第27話 誤解
相川は妹弟と喧嘩して仲直りできず、「朝ごはんですよ」と声をかければ「お兄ちゃんと一緒に食べたくない!」と言われ、ショックで荷物を持って家から飛び出した。
昨日の夕方から、妹弟は部屋にこもって出てこない。晩御飯も別だった。
あからさまに喧嘩しているのだから、当然親も気づいているが、仲裁に入る気がない。
母は、兄妹で付き合ってることを良く思ってない。この機会に別れて欲しいと思っている。
父は、母も悠里も妹弟も大好きで、誰の敵にもなりたくない。誰の味方をすればいいか迷っている。
家の中に、悠里の味方はいなかった。
コンビニで朝食を済ませ、かなり早い時間に学校に到着。沈んだ気持ちを紛らわせるために、ゲームをしていた。
『兄さん。早起きですね。今から一緒にランニングしませんか?』
「はい。一緒に走りましょう」
ゲームキャラのセリフに返事をする。
昨日の夕方から、妹弟とあまり会話をしていない。ゲームキャラのセリフに返事しないと、禁断症状でどうにかなりそうだった。
ゲームキャラと話している時点で禁断症状が出ていると思われるが、本人は気づいていない。
そうやって気を紛らわせていると、廊下から物音と話し声が聞こえた。
「誰でしょうか?」
話の内容は分からないが、声色から言い争っているように聞こえる。
気になって扉を開けた。
「「うわあっ!?」」
尾田と平井が身を寄せあっていた。
尾田は、後ろから平井の両肩を掴んでいる。平井は、尾田に体を預けるように密着、片手で尾田の制服の袖を掴んでいる。
二人揃って驚いた顔をしており…………。
「あ、お邪魔しました」
「待つでやんす!」
「待ってください!誤解です!」
イチャイチャしていると勘違いした相川が扉を閉めようとし、尾田と平井がそれを必死に止めていた。
「別に、勘違いしてないですよ。私は何も見てません」
「それは、何か見て勘違いした人のセリフでやんす!」
「さっきのは、尾田さんが肩を押すから、背負い投げをしようとしていただけです!」
それを聞いて、ピタリと相川が動きを止める。
「わかってくれたでやんすか?」
「はい。わかりました。勘違いだったようです」
「良かったでやんす」
尾田と平井は胸を撫で下ろす。
「私は御手洗に行ってくるので、これで……」
相川が教室から出ようとする。
「いや、待ってください!まだ、誤解してますよね!?」
「そうなんでやんすか!?」
尾田は気づかなかったが、コミュ強の平井は気づいた。このタイミングでの御手洗。さりげなく、教室で尾田と二人きりにしようとしている。
気づかれてしまっては仕方ない。相川は開き直って、平井の説得に方針を変更した。
「尾田さんは、とても優しい方です。昨日の夕方、私の行動に怒りながらも、真摯に相談に乗ってくれました」
「尾田さんがそういう人なのは、わかっています。ただ、尾田さんへの恋愛感情は無く、お付き合いもしていません」
尾田と付き合ってることになれば、彼氏の影響でオタク趣味ができたと思われかねない。誤解を解きたい。
オタバレをしたくない、平井の必死のいいわけ。それが逆に、付き合っているのを隠しているようにしか聞こえなかった。
「そうですか。しかし、尾田さんが優しい人だと分かっているほどに、仲が良い」
ビクッ!
事実を言い当てられ、思わず反応してしまった。
それを、見逃す相川では無い。幼い頃の
「昨日は初めて話すと仰っていましたが、本当は何度も話していますね?そして、それを隠したい訳がある」
「それは……」
普段ならいくらでも言い訳できる。しかし、焦って取り乱して失言して追い詰められている今、上手い言い訳ができない。
平井の沈黙を肯定と受け取り、相川が口を開こうとした所で、尾田が口を挟む。
「平井氏はアンチでやんすよ?隠したいに決まっているでやんす。ワイと平井氏の事情は、昨日話した通りでやんす」
「では、一緒に登校したのは?親しくなければ、こんなに朝早く登校しないでしょう?」
この質問には平井が答える。
「昨日、尾田さんから相談されました。相川さんが困っていると。それで、朝早く登校することになったんです」
「私のために……ありがとうございます」
両親には頼れなかった。味方はいないと思っていた。
でも、クラスメイトに力になってくれる人がいる。それが嬉しかった。
「気にしないでください。同じクラスの仲間じゃないですか」
そうだ。仲間だ。仲間がいる。
それが嬉しくて、同時に申し訳なくも思う。
「すいません。二人の関係をさんざん疑って。追求することではありませんでした」
「それはいいのです。もう済んだことですし……」
とりあえず、尾田と平井が付き合ってるという疑惑は無くなりそうだ。平井は胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます。二人の関係がバレそうになった時は、私も誤魔化すのを手伝います」
「やっぱり良くないです!今すぐ誤解を解きます!」
いろいろと怪しい行動が目立つ相川だ。誤魔化そうと口を開けば失言するだろう。そして、ありもしない関係が公然の事実として扱われる。
恋バナにおいて、否定は肯定と受け取られやすい。赤裸々に話すのは一部の人だけだ。秘匿派が大多数である以上、正直に話しているとは思われにくい。下手な否定は恋バナの燃料にしかならないのだ。
「あまり、否定しては尾田さんが可愛そうですよ」
「尾田さんは可哀想な人なので今更です」
「平井氏、喧嘩売ってるなら買うでやんすよ」
平井は冷静じゃなかった。下手な否定は恋バナの燃料だと分かっているにも関わらず、下手な否定をしてしまった。
尾田がフォローにならないフォローを入れるが、無視される。
「まあ、そういうことにしておきます」
クラスの仲間だ。この話はここまでにしよう。相川が区切りをつけようとするが、言葉が悪かった。
誤解を解きたい人に対して、わかっていないと言うような内容。当然、平井は食い下がる。
「そういうことも、なにも、本当に付き合っていません!」
「そうでやんすよ。ワイも、平井氏はゴメンでやんす」
「ふんッ!!」
「
平井が尾田の足を思いっきり踏みつける。
尾田はフォローを入れたつもりだった。しかし、女として軽んじる発言を平井は許せなくて、暴力を振るってしまった。それが、さらなる勘違いをうむ。
「そういう事ですか。では、私が一肌脱ぎましょう」
「何を言っているのですか?」
「お付き合いはしていなけど、尾田さんのことが好きなのでしょう?」
「なぁ!?」
平井が目を見開く。その反応を肯定と受け取った相川が追撃する。
「昨日、尾田さんと話した時、平井さんのことが好きだと言ってましたよ」
「え!?」
ちょっとニヤケながら、平井は尾田を見る。
「そんなこと言うわけないでやんす」
「ふんッ!」
「痛っったぁああ!」
平井は尾田の足を踏みつけた。
「かまをかけただけなんですが……当たりのようですね」
「あッ!?」
今気づいた。尾田が、平井を好きだと言うはずがない。
尾田は、BLの資料になるのを恐れて恋愛感情を向けてこないのだ。
取り乱して、焦って、思考が乱れていた。しかも、素の自分が出ていた。
自分を隠さなくていい尾田と二人で登校した余韻が残っていたのだろう。切り替えができていなかった。
「こ、告白してないのにフラれたみたいで、カッとなっただけです!別に、尾田さんが好きとか、そういうんじゃないんで、勘違いしないでください!」
「ツンデレキャラみたいでやんす」
「ふんッ!」
「痛っったぁああ!」
平井は尾田の足を踏みつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます