裏社会からの手紙 返信

   ✉


 まったくオマエも相変わらず口が悪いな。いくら手紙ったって、もう少し言葉遣いっての考えたほうがいいぜ。アホに見える。まぁアホには違いないか。

 

 だがまぁ、忠告には感謝してる。ついで言っとくとなんとなくは分かってた。だいたいオマエがオレをアホだと思ってるのがむかつく。わざわざ言われなくても、んなもん、どうとでもなるし、だいたいオレが奴らに出し抜かれるなんて100ぺん死んでもありえねぇから。


 だいたいよ、たしかにオレとオマエはガキの頃からの腐れ縁だけど、今はナワバリめぐって敵同士じゃねぇかよ。昨日の敵は今日の友じゃねぇんだよ、昨日の敵は今日も敵だよ。明日も明後日も敵だ。


 でもまぁなんか不思議なもんだな。こうやって手紙書いてるとオマエがいい奴に思えてくんだから。でもな、礼なんか言わねぇぞ。オマエはオレに死なれちゃ困るから、つまり利用する腹づもりなのはわかってんだ。でもオレはおまえの掌の上で踊るつもりはねぇから。踊んのはオマエの方だから。


 おっと、そろそろ血が足りなくなってきたな。それでなくても、もうだいぶ血が出ちまったんだ。腹に空いた鉄砲傷に指突っ込んで手紙書いてるなんて、ホント、オレもアホとしか思えねぇ。でもペンと紙を持ち歩いてるギャングなんて聞いたことねぇし。いや、オマエは持ち歩いてそうだな。だから手紙届いたわけだしな。


 さて、無駄話もこの辺で終わりだ。生きてても死んでも、オレはこれから地獄に行く。地獄がどんなにひでえとこだって、天国はオレのガラじゃねぇからな。


 だが地獄に行くにしても一つだけ楽しみにしていることがある。

 地獄にいりゃ、必ずオマエとまた会える。


 そしたらまた二人でさんざ暴れまわって、地獄を地獄に変えてやろうぜLET'S TURN HELL INTO HELL


   ✉ 



 ふぅ。オレは赤いインクでその手紙を書きつけた。

 まぁさすがに本物の血は使えない。なにかしら痛いからな。

 でもこの手紙はかなり鬼気迫るものだった。だからそれなりの返信を書かなくちゃならない。


 


 それが代筆屋の仕事だ。そうしないと往信の手紙は浄化されないし、浄化されないとフヨウちゃんもあのままだ。


「カラウリ先生、返事書けた?」

 とフヨウちゃん。ちなみに子供用の着物を大人が来てるわけで、かなりきわどいミニワンピースみたいになっている。正直かなり目の毒だ。


「フヨウちゃん、ひょっとして文字読めるの?」

「んなわけないじゃん」

 なんか蓮っ葉はすっぱなしゃべり方だ。とてもあの可愛いフヨウちゃんと同一人物とは思えない。


「どれ。じゃあさっそくいただきまーすっ!」

 フヨウちゃんは唇をすぼめ、それから大きく息を吸い込んだ。同時に手紙から赤い文字が剥がれていき、フヨウちゃんの口の中に吸い込まれてゆく。フヨウちゃんはそのすべてを吸い込み、うっとりと目を閉じた。


「なんか、ごちそうさまでした」

 目を開くと同時に、オレを見て意味ありげにフフフと笑う。

 あれ? なんかそんな風に書いた覚えはないんだけど。

 こっちも鬼気迫る感じで書いたんだけど。


「なにそれ? 点数?」


「違う違う。青春ブルースプリング&バイオレンス&ボーイズラブ」

「え? そんなの書いてないけど……」

「いやいや、書いちゃってますよ、カラウリ先生。ひょっとして無意識?」

「いやいや……なんか勘違いしてるって」


 と答えた時にはフヨウちゃんの体はするすると縮み始めていた。

 どうやら、往信は無事に浄化されたようだ。


 しばらくすると、フヨウちゃんは元のフヨウちゃんに戻った。


「あれ? カラウリしゃん、泣いてるですか?」

「いや、なんでもない、大丈夫」

 なんか読み手によってこうも内容が変わるとはちょっとショックだったのだ。


「それより味はどうだった?」

「うーん……なんかアチチでした」


 アチチ、ね。 

 ちなみにバイオレンスはヴイだからね、とオレは心の中で付け加えつつ、フヨウちゃんのサラサラのおかっぱ頭を撫でたのだった。


「おかえり、フヨウちゃん」

「ただいまでしゅ、カラウリしゃん!」




 ~かしこ~


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