第十六話 四人で桃鉄やったことってないんだぁ
俺の家に入った女子生徒が三人に増えてる。
拠点に仲間が増えてるみたいで嬉しいなー。
とはならないよな。
状況が状況だし、仕方ないとはいえ絶対よくない流れだ。
ソファではまだ落ち着かない白石の背中や肩を
吉田がさすってなだめてて、
俺は台所のテーブルで村瀬と向き合って座ってる。
とりあえず二人ともスマホで情報収集。
「どうやら、間違いではなさそうですね」
「うん。教員用のメッセージにも通知が来てる。
事故だそうだ。
三年生の担任教師は夜から緊急会合だな」
「できるだけ情報を集めてきてください。
私たちも他の生徒に聞いてみます」
「それはまあ、いいんだが……」
俺はソファのほうを見る。
あの状態の白石を一人にするのは心配だ。
「大丈夫だよ、サリにはあたしたちがついてる。
さっきサリママに連絡して、
今日はうちに泊めるって言っておいたから」
「当たり前のようにうちに居座るな。
本当に吉田君の家に泊めればいいだろ」
「それだと先生もカリンの家に泊まらないとダメですよ。
サリちゃんはたぶん、先生のいるとこにいたいですから」
「カリン?」
「吉田さんのことです。会話の流れで察してください」
「そんな名前だっけ? 名前だけはお嬢様だな」
「中身もお嬢様だわ。
パパにお願いしたらセナコーのクビが飛ぶ系のやつ。
あ? なんだよサリ? セナコーをいじめんなって。
もち、許す」
なんか知らんが許された。よかった。
こいつら見てるとリディアとクロムを思い出すな。
甘やかされてる白石がエリン様。
「そんなことより今はフェアウエルです。
先生の、見せてもらえますか?」
なんだか村瀬に仕切られてるな。
授業とかでは積極的に発言するタイプじゃないんだけど。
高校生にもなれば、
みんな立派なペルソナを持ってるってことか。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、知らない間に何人かとマッチングしてる」
白石が走ってきてスマホを覗き込む。
元気じゃん。
「先生、このカルメンって誰?」
「知らん」
「美人?」
「知らんっつってんだろ」
「じゃあなんでマッチングしてんのよ」
「知らない人とマッチングすんのがマッチングアプリでしょ」
「はいはい、夫婦喧嘩は後にして。
ねえ、サリちゃん、このリングが終わる日を示してるの?」
「え、うん。
数が多くなると重なって色が変わるんだって。
ねえ、村瀬いま私たちのこと夫婦って言った?」
「んー、どこにもそんな説明ないみたいだけど?」
「夫婦に説明はいらないよ?」
「アプリの話だ」
「ねえ、紅茶飲む人~?」
「「飲むー」」
なに馴染んでんだよ、お前ら。
吉田はどうして紅茶の場所がわかるんだよ。
しかも全員がマイカップ持ってきてんじゃねえか。
「リングの話、誰かに聞いたんですか?」
ちょっと元気が出てきた白石だったが、
村瀬の質問で投げ落とされたみたいに椅子に腰かけた。
「……カナ」
空気が重くなる。
白石はうつむいて、
吉田はみんなに背を向けたままお湯が沸くのを待ってる。
人が死んでる。当たり前だ。
こういう空気になるのをわかったうえで聞くことができる村瀬。
俺より大人だ。
見習わないとな。
「カナとは知り合いだったのか?」
白石は小さくうなずく。
「中学から一緒。同じクラスになったの一回しかないけど」
「もしかしてフェアウエルも……」
「うん、カナから教えてもらった」
そういうのはダメだとわかっていてもため息をついてしまう。
村瀬に足、蹴られた。
吉田に舌打ちされた。
「なあ、あたし今からヤバいこと言ってい?」
吉田が紅茶をカップに注ぎながら神妙に言う。
みんなそれを一口すすって同意した。
「これって呪いのアプリとかなん?」
あ、村瀬、冷笑した。
白石は俺の反応じっと見てるな。
呪い、ね。
異世界に行くのとどっちが非現実的だ?
「真っ先に考える可能性ではない。
ただ、白石が終わる日に襲われ、二人が事故にあってる。
まったくの偶然とも言い難い。
他にフェアウエルを使ってる生徒を知らないか?」
「話題にはなってたから入れてるやつはいると思う。
でも、カナたちのこともあるし、
今は使ってるって自分から言うやつはいなさそう」
「わかっている範囲ですけど、
被害にあったのがうちの学校の生徒だけ、
ていうのも気になりますね。
誰かが日付を知って意図的に事件を起こしたというのは?」
「被害にあってるのはうちの生徒だが、
加害者にあたる人物は学校とは無関係だ。
誰かの意図が介在したと考えるには範囲が広すぎるよ」
「ねえ、先生。このアプリ、消したほうがいいのかな?」
「うーん、そいつから情報が抜かれてるってのもあるかもなあ。
でもなあ……」
「私は消さなくていいと思います。
それで終わる日がなくなるとも思えませんし。
こちらはただ情報を失うだけです」
「冷静だね、村瀬。
セナコー、こういうときの村瀬は頼りになるよ」
こういうときって、他にもこんなことがあったのかよ。
意外とマンガキャラだなお前ら。
「わかった。
とりあえず、会合でフェアウエルについて触れておくよ。
うまくすれば学校側から注意喚起できるかもしれん。
使う生徒を増やしたくはないからな」
「そっか、頼んだ。
じゃあ、セナコーが戻るまで何してよっか?」
「お前ら帰んねーの?」
「こんなサリを一人にできるわけねーだろ。
村瀬も泊まってくだろ?」
「はい。先生の家もいろいろ家探ししたいし」
呼び鈴が鳴って、身構える俺をアホを見る目で見てから吉田
──もうカリンでいいか──が勝手に応対した。
おいちょっと待て、ご近所さんだったらどうすんだ?
あの、カリンさん? その人たちなに?
なんで高級家具店の人が勝手に入ってくんの?
婆ちゃんの部屋にふわっふわの布団セットしてんだけど。
「サンキュー、いつもあんがと」
お店の人たちが帽子取ってカリンに深々とお辞儀してる。
こいつマジでお嬢様なのか?
「ねえサリちゃん、何年にする?」
「んーとねー、五十年」
「貫徹コースだね」
「いーよいーよ、どうせこんなんじゃ寝れないし。
帰ったらセナコーも参加な」
そして始まる貫徹桃鉄。
俺が即拒否しなかった理由は三つ。
一つは最近スイッチを動かしていなかったこと。
あいつも女の子三人に遊んでもらえてさぞ嬉しかろう。
二つめはカリンと村瀬がちゃんと白石の友達だってこと。
呪いのアプリなんてバカげてる。
でも終わる日に死にかけた白石が不安でないわけがない。
誰かが眠れない夜には一緒に眠れない夜を過ごす。
そういうのが友達ってもんだろ?
ていうか、俺がそういう友達にずっと憧れてた。
三つめは、これは結構恥ずかしいんだけど。
あのさ……
俺……
四人で桃鉄やったことないんだぁ。
「できるだけ静かにしてろよ」
「うす」
「一番信用できん返事やめろ」
「「「はい」」」
「よし、じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい、あなた」
誰がだよ。
すかさずスマホでカメラ構える村瀬は何を期待してるの?
家から出て、俺は玄関前でしばらく中の様子を伺ってた。
もちろん俺はあいつらを信用してるよ?
どうせ静かにできるわけないって。
一分も経たないうちにデカい声で騒ぐのが聞こえてくる。
でもいら立つ内心とは裏腹に俺の顔は笑ってた。
ちゃんと白石の声も聞こえるから。
あいつが不安を忘れていられるなら、
ちょっとくらいうるさくてもいいじゃないか。
それに、駅に向かって歩きながら思うんだ。
ちゃんと鍵かけたかな、とか心配してない。
静かで暗くて、
冬は寒くて夏は暑い家に帰るのが憂鬱になるなんてのも、
今日ばかりは考えなくていい。
別に帰ったらあいつらが寝ちまっててもいいんだ。
ソファで折り重なる猫みたいに寝てるあいつらを見て思うだろう。
家に誰かいるって、やっぱいいよな。
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