第33話 意外です
相川が、平井への気持ちを『友情』だと勘違いして、心のモヤモヤが消えた。
そして、将来を考えるのを中止した。
獅童にウザ絡みして、深山に怒られたり意気投合したり、話したいなーと思った人に話しかけたり、自由気ままに過ごした。
そして、今は昼休み。相川は、日向と獅童、それと深山の四人でご飯を食べようと思っていた。
今いるのは、相川と獅童、日向。後は深山だけだ。
「先輩、来ませんね……」
先輩、
「ミヤは友達と食べるそうだ」
そう言いながら、獅童が弁当の蓋を開ける。白米と梅干し、卵焼きのシンプルな弁当だった。
「先輩が獅童さんを放って置くなんて珍しいですね。飽きられましたか?」
「彼氏がボッチなのは嫌だから、昼休みに友達を作って欲しいそうだ」
「それで、お邪魔にならないように先輩が席を外したんですね」
「ああ、そういうことだ」
「それなら、いっぱい友達作らないとね!私も協力するよ!」
「別に協力しなくていい。変なやつと関わっても面倒だしな」
そう言って、相川に視線を向ける。その変なやつは、視線の意味を正しく理解して、ニッコリ微笑む。
「獅童さんは変な人に弱いですからね♪私とかー♪先輩とか♪」
「やかましい」
嫌味に嫌味で返された。
「それにしても、先輩が居ないなら悪い虫が着きそうですね。友達は友達でも、ガールフレンドとか」
「ふんっ。そもそも、女友達を作る気は無い」
「いや、ガールフレンドは彼女っていう意味で、女友達では無いですよ」
「え?そうなの?私、ずっと、女友達だと思ってたー」
「私も初耳だ。適当に言ってるんじゃないだろうな?」
「英語って難しいから、間違って覚えることもあるんじゃない?」
「相川は頭いいんだが……まあ、そんなこともあるだろう」
「え?なんですか?この、私が間違っているみたいな流れ……」
間違って覚えているのは、獅童と日向なのだが…………多数派が正しいと勘違いするのは世の常だ。
「それより、ご飯食べよう!お腹すいたー!」
日向が弁当の蓋を開ける。パンとサラダ、ソーセージ、容器に入れられたドレッシングらしき液体。男子高校生にしては、カロリーの少ない、シンプルでオシャレな弁当だ。
「日向さんのお弁当、オシャレですね」
「ご飯は、目でも味わうものだからね!見栄えにもこだわるよ!」
まるで、日向が作ったような言い方だった。
「日向さんが作ったんですか?」
「うん!家がレストランでね、そこで働くつもりだから、練習してるんだ!」
「へえー、そうなんですね!」
ふと、相川は疑問に思った。
「どうして、この高校に来たんですか?料理の勉強はしませんよ?」
この高校の近くには、食品加工の学科がある農業高校と、料理の学科がある私立高校がある。
料理の練習をするのなら私立高、学費が払えないなら農業高校に行くのが無難だ。
この高校は普通科しか無く、学費も高めになっている。現実的とは言えない。
「料理の練習は家で出来るから、青春を楽しみなさいって言われてね、ここになった」
「あー。ここ、ゆるいですからねー。青春を楽しむならピッタリかもしれません」
校則がゆるくて、化粧も髪型も自由。それと、宿題がないという噂がある。
その噂は、「長期休暇中はバイト三昧か遊び三昧になって、休み明けの実力テストで泣くぞ」という怪談だが、他の学校よりも青春は楽しめそうだ。
「それじゃあ、私といっぱい思い出作りましょうね!」
「うん!あらためて、よろしくね!」
「はい!よろしくお願いします!」
「獅童くんも、よろしく!」
「私もか……よろしく」
イマイチ乗り気じゃない獅童に、日向がジト目を向ける。
「なんで、自分は関係ないみたいに思ってるの?私たち友達じゃん」
「そうだったのか?なら、ミヤの要求は達成できたな」
「いや、なんで他人事なの?」
友達と思われてなさそうで、日向のジト目の圧が増す。
「獅童さんはこういう人なので、気にしない方がいいですよ。基本的に、先輩以外には無関心なので、図々しく接するくらいがちょうどいいです」
「お前は図々しすぎるがな」
「はっはっは!」
獅童にジト目を向けられた相川は、図々しく笑い飛ばした。
「さて、ご飯を食べましょう」
相川が弁当の蓋を開ける。唐揚げや卵焼きなどが入った、お弁当って感じのお弁当だった。
「なんていうか、普通」
教科書やテレビのイメージ画像で使われそうなくらい普通。つい、普通と言ってしまうくらい普通。
「お弁当の盛り付けは父がしているんですが、今日は調子が悪かったみたいです。いつもは綺麗に盛り付けるんですよ」
そう言って、相川が写真を見せる。
「綺麗って言うか、芸術的?」
お弁当に絵が入っていると思った。芸術的なキャラ弁のような、すごい見た目。
「普段の料理もこんな感じで盛り付けてるの?」
「んー……普段は母が作るので普通ですけど……父がスランプの時とか創作意欲が溢れてる時は、オシャレになります」
「その写真とかある?」
「無いです。ただオシャレなだけなので、わざわざ撮ろうとは思いません」
「普通は、オシャレってだけでも撮ると思うけど……見てみたいな……」
「そんなに見たいですか?」
「うん。オシャレな盛り付け出来るようになりたいから。参考になるかなって……」
日向が肩を落として落ち込んだ。小柄な日向が更に小さく見える。
小動物っぽさもあり、庇護欲を掻き立てられ、相川は胸が苦しくなった。
「それなら今度、私の家に来ませんか?ごちそうしますよ」
「いいの?」
「はい。きっと父も喜んでくれると思います」
ついでに妹も紹介してしまおうか?相川は思いを巡らせる。
「あ、そうだ!コスプレの打ち合わせもしましょう!人数が多くなりそうなので、父にも協力してもらわないといけませんし」
「それじゃあ、みんなの予定も聞かないとだね!ふふふ♪楽しみだな♪」
楽しくお喋りしながら食事が進む。そして、相川はある事に気づいた。
「それ、油ですか?」
日向の弁当に入っていた、ドレッシングらしき液体が入った容器。その中身は、油と調味料が分離している様子は無く、油っぽいとろみだけがあった。それに、野菜やパンを浸けて食べている。
「うん。そうだよ。揚げ油と塩を混ぜてる」
「ええ……」
なんで、揚げ油?もう、それ、廃油じゃん。健康に悪そう。
相川は眉をしかめた。
「揚げ油って言っても、調味油だから、変なものじゃないよ」
「でも、揚げ油ですよね?」
「そうだけど……うーん……」
日向家では、調味油と揚げ油は ほぼ同じだ。料理の一手間として野菜を揚げるし、その時に揚げ油が調味油になるように調理する。
これは、日向家の家庭内文化のようなものだ。それを、家の外の他人にどう伝えるか?日向は、カルチャーショックを受けながらも考える。
「……アヒージョって食べたことある?」
「ありません。油が多くて体に悪いからと、禁止されています」
「オリーブオイルなら大丈夫だよ。健康に良いから」
「ですが、油が多いですし」
「オリーブオイルなら大丈夫!」
「なんですか?その、オリーブオイルへの信頼」
「だって、体に良いもん。聞いたことない?」
「いや、ありますけど……」
なんとか酸が体に良いと、テレビであっていた。なに酸か忘れたが、酸が体に良いのだろう。……酸っぱかったかな?相川は首を傾げる。
「とにかく!オリーブオイルは体に良い!そして、野菜の旨みが溶けだした、アヒージョの油は美味しい!パンを浸けて食べると美味しい!聞いたことない!?」
「聞いたことありますけど……」
食べたくはない。美しい体づくりのために、脂質は控えめにしている。
そもそも、油を大量に使うアヒージョは悪魔の料理にしか見えない。
パンをアヒージョのオイルに浸けて「うーん♪おいしいー!」って言ってるテレビの人を見て、ドン引きしていた記憶がある。ほぼ油なのに、美味しいって言ってられるのか?
まあ、そもそも、悪魔の料理を食べている時点でドン引きなのだが……。
「そういえば、日向さんのお弁当、油、多いですね……」
サラダに目を引かれて勘違いしていたが、日向の弁当はハイカロリーだ。主に油が。
サラダとパンに使うであろう大量の油。見ているだけで胃もたれしそうだ。
「オリーブオイルは体に良いからね!」
「なんですか?その、絶対の信頼……」
体に良くても、限度がある。
「太りますよ」
「大丈夫!オリーブオイルは太らないから!」
「なんですか?その絶対の信頼。宗教か何かですか?」
「いや、本当に太らないんだって!」
「はあ……?」
そんな訳ないだろと思いながら、相川はネットで調べる。
「……バランスが取れている食事で、適度に摂取すれば太らないそうです。日向さんは……摂りすぎです」
「そうかな?」
誰が見てもそうだと言う。それくらい多いと、相川は思う。
首を傾げる日向を横目に、『オリーブオイル ダイエットにいい?』の項目を見てみる。
「……オリーブオイルのオレイン酸に脂肪燃焼効果があるそうです。それと、糖の代謝にも関わっていて、ダイエットに効果的だそうです。……でも、日向さんは摂りすぎだと思います」
「そうかな〜?私、痩せてるんだけど……」
「いや、どうして痩せてるんですか?」
相川は、運動と食事でスタイルを保っている。努力しているのだ。なのに、なんで、妖怪
「オリーブオイル食べているからかな?」
「そんなバカな……」
理不尽だ……。
その後も、やいやい意見を交わすが、日向がなぜ痩せているのか分からなかった。分かったのは、日向がオリーブオイル信者(日向非公認)ということだけだった。
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