第13話 ご休憩(健全……?)
休憩のために宿屋に入った。貴族用の宿屋だ。
護衛は部屋の外に控え、部屋の中には、僕とメイドと奴隷だけ。
「坊っちゃま、添い寝をして差し上げますね」
「そ、それなら私も!」
メイドは残念な人に戻り、それに感化された奴隷も残念になった。
いや、奴隷はぶんぶん尻尾を振って可愛いままか。残念なのはメイドだけだ。
「少し横になるだけだから。添い寝は要らない」
ベットに横になると、疲れを強く感じる。
体が強ばっていたようで、肩と背中と足に、じわーっと筋肉が解れていく感覚がある。
本当に、見えない疲れが溜まっていた。
言動は怪しいけど、気遣いはできる。優秀なメイドさんだ。
そうだ、買い出しを頼もう。
僕が直接選んでも仕方ないものが多いし。頼れるメイドさんに任せちゃおう。
「豚の骨と、ベーコンに使う部位を買ってきてくれる?」
「ぶ、豚の骨、本当に食べるんですか?」
「うん。骨自体は食べないけど、スープにして飲む」
「…………承知しました。手配します」
そんなに嫌なのか?子牛の骨で作るスープとか無いのか?
「あ、スープに入れる野菜もお願い。いい香りがするやつとか、臭みが消えるやつとか、旨みがある野菜」
「承知しました」
豚骨スープは豚骨と香味野菜で作る……と思う。
実は、豚骨スープの作り方わからないんだよね。
鶏がらスープの作り方はわかるから、そっちのやり方で作るつもりだ。……大丈夫だよね?
「他に、ご入り用の物はございますか?」
他に……何かあるかな〜……。キャベツ増し増し、しちゃおうかな。
「葉物野菜をお願い。できれば、生で食べれるものがいい」
「承知しました。他にご入り用の物はございますか?」
う〜ん……。無いかな〜。無いなー。
「無いよ」
「承知しました。手配して参ります」
メイドが退室し、代わりに護衛が入ってくる。
「ご主人様。私は何をすればいいですか?」
胸の前でガッツポーズをして気合十分。決意を決めた真剣な顔がかわいい。尻尾パタパタもかわいい。
何か頼んでみたいけど、何もないんだよな。
「ゆっくりしてて」
「…………はい」
悲しそうな顔もかわいい。でも、少し心が痛むな。
このままだと、奴隷の自己肯定感が低くなりそう。
自己肯定感が低くなると精神が弱って、本人だけじゃなく周りにも被害が出るんだよな。
物とか人に当たったり、他人を貶めて見下したり、認めて欲しくて変な言動をしたり、自分の快楽を満たすために無理やり……とか。
自己肯定感は、どれだけ自分を認められるか、というもの。
自分を認められれば、ストレスが減る。
ミスしたって、怒られたって、自分を責めないで反省するようになる。
そして、それは他人にも向く。
ミスしたって、怒られたって、相手を責めないで改善策を考える。
自分にも、相手にもイライラしなくなれば、自然と前向きになり、相手にも伝播する。
まあ、そんなに現実は甘くないが……。
前世の僕は、自分の快楽を満たそうとしていた。愛が欲しかった。ちょっとした気の迷いで、痴漢しそうになってた。あれは、本当にやばかった。
あの時はヤンデレ作品で愛を補給して、ギリギリ耐えていた。
自己肯定感を上げる方法を知って改善したけど、知らないままだったら警察に捕まっていただろうな……。
さて、奴隷が処分されないように、自己肯定感を上げてやらないと。
自己肯定感を上げるには、寝る十五分前にポジティブな振り返りをする必要がある。
今は寝る前じゃないけど、奴隷を褒めてみよう。
「君は可愛いね」
「え……?あ……えっと……」
あああ。照れてる。尻尾振ってる。かわいい。何か言おうとするけど、言えないのも可愛い。
「君がいてくれると、心が和むよ」
「んんんん……!」
顔を覆って俯いた。
泣いているようにも見えるけど、尻尾がブンブン元気よく振られている。
いい感じだ。もう一押し。
「僕の傍に、ずっと居て欲しいな」
「~〜ッ!はい!!」
元気いっぱいな返事。
ガッツポーズと共に露わになった顔は緩みまくっている。
成功だね。成功だな。我ながら上手くやったものだ。
傍にいて欲しいとか、前世だったらキモイと言われるだろうな。
たぶん、僕が命の手綱を握ているから、成功したんだろう。
うん。申し訳ないな。まるで、マインドコントロールしているみたいだ……。
何か償いしないと罪悪感があああ……。
「何か欲しいものとか、してほしいこととかある?やりたいことでもいいよ」
僕の自己肯定感が下がら無いように遠慮なく言って欲しいな!
「えっと、その……」
恥ずかしそうにモジモジして、なかなか答えが出ない。焦れったいなあ……。
「僕は君に何でもしてやりたいんだ。遠慮しないでくれ」
「んんん〜!」
くうっ!顔を覆って黙り込んでしまった!逆効果だったか!でも、すっごく可愛い!!
埒が明かないし、相手に焦燥感を与えよう。咄嗟に出た答えが本音ってこともあるし。うん。そうしよう。
「遠慮してる?何も無い?僕じゃダメ?」
「そ、そんなこと無いです!ご主人様がいいです!」
「そうか。よかった。何がいい?」
「ご、ご主人様がいいです!」
「ん?うん。……ん???」
よくわからなかった。
整理しよう。
何がいいかって?答えは、僕だ!
…………わかるか!!僕が何なんだ!?
え?どうしよう?無難に返す?どうにでも受け取れるような、薄っぺらい言葉で返す?
うん。そうしよう。どうせ僕には危害を加えられないからね。どう受け取られても大丈夫だ。
「いいよ」
「は、はい」
奴隷が近ずいてくる。
あの適当な返事に、ちゃんと意味を見出したみたいだ。
なるべく言葉を省いてコンパクトにまとめれば、どうにでも受け取れる文章になるのだ!ドヤァ!
奴隷がベットに上がってくる。
…………なんかドキドキするな。
美少女が近づいて来るドキドキ。何されるか分からないドキドキ。
二つのドキドキが相乗効果でズキズキに感じるほど、胸が高鳴っていく。
僕がズキズキしていると、奴隷が隣に寝て僕を抱きしめた。
キャアアアアア!抱かれたああああああ!
スゴい積極的!ヤバイ!嬉しい!愛おしい!胸がキュンキュンする!
え?カップルってこう言う気持ちなの?好きな人から抱きしめられると、身を任せて全部捧げたくなっちゃうの?
あああ!ズキズキが、キュンキュンと合わさって、相乗効果でズキュンズキュンになってる!胸が張り裂ける!
「坊っちゃま、ただいまもど……り…………」
メイドさんが来た。
なんか落ち着くな。落ち着くって言うか萎える。まるで鎮静剤だ。
「何やってるんですか!奴隷の分際でぇええ!」
本当に落ち着く。もうドキドキも何も無い。
とりあえず、ビックリして離れようとした奴隷を捕まえて片腕で抱く。
「僕は奴隷をどう使っても良いと言われている。君に怒る権利は無い」
「そうだとしても!なんで私じゃないんですか!?私、坊っちゃまの為に頑張ってるじゃないですか!私を使ってください!」
欲望丸出しのメイドなんて初めて見た。……いや、一昨日から見てるな、同じ人を。
領城のメイドは、極力喋らず、主の支持に従い、影で支える。
それに比べれば、このメイドはメイド失格だ。
でも、嫉妬で自己肯定感が下がれば、このメイドはもっとダメになる。
メイドにも自己肯定感を上げてもらおう。
「君も、好きにしていいよ」
「え?いいんですか?本当に好きにしますよ?」
なんだろう?身の危険を感じる。
でもまあ、このメイド、顔はいいし許しちゃおう。そうしよう。
「いいよ。僕になら好きにしていい。今なら何をしても不問にする」
「フッ!フフフフッ!フフフフフフフッ!」
あ、ヤバい。身の危険を感じる。怖い。
「フフッ!それでは、遠慮なく……」
うわあ……。目が笑ってない。目が笑ってないけど、限界まで口角を上げてる。
怖い感じに笑ってる。怖い感じの笑顔で近づいてくる。
「はあ……はあ……乱暴にはしません。大事な物も奪いません。だから、安心してください」
怖い感じの笑顔が、大事な安心要素を奪ってるんだよなぁ……。
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