第20話 新事実


 前略、シルフィー姉上は絶叫アトラクションでした。「高い高いして」って言ったら、高度五十メートルぐらいまで高い高いして落下するのだろう。恐ろしい。


 冗談はさて置き、僕と奴隷が地に伏せている間に、前世の僕が首輪と手枷足枷てかせあしかせを付けていた。……何があったの?


 前世の僕は父上とお話し中。というか、談笑中。笑い声が聞こえそうなぐらいに、両者笑顔で話している。

 

 離れたところにいるから内容は分からないけど、コミュ難の彼が、今日、初めて会った父上と、すっごい笑顔で話しているのは凄い。これが領主のコミュ力なのかな?さすが領主と言うべきかな?


 えっと、状況を整理すると、首輪と手枷足枷を付けられて、見るからに拘束中なんだけど、親友と話しているような仲睦まじい光景が……うん、意味わからない。


 困った時は誰かに聞くのが良いよね。姉上に聞いてみよう。


「あれは、どういった状況ですか?」


「アイツの趣味とか好きなタイプを聞き出しているんだ」


「え?」


 首輪と手枷足枷を付けて話すことなの?いや、それとこれとは話が別かな?


「アイツ、還る場所が無いっつーか、フィルの体が還る場所みたいなんだが、悪魔をフィルの体に入れる訳にはいかないから、奴隷にしたんだ」


「え?奴隷?」


 僕が地に伏せている間にそんなことが……。


「んで、手綱を握るために、アイツの趣味とか色々聞き出しているんだ」


「へえ……え?」


 奴隷なのに手綱を握る必要があるの?命令の強制力で全て解決すると思うんだけど……。


「どうした?」


「いえ、奴隷の手綱を握るのに、趣味を聞き出す必要は無いと思うんですけど……」


「はあ?」


 姉上から呆れられた。何か間違ってたのかな?


「犯罪奴隷ならともかく、普通の奴隷は大切にしないと天罰が下るぞ」


「はあ……?」


 つまり、どういうことだろう?


「奴隷には種類があるのは知っているよな?」


「知りません」


「マジか……」


 また姉上に呆れられてしまった……。

 

 実は姉上、脳筋である。戦闘民族である。学業は苦手だ。

 そんな姉上が呆れるほど、奴隷の種類は常識なのかな?自分は勉強ができないと思っていたけど、常識も出来てなかったのかな?へこむ……。


「奴隷には、犯罪奴隷、更生奴隷、みなし奴隷がある。聞いた事あるか?」


「無いです」


「そうか……」


 姉上から可哀想なものを見る目を向けたれた。なんか、呆れられるよりも心が傷つく……。


「そもそも、奴隷っていうのは、神に許しを乞う罪人なんだ。主に仕えることで贖罪して、神が許せば奴隷から開放される」


 罪人なのか……。僕の可愛い犬獣人奴隷は何もして無いのに罪人なのか……。境遇が悪いだげなのに罪人扱いはモヤッとするな……。

 可愛さが罪だったのかな?それだと一生奴隷だな。


「罪の重さは神が決める。その判決を分かりやすく区別したのが奴隷の種類だ。犯罪奴隷は死ぬまで解放されない。更生奴隷は真っ当に生きれるまで解放されない。見なし奴隷は自立するまで解放されない」


 ………………うん。分からない。犯罪奴隷は〜〜の辺りで思考停止しちゃった。

 奴隷は罪人っていう話だったでしょ?じゃあ、罪人奴隷って区別はおかしくない?奴隷全員、犯罪奴隷にならない?

 

 そういう話じゃ無いんだろうけど、こういうのって1度引っ掛かると抜け出せないよね。なんでって考え込んじゃう。それで、説明聞き逃して、なに言ってるんだろーってなる。


「ここで大事なのが、解放条件がある事だ」


 どこで大事なんだろう?説明聞いてなかったから分からない。でも、ここで考え込んじゃダメだね。悪循環だよ。

 分からないことは棚上げして、分かることだけ覚えよう。


奴隷主どれいぬしは、奴隷を解放するために協力しないとダメなんだ。ずっと、奴隷のままは神の意思に背く。神は、人々が幸せに暮らすのを望んでおられるんだ」


 人々が幸せにか……。いいね。うん。なんて言うか…………奴隷主しか頭に入らないって!なんだよ奴隷主って!?雇い主みたいに言うなよ!パワーワードすぎて思考吹っ飛ぶじゃん!


 はあ……ダメだ。いちいち単語に反応して説明聞けてない。というか、頭パンクしそう。理解するための、脳の容量が足りない感じする。


「奴隷とは言うけど、見なし奴隷は限りなく一般人に近い」


 まだ説明続いていたのか……。もう、僕のINT知力はゼロです姉うえ〜……。


「実の子や孫のように可愛がる人もいるし、後継者として育てる人もいる。まあ、家族として迎え入れる感じだな」


 それは奴隷なのでしょうか?奴隷って、もっとこき使われるものじゃない?違う?文化の違い?それで解決するなら、僕はもう考えないよ!もう考えるINT知力すらないけど!


「あの悪魔のことに話を戻すけど……」


 姉上が悪魔というのは、前世の僕。なんか、フィルも悪魔って言われてる感じするな……。彼は僕だし。悪口の流れ弾というか、ダメージ共有で僕の心も傷つく。


「アレは、見なし奴隷らしい。それで、趣味とか聞き出して、取り込もうとしてるんだ。奴隷から開放された後逃げられたら、損失デカいだろ?違う世界の知識があるって話だからな」


「あ、それ、僕もあります」


「あ?それって、なんだ?」


「違う世界の知識」


「マジか!?」


 そんなに驚くの?


「その話をするために、父上と母上を呼んだんですけど……」


 あれ?僕が恐れ多くも領主を呼びつけたみたいに聞こえるな。僕の言葉にビックリしたのか、姉上が目を見開いて固まっている。訂正しよう。


「呼び出してはないですよ。夜、時間がある時に面会の予約を入れるつもりでした」


「いや、そこはどうでもいいんだよ!」


 そうなの?不敬だと思うんだけど……。


「……いや、どうでも良くないか?」


 どっちですか姉上……。


「つまり、悪魔が呼んだんじゃなくて、フィルが呼んだのか?」


「そうですけど……」


 そうじゃないとも言える。あの時、僕は彼で、彼は僕だった。

 つまり、僕が父上を呼んだのは、彼が父上を呼んだとも言えるのだ。……ややこしいな。哲学かな?


「じゃあ、アイツは何なんだ?何もしてないのか?」


「何もしてないって言うか……」


 一緒にしたっていうか……哲学かな?説明が難しい。


「フィルが領主にならないように仕向けたのはアイツじゃないのか?」


 僕が領主にならないのって、彼の仕業だと思われているのか?


「そもそも、彼とは対話していません。彼の記憶が甦って、それを元に行動していました。父上にも言った通り、僕は前世の記憶があります。そして、彼は前世の僕です」


「いや、それはおかしいだろ!前世ってことは、アイツはフィルってことだろ!?」


「そうですね。彼は僕です」


「じゃあ、なんで体から出てるんだよ!魂分裂してるだろ!」


 ………………あれ??

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