第17話 不安
僕って誰なんだろう?
父上と母上に前世の記憶を打ち明けると決めて、状況整理をしていると、自分が分からなくなってきた。
人格は、フィルだ。でも、思考は前世の影響が大きい。
フィルは、猪突猛進、我武者羅に突っ走る。
前世の僕は、達観して、できないことを諦めていた。
前世の記憶が蘇って、僕は達観した。
政治はできない。剣術もダメだ。そして、諦めた。
そして、できることを考えた。
丈夫な体づくり。それに必要なこと。それをやると決めた。
そして、今、行動に移している。
周りからの意見を話半分に聞いて、無理をしない程度に歩み進める。
…………やっぱり、思考がフィルじゃない。前世のものだ。
だからといって、僕がフィルじゃないとは思わない。
なんでっていう、説明ができないけど、僕は僕だ。それは変わらない。
説明できないのが厄介なんだよな。説明できないから、僕がフィルだと証明できない。
…………しょうがないか。正直に分からないって言おう。
前世の説明は…………世界観自体は説明できる。異世界系のラノベで、そういう説明を沢山読んだ記憶がある。
これは大丈夫。問題が転生。
そもそも、僕が転生しているとは限らない。前世の記憶に異世界転生という概念があるから、勝手に前世と言っているだけだ。確証がない。
…………考えるの止めよう。これ、考えすぎると哲学になる。
グツグツ滾る鍋を見た。ちょっと、濁ってきている。
これ、どんくらい煮れば良いんだろう?
製法で時間が変わるよな……そもそも、製法を知らない。
味見して、美味しかったらそれでいいな。うん。
そういえば、麺どうしよう?小麦粉とか準備していない。
買った鍋も全部使っちゃってるし、今回はいいか。スープだけ飲もう。
次回は……次回あるのかな?まあ、いいや。次があるなら、次の時に考えればいい。
「坊っちゃま。まもなく、ご当主様と奥方様と、シルフィー様がお見えになるそうです」
「え?シルフィー姉様も来るの?」
シルフィー姉様は、すごく強くて、領城の地下にある高難易度ダンジョンによく潜っている。
この間、潜ったばかりで、暫く帰ってこないはずなんだけど……。
「何かあったの?」
「坊ちゃまが、領主にならないと聞いたらしく、説得に戻られたようです」
「そうか。トラブルがあった訳じゃないんだね?」
「はい。強いて言うならば、かなり急いで戻られたらしく、同行した騎士が力尽きています」
「それは…………大変だね」
僕の我儘で申し訳ない。騎士さんたちゴメン……。
「それにしても、父上、時間取れたんだね」
「坊ちゃまが話があると仰ったのは初めてですから。重要な話だろうと、予定を全てずらしておられました」
「それは……申し訳ない。夜、時間がある時でも良かったのに……。ああ、そうだ。時間がある時にって言ってなかった。あああ。申し訳ない……」
やってしまった。父上はとっても忙しいのに、緊急性のない話で、緊急召喚してしまった……。
「そう、お気に病まないでください。坊っちゃまも、お父君から、お話をしたいと言われれば、すぐに予定を開けますよね?」
「そうだけど……」
身分というか、立場が違いすぎる。
僕は小学生で、父上たちは仕事をしている社会人。比べるには無理がある。
「坊っちゃまは、まだ八歳でしょう?甘えてもいいのでは無いですか?」
う〜〜ん……甘えたい。甘えたいけどさ、前世で仕事三昧な生活をしていた記憶が、仕事よりも私用を優先させるのを咎める。
「ところで、坊っちゃま。何をお話になられるんですか?」
……サラに言っていいのかな?
人払いする気ないし、良いか。サラにとっても他人事じゃないし、言っちゃおう。
「僕ね、前世の記憶があるんだ」
「前世の……記憶ですか?」
サラはビックリしている。
まあ、当たり前だな。非現実的で、到底信じられないことを言ったんだから。
前世でもそういう話を聞いたことあるけど……前世の記憶があるって言った子供の親はビックリしていただろうな。
「この世界じゃない、別の世界。そこで生きていた記憶だよ」
「そんな……」
サラが膝を着いて泣き始めた。
そんなにショックなのか?
もしかして、異端審問にかけられるやつかな?
生まれ変わりは禁忌とか、そういうの?
え?どうしよう?隠した方がいい?今更?父上たち呼び出して、やっぱりなんでもない、とか言うの?
甘えたかったとか言って謝る?
サラはどうしよう。なんで泣いているか聞かれたら、すぐにバレる。
いや、聞かれるまでもなく、サラが報告するか。
そもそも、前世の知識を使わないと、僕の問題が解決できない。僕の存在を認めさせるしかないか……。
失敗すれば、処刑されるか?いや、お祓い的な儀式をやるのかな?
この世界の宗教は軽く勉強してるけど、前世持ちとか、その対処法とか、聞いたことない。
父上たちは認めてくれるかな?認められなかったらどうしよう?
敵とか言われたらヤダな……。緊張してきた。
「あの、ご主人様。私は、前世の記憶があっても、味方です」
「ありがとう」
奴隷の頭を撫でるが、奴隷の表情が硬い。尻尾もピンと立っている。
奴隷も不安なのかな?
僕に仕えるから、今の待遇なわけだし。僕に何かあれば、奴隷の待遇は一気に落ちるだろう。
前の生活に戻りたくないと言っていたし……頑張って地位を確保しないとな。
そのためにも、情報収集をしないと対策が分からない。
サラには聞けそうにない。未だに泣いている。
奴隷に聞いてみよう。
「前世の記憶がある人は、どんな扱いを受けるの?」
「わかりません……」
わからないか。
雰囲気で怖がっているだけか。僕と同じだ。
ともかく、奴隷だけでも守らなくちゃいけない。一蓮托生みたいな状況だし、僕の巻き添えを食らうのは可哀想だ。
守ると決めたら、なんだか勇気が湧いてきた!頑張るぞ!
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