は要らない。たまには食卓を囲もう」


 そして、一部の護衛も食べることになった。

 全員じゃないのは、仕事を優先させたとかじゃ無くて、臭いが酷いからだった。


 正直でよろしい。むしろ、食べるって言った人の正気を疑う。


 後は、前世の僕とシルフィー姉上も食べることになった。

 シルフィー姉上は最初断っていたけど、彼の好物って知って意見を変えた。

 いくら彼の好物だからといって、臭いのを我慢して食べるとは……短い時間でかなり惚れ込んでいるようだ。


 食べる人数が、けっこう増えたけど問題ない。

 マカロニを多く茹ですぎてたし、トッピングの野菜も調子に乗って切りすぎていた。まあ、足りなかったらケチればいいんだけどね……。


 それよりも、味付け。舌が肥えている父上たちに、美味いと言わせる自信が無い。

 どうしよう……?無理だって開き直るか?でも、父上たちに良いとこ見せたい。でも、実力が…………。

 

 はあ……どの道、成るようにしか成らないか。全力をつくそう。


 美味しくなることを天に祈るのだった。

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