第12話 体に悪いけど、体に良いかな?


 僕は健康食材を求めて市場を歩いていた。


 お店に並べられている肉を眺めて、ふと思った。


 豚骨ラーメンが食べたい!


 豚骨ラーメンは健康に悪い。

 塩分が多いし、コレステロールも気になる。

 そもそも、病弱な僕は、油っこい豚骨スープを体が受け付けないかもしれない。


 でも、食べたい。コテコテの豚骨スープが食べたい。


 あっ!そうだ!別に作ったものを僕一人で食べる必要は無い!

 僕は少しだけ味わって、残りは奴隷に与えればいいのだ。奴隷は健康体だし、成長期だし、骨のスープは栄養価が高くて体にいい。奴隷にピッタリだ。


 僕が作るんだし、塩分は調整出来る。


 コレステロールは男性ホルモンのテストステロンの原料だ。

 テストステロンは筋肉を作るのに役立つ。あと、記憶力も上がる。今の僕に必要なホルモンだ。


 うん。欠点は無い。無いったらない!あっても食べる!食べたいから食べる!


 お肉屋さんに足を向ける。


「いらっしゃいませ!」


「すいません。豚の骨をください」


「豚の骨!?」


「坊っちゃま!?」


 いきなり言うことじゃなかったか。豚の骨なんて普通食べないし。さすがにお店に並んでいないかな?


「骨はウチみたいなお店じゃ扱ってないよ。冒険者ギルドか、店持ちの肉屋に行ってくだせえ」


「そうか。わかった」


 市場の商人は店持ちじゃないのか。屋台みたいなものかな?


「坊っちゃま。豚の骨をどうするつもりだったんですか?」


「ん?煮込もうと思って」


「煮込む!?」


 メイドがヒステリックな声をあげる。


 そんなに驚くことかな?鳥の骨とか煮込んでスープとか作らないのかな?


「どうしてそのようなことを?」


「骨のスープは栄養が多いから。飲んだら元気出るかなって」


「骨のスープって……栄養が多いってどうして知っているんですか?」


「それは……」


 前世の知識なんだけど、それを言ったらどうなるんだろう?

 頭がおかしくなったって思われるかな?信じてもらえないかな?


 面倒だし適当に誤魔化そうかな。


「医学書に書いてあったの」


「医学書ですか?」


「そう。体が弱いの何とかしたくて、調べたことがあるんだ。何書いてあるのか全然わからなかったけど、骨は栄養があるって書いてあったのだけはわかった」


「そ、そうなんですね……」


 信じてくれたみたいだけど、引いている。


 まあ、いいか。このまま仕事に集中してもらって、素敵なメイドさんで居てくれるのも悪くない。


 お肉の区画を抜け、魚介のコーナーに来た。


 魚の骨なら出汁とってもビックリされないか?やらないけど。


 種類が色々ある。味も栄養素もまるで想像できない。ここはスルーでいいかな。


 軽く流し見ていると、大きな魚が目に入った。立派な魚だ。

 

 近づいてみる。


「いらっしゃい!何をお探しですか?」


「いや、大きな魚が気になって」


「ははは!こんだけ大きけりゃ気になりますもんね!」


 大人の身長はありそうなぐらい大きい。こんな魚居るんだなあ。

 そういえば、大型魚の肝臓って食べたらダメなんだよね。


「ねえ、この魚の肝臓って食べられるの?」


「食べられませんよ!王族にだって効く毒が入っているて言われてるから、食べない方がいい!」


 毒か。ビタミンA過剰症では無いのかな?


 レベルが上がれば体が強くなり、毒が効かなくなる。

 

 王族は皆レベルが高い。赤ん坊でも騎士よりレベルが高いという噂もある。

騎士ぐらいの強さだと、ほとんどの毒は無効化できる。

 そんな王族に効く毒。かなりの猛毒だ。誰にも無効化できないだろう。


「どんな症状が出るの?」


「頭痛とか吐き気らしい」


 ビタミンA過剰症の症状……はどんな症状だっけ?

 もし、過剰症なら、毒と言うより体の不調。

 

 ていうか、この世界にもビタミンAあるのか?同じ働きをするの?


 まあ、考えても仕方ないか。わからないし。


 一日に必要なビタミンを摂取するには、大量に野菜を食べないといけないってCMなんかで言ってた。

 だから暴食しなければ、基本的にビタミンの過剰症は無い。むしろ、足りないぐらいだから野菜ジュースとかサプリメントが売れてるんだけど……。


 ビタミンには水溶性と脂溶性がある。

 

 水溶性ビタミンは、使わなかった分が尿に溶けて排出される。だから、水溶性ビタミンの過剰症は無い。


 脂溶性ビタミンは、尿に溶けない。体脂肪に溶ける。

 だから、使わなかったものが体に残って、薬の副作用みたいに悪影響が出る。


 そんなに大量の脂溶性ビタミンを食事で取れるとは思わないが、例外が大型魚の肝臓。濃厚なビタミンAが入っているらしい。

 

 だから、普段は見向きもしないのだが……。


「ちょっとだけなら大丈夫かな?」


「大丈夫じゃねえ!」


「坊っちゃま、お止め下さい!」


 まあ、止められるよね。


「ちょっとずつ食べれば、毒耐性が――」


「ダメです!坊っちゃまは体が弱いのですから、絶対だめです!」


「だよね。あはははは……」


 健康食材、鮫の肝油。

 体の弱い子供に与えると、健康になるって言われている。

 体が強くても健康に育つと思うが……まあ、あえて飲ませる必要もないな。


 アレは深海ザメの肝油。大型魚の肝油では無いのだが、目の前にあるもので代用できないか気になってしまう。


 代用できたとしても、成分を調整されているサプリメントとは違うし、どのくらいが適量かわからない。


 そもそも、深海ザメじゃないと意味が無さそう。

 

 何とか水素……なんだっけ?まあいいや。

 血中酸素をあげる物質と、母乳に含まれる免疫物質が、体の機能を維持してくれるらしい。

 その成分が多いから、サメの肝臓がいいのだろう。

 

 この魚じゃないだろうし、どの道、諦めるしかないか。


「邪魔したね」


「い、いえ!またお越しください!へへへ……」


 店主さん、顔が引きつっていた。

 見るからに身分が高そうな人が、いきなり「魚の肝臓を食べたい」って言ったらビックリするか。


 …………さっきの肉屋さんで「豚の骨ください」って言った時も、同じ理由でビックリされたんだろうなあ。


 遠い目になったが、気を取り直して海藻探し。


 ザッと見て回るけど、それっぽいものは無い。

 そのまま、市場の外に出てしまった。


 海藻は売られていないのかな?それとも、野菜のカテゴリーだった?


 もう一度さがしてもいいが、少し疲れた。


「近くに休憩できる場所は無いかな?」


「でしたら、宿屋に向かいましょう!」


「近いの?」


「馬車を使えばすぐです!」


「そうか。じゃあ、馬車で休もう」


 休むだけだ。座れればそれで良かった。


「え?馬車ですか?声や音が漏れてしまいますよ?」


「馬車の中で何をするつもりなのかな?」


「そんなはしたないことを、私の口から聞きたいのですか?恥ずかしいですけど、坊っちゃまになら……」


 このショタコンは八歳に何を求めているんだ。衛兵を呼ぶべきか。しかし、領城のメイドが捕まったとなれば、父上の評判が下がるかもしれない。


 ここは僕がビシッと言うべきだな。


「黙っていなさい」


「はい。かしこまりました」


 ガチトーンの命令には素直に従うのか。

 今までの態度は僕が注意しなかったから?僕の監督責任か。

 貴族たるもの、しっかり教育するべきだな。

 あ、でも、僕って雇い主じゃないんだよね。雇い主は父上。勝手に教育するのはマズイか?


 わからないなあ。


 悩んでいると、馬車がやってきた。


「どちらに行かれますか?」


 メイドが答える。


「宿屋に……」


 このメイド、何がなんでも宿屋に行かせるつもりだ。

 

 教育が必要か?教育が必要だよな?


「坊っちゃま。一度、横になりましょう。歩き続けるのは、見えない疲労が溜まります」


 仕事の顔だ。メイドが仕事の顔をしている。真面目なやつだ。

 実はさっきから真面目だったのか?ふざけた調子で真面目なことを言ってたのか?


 でも、従う必要は無い。雇い主では無いが、主だ。僕に決定権がある。……あるのか?メイドは保護者扱いではないか?僕は八歳だし、従うべき?


「さあ、坊っちゃま。馬車へ」


 くうぅ……!仕事の顔のメイドさんには抗えない!

 綺麗!かわいい!エスコートが素敵!


 僕は女性に勝てないなあ……と思いました。

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